第99話 技能試験⑥
――ふぅ、なんとかクリアできたな。
まさか金ドラゴン――アノバリウスがターゲットになるとは。どうやら2周目は自分が苦手だったりトラウマ級な魔物が出てくる仕組みだったようだ。
俺の場合はこれといって特にトラウマ級なものは無かったってことか。アノバリウスはむしろリベンジしたかったし。
「さて、次の試験も頑張らないと」
シャルロットに「何者なの?」と訊かれてカッコよく
〈さて続いては――〉
「ちょっと待ちなさいよ!」
次の試験に移ろうとした時、一人の女の子が声を上げた。
〈どうしました? なにか問題でも?〉
「なにかって、なんなのよ今の試験! 見なさいよ! 怖がって泣いてるじゃない!」
と言って指差したのは右隣にいる子だった。顔を両手で覆ってさめざめと泣いている。
〈だから?〉
「だから……!? こんなに怯えてる状態で次なんてやれるわけないでしょ!?」
〈なら、試験の邪魔になるので退出願いまーす!〉
天の声――
「――! いったいなんの目的でこんなことするの!?」
〈……はぁ、言わなきゃ分からないんですか?〉
若干声のトーンが落ちた。その威圧感に、勢いのあった抗議の声は一気に押し殺された。
〈基本試験というのは、その名の通り基本的技術が一定水準を満たしているのかどうかを見ますが、形式だけの表面しか見ない試験なんて意味無いんですよ。魔法少女の基本は技術だけじゃありません。恐怖に耐えうる精神力です。打ち克つというのは容易ではありませんが、ほんの少し耐えるだけならできるでしょう? それすらできないのに現場にいられたら、足手まとい以外の何物でもない。耐えられない、できないというのであれば10キロメートルエリア担当になんてなれません〉
愛恋さんの言うことは正しい。10キロメートルエリア担当は魔法少女の中でも
だが、14歳前後の子供にとっては厳しい言葉に聞こえるだろう。納得してくれればいいが……。
「うぐっ……! でも――」
なおも抗議しようとして、その子の目の前に担当試験官である花織灯が現れる。
「あなた、お名前は?」
鈴を転がすような声が響く。綺麗で柔らかく、それでいて可愛らしい声。
「……美紀ですけど」
「美紀さん、あなたは10キロメートルエリア担当になりたいですか?」
「……はい」
「そう」
花織はニコっと笑うと、「では美紀さん、大人しく次の試験を受けてくださいね」とだけ言って隣の泣いている子に向かう。
「あなた、お名前は?」
「ひっく……うぅ……萌香です……」
「萌香さんは10キロメートルエリア担当になりたいですか?」
「……なり……たいです。でも……ぐすっ、あたし……虫は本当に無理で……ひっく」
「そう。わたしも虫は苦手なんです」
花織が試験エリアに入ると、萌香の時と同じ虫型の魔物がターゲットとして現れた。
「苦手なら、
スッと目を閉じた花織は、魔法の杖を横に振る。その振った瞬間に白銀の閃光が全てのターゲットを一瞬で破壊した。
「おいおい、嘘だろ……!」
目の前の光景が信じられなかった。魔法の杖を横一閃に振っただけで全ターゲットを瞬殺した。しかも目を閉じた状態、ブラインドでだ。
記録は――1秒43。
まったくとんでもないバケモノがいたもんだ。これが100キロメートルエリア担当でマジカル最強の魔法少女の実力か。
「どう……やって?」
「ひたすら練習あるのみです。他にも対処の仕方はありますので、泣いてなにもできない。なんてことにならないよう工夫してみてください」
花織の笑顔と柔らかい声は心に染み込むようだ。さっきまであれだけ泣いてた萌香は決心したような顔で「はい!」と良い返事をする。
「続けますか? 無理なようなら待機部屋で休んでも構いませんよ」
「いえ、続けさせてください!」
「じゃあ、がんばってくださいね」
ニコっと笑って萌香の頭を撫でる花織は、まるでお姉さんか母のようだ。
あれだけ噛み付いていた美紀と、さめざめと泣いていた萌香をあっという間に
「では皆さんも、引き続きがんばってくださいね」
「「はい!!」」
「それと、姫嶋さん」
「え? は、はい!」
「クイックドロウ見てましたよ、すごいですね! 2周目の対処もお見事でした。次もがんばって」
首を傾げて微笑む花織は女神に見えた。
よーし、おじさん頑張っちゃうぞーっ!
To be continued→
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