第98話 技能試験⑤
あれはちょうど、物心がつく頃だったと思う。
家族と公園に遊びに行った時のことだった。カラスに襲われて数針縫うケガをしてしまった。襲われた理由はたぶん花のブローチ。
カラスは光り物が好きだと当時は知らなかったし、たまたまママから貰ったブローチが嬉しくて身に付けていたら運悪く目をつけられたらしい。
それ以来、私はカラスが大の苦手になり、それどころか鳥類全般が苦手になってしまった。もはやアレルギーと言ってもいい。
だから魔物もなるべく鳥型は避けていた。なのに、ここに来て試験のターゲットがまさかの鳥型。他の人に
この2周目は、
「――でも、だからって私は諦めるわけにはいかないの!」
魔法の杖を構える。必死に
その時、左隣から声が聞こえた。
「しっかり! 大丈夫だよ、シャルロットならできる!」
「あなた……」
姫嶋かえで。同じ5キロメートルエリア担当のくせに、一歩先の技術であるクイックドロウをあっさりと決めて魅せた魔法少女。
私ですらクイックドロウは教えてもらったばかりで、つい先日ようやく習得できたというのに、この子はまるで息をするように当たり前にごく自然にやってのけた。
いったいこの子は何者なの? 師匠は誰?
「……っ」
関係ない。私には関係ない!
今の私に必要なのは結果。一位という輝かしい記録を魔法少女の世界に刻むことで、私は
「ぁぁぁあああアアーーーっ!!!」
まるでギアを上げるように、臆病な自分を捻じ伏せるように声を張り上げてトラウマに向き合う。溢れる涙は過去に流し、私は今ここで私を超える――!
ほぼ乱射に近いピュアラファイは、それでもターゲットを確実に減らしていく。
「はぁ……はぁ……はぁ……っ!」
ターゲット全てを撃ち落とすと、2ndタイムは17秒52と表示された。一周目より遅いのは当たり前だ。それでも私はやりきったと思うし、思いたい。
左を見ると、姫嶋かえでが笑顔で「頑張ったね!」と言ってくれる。なぜこの子はこんなにも強いんだろう? いったいどんな修羅場を潜ればこんなに強くなれるんだろう?
私もこの子くらい――姫嶋かえでのように強ければ、あんなことには……。
「……あり、がとう」
「え?」
「な、なんでもないわよ! ふん!」
どうしても素直になれない。でもこの子は――姫嶋かえではそんな私の心を見透かしたかのように笑顔で「よかった」と言ってくれる。
こんな性格だから、友だちと呼べるような友だちはいた試しがない。
……姫嶋さんは、……姫嶋さんなら、友だちになれるかな――?
「姫嶋さん、次はあなたよ。……気をつけて」
「え? ――うん、頑張ってみるよ!」
この2周目がトラウマ級に苦手な魔物なのだとしたら、姫嶋さんの相手はいったい……。
ブザー音が鳴り、ターゲットとなる魔物が現れる。しかしそれは私の想像を遥かに超えたものだった。
「うそ……なんで試験でこんなのが出てくるの……!?」
ターゲットはちゃんと13個ある。だけどそのうちの一つ、動くターゲットには巨大なドラゴンがいた。あまりに大きいせいで他のターゲットは見えない。
――でもこれはあくまで試験。あの巨大なターゲットに一発当てれば確実に一つ減るのだから、むしろラッキーなんじゃないの?
「――!」
その時、気づいたのはたぶん、私だけ。
他の魔法少女――私も含めてだけど――が全員悲鳴を上げていたのに、姫嶋さんは悲鳴どころか笑みを浮かべていた。
この試験、2周目はその人にとってのトラウマを魔物に写しているはず。それなのに姫嶋さんはなぜそんなに余裕なの!?
「あなたはいったい……何者なの?」
2周目が終了して思わず零れた呟き。それを拾ったのだろう、姫嶋さんははにかむ笑顔で私に言った。
「
To be continued→
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