第93話 術式の専門家
「あら、かえでちゃん」
「こんばんは、遅くにすみません」
HuGFは「血祭りに上げる」という殺人を匂わすメッセージのせいでメンタルが崩れていて、練習どころじゃないので俺は帰ることになった。
とはいえまだ夜8時前だし、他にやることも特に無いので、Kスタジオから直行で
「術式について?」
「はい。ピュアラファイと特殊弾でも全然やれてるんですけど、ちょっと難しい場面もあって……」
「なるほどね、それでかえでちゃんの訓練室なのね。いいわよ、教えてあげる」
「本当ですか!?」
「――と言いたいところなんだけど、私の戦闘スタイルって同じマジカルでもけっこう違うし、専門家じゃないから……。そうね、せっかくだから専門家の人に会いに行きましょうか」
「専門家?」
* * *
技術班のフロアとはまた別の、2つ下の階にある術式研究所。技術班はそれでも機械類が多めの技術屋っぽさがあったが、術式研究所はどちらかというと俺の職場に近い。
「なんだかどこかの職場みたいな光景ですね……」
「ドラマで見たことある?」
「え? ええ、まあ」
そういえばドラマ好きみたいな設定の話したな。すっかり忘れてた。
「えーと、……ああ、いたいた。亜未ちゃーん!」
亜未と呼ばれた女の子がこちらに気づいて顔を上げる。右目が金髪で隠れている雰囲気暗めの感じだ。
「……優海さん」
「こちらマジカルの術式研究を専門にしてる塩谷亜未ちゃん。紹介するわ、姫嶋かえでちゃん。期待の新人エースよ」
「……よろしく」
「よろしくね、塩谷さん」
塩谷って名前聞くとどうしても
「……術式知りたいの?」
「うん。実は……」
魔物群と戦った時に魔法のバリエーションが欲しいと感じたことを話す。
「それで、ピュアラファイも術式次第で色々やれるって聞いたから」
「その前に一ついい? かえでちゃん」
「え? なんでしょう?」
「かえでちゃんが遭遇したのは、どんな魔物だった?」
「あー、えーと……」
〈ランクBのクシューノルです〉
〈サンキュー〉
「ランクBのクシューノルです」
「クシューノル? 本当に?」
「そう……ですけど」
「……ありがとう。ごめんね、私ちょっと寄るところがあるから行くね、今度埋め合わせするから。ごめんね」
「いえ、そんな! ありがとうございました」
優海さんが去ると、「……じゃあ、まず操作の基本から」とPCを操作する。
「これは……専用エディタ?」
「そう……だけど、分かるの?」
「少しは。一応、デバッガーやってるから」
本当は
「そうなんだ、じゃあエディタとかの説明はいらないかな。術式は魔法文字で書いていくんだけど――」
なんか、急に
「――ここまでで、なにか質問ある?」
「えーと、つまり術式で拡張されるのはあくまで魔法の杖であって、ピュアラファイ自体の性質を変えることはできない。――で合ってる?」
「そうそうそういうこと。やっぱり飲み込みいいね理解も早いし助かる」
分かった。これオタク独特のやつだ。安納真幌と同じやつだ。
「なるほど……ちなみに
「理論的にはどこまででも。でも魔力量と術式容量の関係で最大射程は10キロメートルまで」
「10キロメートルも!?」
「でも現実的に考えるならせいぜい数キロメートルが限界」
「それはどうして?」
「まず魔力の問題。距離が長ければ長いほど魔力が必要になるし威力にも直結するんだよね、魔力が少ないと命中してもチクッとする程度にしかならない。それともう一つ大きな問題としてはそもそも命中しないっていう難点があるのね、仮にエイム完璧だとしても魔力が少なかったり安定してないと途中で軌道がブレたり魔法の形を維持できなくて崩壊しちゃったりしてそれに――」
「待った! ちょっと落ち着こう」
安納真幌とマジでデジャヴる。放っておいたら小一時間は止まらなそうだ。術式の専門家というか、どちらかというと魔法オタクの方が合ってる気がしてきた。
「ゴホン、失礼……。つまりエイム――狙いがブレない前提で話せば射程は魔力量次第ということ」
「それならちょっと自信あるかな」
「技能試験はやった?」
「まだだけど……」
「ならそれに合わせて術式開発したほうがいい」
「そうなの?」
「なんとなくの感覚で開発しちゃうと後々調整が面倒くさくなるし、下手したら作り直しになるから基準となる技能試験の結果を
「そうなんだ、そういえば技能試験っていつだっけ?」
「来週だけど」
「……え?」
「来週だけど」
……え?
To be continued→
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