第92話 一枚の写真
「あぶねー! 忘れるとこだった!」
急いで有栖川本社ビルを飛び出して魔法少女に変身し、Kスタジオへと急ぐ。
あのまま彩希と素敵な夜を満喫していたいところだったが、メイプルが「そろそろレッスンの時間ですが」と知らせてくれたので切り上げてきた。
彩希は名残惜しそうにしてたが、俺は名残惜しさ半分、ホッとしたのが半分だった。慣れないところで女の子と飲むのはガチガチに緊張してしまうし、それに周囲の視線が痛かった……。
「そらそうだよな、有栖川の孫娘なんだから」
世界で争えるレベルのトップ企業、有栖川
「……俺、そんなすごい子と飲んでたんだな」
改めて考えると、なんで俺なんかと飲んでくれたのか謎すぎる。世界○大ミステリーに数えられそうな謎だ。
『マスター、前方にランクBの魔物が数体います』
「ったく! こんな時に!」
止まってる暇はない。今は一分一秒でも早く着かないといけない。
「どけぇぇぇ!!」
アナライズもせず
「くそっ! 本当なら損壊率考えて倒したかった!」
損壊率が低ければ低いほど報酬は期待できる。なるべく
「なんかもっと使い勝手の良い魔法があればなぁ」
『術式を開発してみてはいかがですか?』
「そういえば術式なんてあったな。でもあれは改造用だろう?」
『いえ、術式はやり方次第で可能性は無限に広がります。例えばピュアラファイを
「そんなことできんの!?」
『マスターであればピュアラファイをさらに強化することも可能だと思います』
「そうかぁ……そういや話は聞いたけどまだ実際にどんなものか見てなかったな。今度また優海さんに教えてもらおう」
なんとか魔物群を倒してスタジオに降り立つと、ステルスモードを解除して衣装を変える。
「ふぅ……」
息を整えてKスタジオの扉を開き、「遅くなりました!」と挨拶する。――が、
「……あれ?」
なんだか空気が重い。いつもなら「かえでちゃ〜ん!」と歓迎してくれる卯月響子は床に横になってしまっていて、ただでさえオフ時にはテンション低めの神谷瑠夏と岩清水明音はこの世の終わりだと言わんばかりに落ち込んでいた。
普段から明るい古間麗美や、あの気丈な東山
「ど、どうしたんですか……?」
「……ああ、かえでさん。いらっしゃい」
「なにかあったですか?」
「うーん、それがね……来月のライブが中止になるかも知れないのよ」
「――えっ!? いったいどうして?」
「これだよこれ!」
古間はスマホをズイッと俺の目の前に出す。そこに表示されていたのは、先ほど彩希に
「えーと……これは?」
「知らないの? 有栖川彩希!」
「いえ、それは知ってるんですけど……」
「実は彩希もあたしらのファンなんだよ」
「えっ!? そうなんですか!? ……でも、その彩希さんの写真でどうしてライブ中止になるんですか?」
「この引用リツ見て!」
見せられた引用リツには、「許せない」「殺してあげる」など
「え……これってもしかして……」
「そう。このバカはね、
「な、なな……っ!? なんでライブ会場に!?」
「来月のライブに、彩希さんが来るからよ」
明らかに低いトーンで東山はポツリと呟く。
「……彩希さんが観に来るから、そこに乗り込んで殺してやるって……?」
「そう。そしてその発言を受けて事務所が動いてて、最悪の場合はライブが中止になるかもっていう話なのよ」
「まったく迷惑この上ないヤツだよ! それにしても彩希お嬢様と一緒に写ってるこの男は誰なんだ! コイツのせいでバカに火をつけちまったんだっ!!」
「ちゃんと書いてあるでしょ、ビジネス・パートナーの
「ただのSEじゃないだろ! どう考えても!!」
「えーと……古間さんはなんでこんなに……?」
「麗美はね、彩希さんのファンなのよ」
「え?」
「元々は麗美がSNS上で有栖川彩希さんのファンだと公言したの。それに対して本人から、私も前からHuGFのファンですって反応があって、それから交流が始まってライブにもゲストで来てくれるようになったのよ」
「そんなことが……。ということは、来月もゲストの予定だったんですか?」
「ええ。一応かえでさんにはサプライズの形にしようと思ってたんだけど、こうなっちゃったら仕方ないわね」
今にも
「この野郎……彩希とイチャイチャしやがってぇ……!!」
まさかあの一枚の写真がこんな修羅場を作り上げてしまうとは……。というか俺、バレたら古間に殺されるんじゃないか? 人形で誤魔化そうとしても壊されるかも……なら俺が死んだ方がまだマシか……。
ライブが中止になるのは俺としては好都合だが、HuGFの一員としてはそうもいかない――どうすればいいんだ!?
To be continued→
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