第109話 技能試験⑯
〈――では、的場奏雨さんに総評をお願いします!〉
〈私は最初から見てませんので途中からの評価となりますが、こと戦闘においてはセンスが光りましたね。ケノカスのワイヤートラップを強引に突破しようとしたのは悪手ですが、オールドタイプの魔法で突破したのは見事でした。誰かを助けたいという強い意思、想いが伝わってきましたね〉
〈バースト・ブレイカーですね! 今どきはあまり見なくなりましたが〉
〈魔法そのものは非常に強力ですし、時と場合によっては頼れる魔法です。魔法をセットするにあたってはかなり融通が利かなくなりますが、助けるという信念があるのであれば有りです。それに葉道さんの場合はテイクオーバー・オーラがあるのでバランスも悪くないと思いますよ〉
〈なるほど、かなり仕上がっているということですね〉
〈葉道歩夢さんは期待の新人エースとして華々しくデビューしたのもあって人気も高いんですが、
〈葉道さんは確か、今回A判定を取れたら次回のA判定で
* * *
「お疲れさま」
独自試験を終えた歩夢に会いに例の休憩ルームに行くと、「かえでー!」と抱きついてきた。女の子の柔らかさと良い匂いで動悸と目眩が……。
「あ、歩夢!?」
「試験どうだった?」
「クイックドロウで瞬殺しましたよ」
歩夢に抱きつかれて頭がオーバーヒートして、金魚のように口をパクパクさせてる俺の代わりに紫が答えると、「さすがじゃん!」と歩夢は嬉しそうだった。
「歩夢さんもすごかったですよ」
「へへー、まあね! ――なんて自慢したいとこだけど、正直危なかったなぁ」
歩夢が離れると、ようやく脳が正常に機能してきた。
「見たことない魔法使ってたからビックリしたよ」
「ああー、バースト・ブレイカー? アタシ前からずっと結界壊す系の魔法が無かったからさー、最近追加したんだよ」
「でもなんでバースト・ブレイカーなの? 他に使い勝手良いのあるんでしょ?」
「あるけど、でもアタシ向きじゃないからさ」
「そうなの?」
「アタシは繊細な魔力
シンプルイズベストじゃないのか? と突っ込むのは野暮なのだろう。
「え? 壊す魔法ってそんなに繊細なの?」
破壊するんだから大雑把なものかと思っていた無知な俺に、「結界などを壊すブレイカー系には主にニ種類あるんです。現在主流の魔法を中和して解除するタイプと、バースト・ブレイカーを代表とする力技で破壊するタイプです」と紫が説明してくれた。
「へー、解除と破壊か。解除するのが面倒くさいってこと?」
「まあね、解除するには相手の魔法に合わせないといけないからさー、それがアタシにはしんどいんだよ。例えて言うなら針の穴に糸を通すような感じ? イライラしちゃって」
あっはっは! と笑う。確かに苦手そうなイメージもあるな。
「そこへ行くと破壊する方はなにも考えなくていいからね、殴って壊す! シンプルでしょ?」
「あはは、確かに。でもなんで今は解除が主流なの?」
「破壊は効果のバラつきが大きかったんです。魔法少女によっては同じ結界でも破壊できる人とできない人とがいて。それにオールドタイプほどではなくても魔力消費量が多いので、そもそも使える人が限られる上に戦闘に参加することもできない。なので、どうしてもブレイカー専門といった立ち位置になってしまうんです」
「それは確かに使いづらいね……」
「だから、魔力量少なめで誰でも使えるブレイカー魔法が作られたってわけ」
「それが解除系?」
「そういうこと。でもこっちはこっちでさっき言ったように使いづらいって人はいてね、だから結局どっちもあるんだよ。選択肢が増えたって感じ」
なるほどな、魔法にもそういった歴史というか背景があるのか。面白いな。
「それに容量問題もあるし」
「容量?」
「魔法は魔法の杖にインストールするっていうのは知ってる?」
「うん」
「解除系は容量少ないのもメリットなんだよ。破壊系は容量喰うんだ。だから他の魔法を入れたくても入らないってことがよくあるんだよ。さっき紫が言ってた専門っていうのは、そういう意味もあるね」
「奥が深い……」
「でしょー? 魔法少女って面白いんだよ!」
そうはいっても、魔法少女だってなかなかにブラック企業だ。それでも楽しめるのはゲームライクなシステムが歩夢にハマってるからなんだろうな。
「さてと、試験終わったし、アレ行くか!」
「アレ?」
「かえでは初めてだよね、見たらおったまげるよ?」
「なに? なんなの?」
「まあまあ、騙されたと思って付いて来なって。気になってた謎も解けるしさ」
まるで悪戯っ子のようなダークな愛顔で俺を誘う。
「……なぁ、なんなんだいったい?」
小声で紫に訊ねるが、「さぁ」と意味ありげに微笑む。なんかこれヤバいやつか……?
To be continued→
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