第91話 素敵な夜に・後編
「美味しいな……」
ビールと白ワインを混ぜるなんて考えたことも無かったが、ビールのほろ苦さはそのままにスッキリとして味わえる。
「こんなカクテルがあるなんて、もっと早く知りたかったな」
「ありがとうございます」
「彩希の仕事の邪魔をしてしまって申し訳ないけど、ここは素敵な場所だな」
「気にしなくていいって。このくらいで破談になるようなものじゃないから。それに若い女性をターゲットにしてるんだし、理解もあるわよ」
「……なら、いいんだけど。それにしてもコスメのプロデュースまでしてるとは思わなかった。でも有栖川ブランドじゃないんだな?」
「コスメ業界での有栖川なんて2周は遅れてるわ。今からやってたんじゃ間に合わない。だからエリューリの社長に話を持ち掛けたのよ」
「販売戦略もエリューリに乗っかるのか?」
「あらー? もしかして、情報聞き出そうとしてる?」
「えっ!? いやそんなまさか!」
「ふふ、あはは! 冗談よ、冗談。別にそのくらい話したって構わないし。販売戦略はもちろんエリューリにほぼ任せる形になるわ、だって向こうのノウハウと人脈は圧倒的なんだから。でも頼る必要はないの」
「どういうこと?」
「あたし自身が広告塔になるからよ」
「彩希が? でもいくら有栖川の人間だからってそんなに効果あるのか?」
「問題ありませんよ、彩希お嬢様のSNS総フォロワー数は500万人以上いますので」
「ご、ごっ500万人!?」
総フォロワー数といってもSNSなんて何十種類もあるわけじゃない。代表的なエンスタクラム、ツエッター、テックタックのフォロワー合計が500万人だとしたら、それぞれ150万人以上いることになる。
確かに広告塔としては十分だ。
「まさか彩希がインフルエンサーだったとは……」
「あたしは別に自分のことなんとも思ってはないんだけどね。利用できるものは利用しないと」
なんとも商魂たくましいビジネスマンだ。
「で、今から写真をSNSにアップしたいと思いまーす」
「……へ?」
振り向くと、彩希の後ろ髪がフワッと顔に掛かる。と同時にパシャっという音がした。
「ほら! 見て見て!」
自撮りした彩希と、その後ろに三分の一ほど隠れた俺の顔が写っていた。
「いい感じじゃない?」
「これをアップするって!?」
「そうよ」
ササッと操作すると、エンスタとツエッターへ即座に投稿された。
「け、消して消して!!」
「もうすでに3桁のいいねがついてるんだけど、本当に消しちゃっていいのー?」
「うぐっ……」
今消したら逆に怪しまれてしまう。
今さっきまでビジネスマンだった彩希は、舌舐めずりする小悪魔になっていた……。
「――ん? ちょっと待て、写真だけアップしたからリプ欄にその男は誰なのかって質問いっぱい来てるじゃないか! 彼氏ですか!? とか!」
「あらー、本当ね」
「……確信犯だろ」
「あはは、素敵な夜のお裾分けよ」
「いや、どう考えても混乱しか共有されてないぞ……」
「それとも、あたしとじゃ素敵な夜にはならない……?」
「ぐっ……。そんなの……ズルいだろ」
「女の子はズルいのよ」
彩希はまたスマホを操作して俺に見せる。そこには追記で「こんな素敵な彼氏がいたらいいけど、残念ながらお仕事でのパートナーです! 凄腕のシステムエンジニアなんですよ♡」と書かれていた。
「これでいいでしょ?」
この小悪魔は……ちゃんと訂正した上でさらに俺をイジってくる。これはある意味魔物より厄介だ……。
こんな可愛い女の子に接待されて嬉しくないわけがないし、「じゃあ素敵な夜を一緒に過ごそうか」なんて言ってみたいけど女子耐性ゼロの俺がそんなハイレベルなこと言えるわけないし、というかそれこそ仕事のパートナーだし、それにそもそも相手は未成年だし!!
「……はい」
一秒間の激しい
「ねぇ、楓人さんって呼んでもいい?」
「え? 別にいいけど」
「やった! じゃあ、これからもよろしくね、楓人さん」
それはビジネスとしてなのか、個人的になのか、それとも……。
聞きたいけど、聞いたら聞いたで大変そうだし後悔しそうだし、場合によってはまた激しい葛藤で脳が沸騰してしまうので、その意味を深掘りはしないで我慢することにした。
「こちらこそ、よろしくね彩希」
再びグラスを合わせる。飲んだ分、少し音は低めにカチンと鳴った。
To be continued→
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