第112話 技能試験⑲ - 独自試験(廷々紫)2

「……」


 雑木林は射線が切れがちで狙撃する側にとってもやりにくいかと思ったら、少しでも射線が通ると撃ってくる。どうやらクリュッカには魔法少女の位置が分かるらしい。


「ちょっと遠いけど……」


 レーダーと狙撃の方向からクリュッカの位置を割り出して当たりをつけ、魔法の杖を向ける。


「――縛陣・地縛」


 遠くに土が舞う。術式は上手く発動した……けど、手応えは無い。


「移動した……?」


 すると同じような場所からもう一発狙撃が来る。でもレーダーには一つしか反応はない。あと2つは別の位置だ。


「やっぱり遠すぎる……かな」


 遠くなればなるほど陣は正確性を失うし捕縛もしづらい。もっと近づかないと――


 ――キュンッ!


「っ!」


 斜め左上からの狙撃で袖に穴が開いた。すぐにレーダーを確認すると、今しがた縛陣を仕掛けた相手よりさらに遠い。


「あんなところから……」


 距離およそ1.3キロメートル。射角とレーダーの反応から位置は特定できた。けど届く攻撃手段が無い。最大射程の陣を仕掛けるにも300メートルは近づかないといけない。


「二兎を追う者は一兎をも得ず、ですか」


 行動指針を切り替えて負傷者を優先に動くことにした。幸いそう遠くはない。近くまで行くと次第に声が聞こえてくる。


「助けてー!」


 歩夢さんの時と同じ職員さんが負傷者のゼッケンを着て助けを求めていた。


「もう大丈夫ですよ。――防陣・亀甲」


 文字通り、亀の甲羅のような結界で負傷者を保護した。改めてレーダーで反応を見ると位置は変わってないように思える。


「これなら」


 ハーバリオンに向かって一気に加速する。当然、クリュッカからは狙われる。でも――


「――防陣・半月」


 楕円体のバリアを左右に一つずつ展開する。対狙撃用というわけではないけど、原理として銃弾と同じならばことが最大の防御。

 バリアを張った直後に右方向から狙撃が来た。魔力を圧縮したエネルギー弾のようなそれは、半月に弾かれて斜め上に飛んで行った。


「まずは、ハーバリオンを封じますか」


 鳳凰のような姿をした魔物はすぐに見えた。その見た目からは想像がつかない低い咆哮を上げて火炎弾を撃ってくる。


「大きい……!」


 半月じゃ防げない。かといって半月を解除したら二体からの狙撃には対応できない。


「くっ、――縛陣・竜巻!」


 本来は防御用ではない陣だけど、思った通り火炎弾は竜巻に巻き込まれて消えていった。

 でもこの陣は発動中ずっと魔力を消費するから気軽には使えない。火炎弾のたびに使っていたら魔力が空っぽになってしまう。

 焦って竜巻を使ってしまったけど、他にもっといい方法があるはず。


「グアアアアッ!!」


 ハーバリオンが飛び上がる。空中戦を挑むようだ。


「いいでしょう、受けて立ちます」


*   *   *


 ゆかりの独特な戦い方に、実況の愛恋あこさんは興奮していた。


〈これは斬新! クリュッカの狙撃を楕円体のバリアで弾きました!〉

〈上手いですね。クリュッカの弾丸はかなり重いのでバリアで受け止めると割れてしまいますから、やるなら集中ガードですが、飛行中だと下手すると落下してしまいます。防陣という独特のスタイルならではといったところでしょう〉

〈そして今度は竜巻ですか!?〉

〈恐らくハーバリオンの火炎弾をかき消すためでしょう。見たところ防陣ではなさそうなので、別の陣を応用した形なのだと思います〉

〈なるほど! 陣というのは応用が効くんですね!〉


 あの大人しいイメージしかなかった紫がここまでアグレッシブに動くのは初めて見た。なんだか同じ人物とは思えない。


「紫ってすごいんだね」

「まあね。伊達にアタシとチーム組んだわけじゃないよ」

「え? チーム組んだことあるの?」

「あー、前に大きな戦いあったじゃん? ほら、かえでが行方不明になったって騒がれたやつ」

「ああー、あの時の」


 どこかに飛ばされてたと言い逃れたやつだ。あの時はまだ人形もなかったから二人が同時に存在できなかったし、やや苦しい言い訳だったが誤魔化せて良かった。


「アタシと組むのは初めてだったけどね、大活躍だったよ。皆が助けられた」

「そうなんだ」


 普段はのほほんというか、ふんわりした女の子といった感じだが、いざ魔法少女として戦うと頼れる主力級エースというわけか。さすが10キロメートルエリア担当なだけある。


「そういえば、歩夢は知ってる? 純血の魔法少女って」

「ああ、廷々家のことだろ? アタシも話に聞いただけで詳しくは知らないんだけど、少なくとも曾祖母も魔法少女だよ」

「曾祖母って……つまり100年くらいは魔法少女が続いてるってこと!?」

「まあね。それより以前は聞いてないけど」


 魔法少女ってそんな前からあったのか……。いったいいつから存在してるんだ?



To be continued→

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