第110話 技能試験⑰ - 遠的競技

「ここだよ!」

「ここって……」


 訓練棟のクソ長い廊下だ。遠くが霞んで見える。


「この廊下がどうかしたの?」

「まあ見てなって」


 待っていると続々人が集まってくる。なにが始まるんだ?

 ――突然、「きゃあああああ!!」と黄色い声が上がる。何事かと見ると月見里やまなし千夜と花織はなおりあかりがやって来た。


「最初どうする?」

「では、私から」


 月見里は廊下の真ん中に立つと魔法の杖を構える。なにをする気だ?


「……ピュアラファイ」


 魔法の杖から放たれた白い光が奥へと消えて行く。


「ここでピュアラファイ!?」

「この廊下どのくらいの長さか覚えてる?」

「えーと、10キロメートルだっけ?」

「そ。つまり遠的競技兼用の施設なんだよ、ここ」

「……はい?」

10って競技」

「それは……分かるけど……」


 10キロメートルの遠的とか、バカなの? アホなの?

 遠的競技といえば弓道だが、確か50メートルくらいのはずだ。つまり200倍の距離となる。ピュアラファイは直進するから理論上は真っ直ぐ撃てば的に当たるが、数ミリの誤差があれば着弾点は大きく外れる。


「ちょっと正気とは思えないんだけど……」

「そう思うじゃん? 高位ハイランクの射程圏内ってまさにこの10キロメートルなんだよ」

「……そういえば、確かピュアラファイの最大射程?」

「よく知ってるね。そう、その最大射程を適正火力で撃って当てちゃうのが高位ハイランク。といっても正確には100キロメートルエリア担当だけどね。50キロメートルエリア担当はまだ当てられない人や10キロメートルも届かない人がいるから」

「100キロメートルエリア担当は、全員?」

「そうだよ。別に必須スキルってわけじゃないらしいけどね、今現在の担当者は全員できちゃうんだよ。それだけ全員の魔力制御が完璧だってこと」


 俺だったら絶対当てられない。メイプルのサポートがあれば当てられるかな……?

 サポート無しに地力じりきだけで当てられるとか、100キロメートルエリア担当はどんだけバケモノなんだ……。

 優海さんや藍音が期待してくれてるけど、俺にはこの領域に到達できるビジョンが見えない。


「この競技はほぼエキシビションみたいなもので、超一流の技をみんなで見ようって愛恋さんが考えたイベントだよ。ほら、あのモニター見て」


 なるほど、愛恋あこさんのやりそうなことだ。

 上の方に投影されているモニター画面には、試験と同じ的が浮かんでいた。そこに先程のピュアラファイが着弾する。


「すごーい!!」

「きゃー! 月見里さーん!!」


 黄色い声にお辞儀して月見里は花織に席を譲る。花織は同じ位置に立つと、


「なっ!?」

「うそっ!?」


 俺も歩夢も、他のギャラリーもこれには度肝を抜かれた。さっき俺がやった30メートルほどの距離じゃないんだぞ? 10キロメートルの距離を抜き打ちのクイックドロウでなんて、常識外れもいいところだ。

 涼しい顔で放ったピュアラファイは、一筋の綺麗な線となり見事に的を撃ち抜いた。しかもど真ん中にだ。


「……」


 全員が唖然としていた。開いた口が塞がらない。100キロメートルエリア担当のマジカル最強魔法少女。その実力をまざまざと見せつけられて言葉が出てこない。

 シーン……と静まり返る中、花織はニコッと微笑んで一礼する。すると堰を切ったように拍手喝采が巻き起こる。


「なに今の!?」

「カッコいい!!」

「花織さーん! ステキですー!」


 圧倒的に桁違いの実力を見せつけられて、俺は震えていた。

 ――これがマジカル最強。これが頂点。

 別にトップを目指してるわけじゃない。家賃タダのために高位ハイランクを狙ってるだけで100キロメートルエリア担当になりたいわけじゃない。

 でも、ただひたすらに感動した。超一流に触れる機会は確かに大事だ。愛恋さんは色々と分かってて企画している。ちゃんと計算されている。


「……花織灯か」


 ライバルなんて言える立場じゃないけど、意識したのは確かだった。


*   *   *


「まさかクイックドロウとは思いませんでした、さすがですね」

「ちょっと刺激受けちゃってね」

「刺激?」

「基本試験でクイックドロウ決めた子がいたの」

「……もしかして、姫嶋さんですか?」

「知ってるの?」

「ええ、少しばかり縁がありまして」

「へぇー、千夜ちゃんが直接関わるなんて珍しいね」

「本人は高位ハイランクを目指しているようです」

「今から高位ハイランクを? ふーん……。師匠はいるの?」

「優海さんです」

「へぇ……?」


 10キロメートルエリアには難なく昇格できるだろうを横目に、魔法通信で誰かに話しかける。


「――うん、そういうことだから。じゃあ、またね」

「……本気ですか?」

「もちろん」


 ふふ、と楽しそうに笑顔で試験会場に戻るあかりを、千夜は複雑そうな表情かおで見送った。



To be continued→

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