第108話 技能試験⑮ - 独自試験(葉道歩夢)4
「ピンチをチャンスに変える?」
「そう。戦いには逆転の好機というものがある。それを掴めるかどうかで我々魔法少女の生存確率は大きく変わってくる」
――そういえば、
「言いたいことは分かるけどさ、どうやって掴むのさ?」
「経験とセンス」
「……アタシに無いじゃん」
「――それと、準備」
「準備?」
「すべての物事に通じることだけど、事前準備をしっかりやることで焦ることなく冷静に事を進めることができる。
事前準備さえしていれば、掴めるチャンスも増えるのよ」
「だったら、早くアレ教えてよ。準備しておけば掴めるチャンスがあるんでしょ?」
「まだカウントダウン・ブレイカーが未完成でしょ? あれだって本来あなたにはまだ早いのよ」
「すぐ使いこなしてみせるよ」
「まったく……。ヒントを教えるから、まずは自分で考えてみなさい」
「ヒント?」
「あれは攻撃の技じゃないの」
「攻撃じゃない? だって思いっきり戦闘用じゃん」
「ヒントはそれだけよ、あとは自分で考えなさい」
* * *
目の前が紅蓮に染まり炎に包まれた瞬間、グルグルと巡っていた思考は弾けて消えて、唐突に理解した。
――そうか、そういうことだったんだ。
師匠が言ってた意味が分かると同時にその技は完成した。今まで見様見真似で挑戦して何度も失敗した魔法。
「ぐぁあ!?」
炎の直撃を受けて平気でいるアタシを見て、ハーバリオンは理解できない様子で一旦距離を置く。
「逃がすか!」
追いかけようとして飛んだ瞬間、もう一体のクリュッカからの狙撃が飛んでくる。
――ガンッ!
「グゲァッ!??」
「あはは、何が何だか分からないって感じだね」
それもそうだ、アタシは
「さあ、行くよ!」
* * *
「これはいったい……?」
こんな歩夢見たことない。実況も困惑している。
〈なんと!? ハーバリオンの炎攻撃が直撃したと思うと、葉道さんが
〈……これは、“テイクオーバー”ですね〉
〈テイクオーバーというと……敵の魔法を自分の力に取り入れるという、あの高等魔法ですか!?〉
〈はい。本部長の阿山千景さんが得意とする魔法なんですが、その使い方が独特なんです〉
〈独特といいますと?〉
〈テイクオーバーというのは、普通は相手の魔法を全部、もしくは一部自分のものにするという技です。しかし魔物によっては魔法の性質が私たちと異なる場合があるので、そこまで便利なものではありません。ですが阿山さんのテイクオーバーは
〈そんなに強力で便利な技なのに、どうして皆さん使わないんでしょうか?〉
〈いえ、
〈それはなぜでしょうか?〉
〈理由としては大きく2つありますが、シンプルに難しいのは相手の魔法を抑えつける力です。オーラとして身に纏うというのは魔法を支配するということ。支配するには相手より上のレベルでないといけません。自分より格上の相手の魔法をオーラとして身に纏えば暴走してしまい、最悪魔法に殺されます〉
〈そんな……!〉
〈もう一つは……これはやろうと思えば全員ができるんですが、真似したり試したりする人が出てしまうと困るので、解説者としては不甲斐なく申し訳ありませんが伏せさせていただきます〉
〈それだけ危険ということですか?〉
〈はい。こちらも一歩間違えれば死にますので。葉道さんは阿山さんの直弟子なので教わってはいたんでしょうね。今回発動できたのはたまたまでしょうけど〉
〈たまたまというのは、どうしてそう思われたんですか?〉
〈マスターしているのであれば、あんなに切羽詰まった感じにはならないでしょう。むしろ待ってましたとばかりに受けるほうが自然です〉
一歩間違えれば死ぬ。歩夢はその2つの条件を、この土壇場でクリアしたっていうのか。
「
「いえ。そもそも私が知り合ったのはほんの少し前。つい最近のことですので」
「そっか……」
歩夢は知らないところで頑張ってるんだな。バースト・ブレイカーといいテイクオーバーといい、やっぱりすごいな歩夢は。
〈そしてオーラを纏った状態でのカウントダウン・ブレイカーだぁーっ!!〉
〈物凄い威力ですね、ハーバリオンが一撃で沈みました〉
〈そして残りのクリュッカもあっという間に倒し、潜んでいたケノカスも――これはすでに当たりをつけていたんでしょうか? 迷いなく撃破してミッションクリアです!〉
嬉しそうにガッツポーズする歩夢に、「ステキー!」「カッコいいー!」「歩夢さーん!」と皆が拍手喝采する。
To be continued→
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