第113話 技能試験⑳ - 独自試験(廷々紫)3
ハーバリオンの猛攻にクリュッカの狙撃。このまま守りに徹していても一人ではいずれ……。
「仕方ないですね」
まだ調整中だけどやるしかない。シミュレーションとはいえ戦闘データが取れるのも悪くないし、
「――戦陣・
* * *
紫はかなり防戦一方に見える。クリュッカに狙われながらハーバリオンが空中戦を展開しているからだ。
〈クリュッカを無視して一気にハーバリオンを封じに行った廷々さんでしたが、ハーバリオンの反撃に苦戦している様子! このまま削られてしまうか!?〉
〈確かにこのままでは危ないですね。いくら防陣が優れているからといっても魔力が尽きてしまうと意味がありません。――ですが、廷々さんはこのまま終わるつもりはないみたいです〉
的場の言う通り、紫の眼には明らかな強い意志が宿っていた。まだ諦めてはいない。
〈おーっと!? これはいったいなんだ!?〉
術式が幾重にも展開して紫の身体を包み込むと、ドレスが和服から青い鎧のようなものへと変わった。
〈ドレスが変わった!?〉
〈これは……珍しいですね〉
〈ドレスの変更はできるものなんですか?〉
〈システム的には可能ですが、戦闘中に変更するというのは聞いたことがありません。もしかしたら、これもまた陣の一種なのかも知れませんね〉
〈術式はドレスも変えられるんですか!?〉
〈通常はできません。ドレスというのはシステム領域――つまり魔法の杖が管理しているものなので〉
〈ではいったい、どういうことなのでしょう?〉
〈……私には分かりません。仮説や可能性はいくつかありますが憶測で解説はしたくないので、申し訳ありません〉
あの鎧のようなドレスは的場も分からないのか……。
「なんだと思う?」
「うーん……アタシにはなんか違和感に感じるんだよね」
「違和感?」
「そ。なんかさ、紫らしくないっていうか。無理してる感があって」
「無理してる?」
「アタシの気のせいかもだけどね」
無理をしているか……。あのドレスがかなり魔力を喰うってことか? あるいは不安定で上手く制御できないとか。
とにかく早々に決着をつけたがってるのかも知れないな。
〈これはすごい! なんと狙撃を軽々防いでいます!〉
〈廷々さんに届く前に消えてますね〉
〈ということは、バリアを張っているのでしょうか?〉
〈いえ、パリアを張るだけならドレスを変える必要は無いはずです〉
〈ではいったい……?〉
〈……なるほど、そういうことですか〉
〈なにか分かったんですか!?〉
〈はい。また後ほどお話します。しかしこれだけのことが術式だけでできるというのは信じられませんね〉
〈あの謎のドレスを含めて、“陣”とは全く別の魔法という可能性はありますか?〉
〈もちろんありますが、廷々さんの“陣”というのは術式だけでかなりの容量になりますので、別の魔法をインストールする余裕があるとは思えません。なので十中八九あのドレスとバリアは術式なんですが、術式は魔法の拡張機能のようなものです。あれほどまでに魔法レベルのものは初めて見ます〉
確かに、
だがあれは確かに術式では説明が難しいくらいに魔法そのものだ。――いや、そもそも“陣”というもの自体、術式の枠を越えてる気がする。
「廷々家はいったい、どうやってあんな術式を作ったんだ……?」
「さぁね。でも術式に関しては正直あまり良い噂は聞かないかな」
「どういうこと?」
「まず、術式っていうのは本来、広く公開されるものなんだよ」
「そうなの?」
「術式はとにかく自由度が無限大だからね、秘匿するより皆で共有して進化させていこうってスタンスなんだよ。――一応念の為に言っとくけど、カウントダウン・ブレイカーの場合はさっき的場さんが解説してくれた通り、危険が伴う術式だから非公開になってる」
なるほどな、オープンソースにして各自自由にカスタマイズなり研究してくれってことか。確かにそのほうがエンジニアとしても嬉しい限りだ。
「つまり、廷々家は術式を秘匿してるせいで良く思われてないってこと?」
「そう。それと……」
歩夢はチラッと紫の映像を見る。少し言うのが躊躇われるといった様子だ。
「廷々家は……人の道に
「人の道に悖るって……まさか――」
言おうとして、歩夢が手を突きだす。
「それ以上は言わなくていい」
これ以上は紫のプライバシーに立ち入ることになるからだろう。それに恐らく、噂で友だちを語りたくないのだろう。
「そっか、廷々家にはそんな噂が……」
的場がコメントを控えると言っていたのは、そういった背景もあるからなのだろう。
純血と呼ばれる古くから
思ってた以上に、廷々家は複雑みたいだな……。
To be continued→
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