第88話 特殊弾

「なんとか間に合ったな」


 爆煙が薄くなったところでメイプルのサポートにも助けてもらって陽奈を救出できた。

 まったく、メイプルから状況聞いた時は耳を疑ったぞ。まさかの触手プレイとは……。


『どうやら陽奈さんはあの魔物と相性が良くないようですね』

「うーん、でもサポート任されてるし、下手に動けない――」

『マスター! 部位が再生してます!』

「なんだって!?」


 今しがた撃ち落とした触手がすぐに再生、復活して再び陽奈を襲う。


「きゃああぁぁーーー!!」


 先ほどの触手プレイが余程トラウマレベルだったんだろう、本気の悲鳴が聞こえる。


「ちっ!」


 俺も再び戦闘態勢に入ってクイックドロウで触手を撃ち落としていく。


「くそっ! 撃っても撃っても次々に再生しちまう!」

『この再生力と速度は異常です。コアがある可能性があります』

「コア? 確かにあれならこの再生力も頷けるけど、でもアナライズ情報には無かったぞ?」


 アナライズによって表示される情報には魔物の名前や生態の他に弱点などが補足情報として載っている。しかし今回の補足情報にはなにも書かれていなかった。


『情報が更新されていないか、今回に限ってコアを埋め込まれたという可能性もあります』

「後者は確かにありそうだ。とにかく陽奈を助けないと」


 だがパニック状態に陥っている陽奈をどうやって落ち着かせればいいんだ……。


「……アタッカーで切り込むか」

『アタッカー経験があるんですか?』

「まあ、少しはね」


 武器化の経験は、間宮楓香を警護した時のイブシャークと、H公園での戦いの2回。なんだかんだでそれなりに扱えてる気はする。

 ただ、イブシャークの時は別々の戦闘スタイルを併用するデュプリケート、H公園の時は仮想空間らしき結界内でゲーム武器の能力再現のおかげで勝てたようなもの。

 純粋に俺だけの剣術で勝てた試しは無い。


「正直自信は無いけど、いちいち撃ち落としてたら埒が明かない。突っ込むぞ!」


 魔法の杖を【紅のヤシオ】に変える。能力は使えなくても手に馴染むほうがいい。

 突撃して思いっきり剣で薙ぎ払うと触手が数本千切れ飛ぶ。エネルギーの吸収から攻撃へと目的を変えたからか、触手の数が増えている。


「おらぁぁっ!!」


 とにかく斬って斬って斬りまくる。ところが再生速度が想像以上に早くて斬ったと思うとすぐに再生してしまう。


「くそっ、ヤシオじゃ無理か……!」


 武器選択をミスった。あくまでメイン武器だから両手がふさがるし、そこそこ重いから再生速度を超えられない。斬ったらすぐ脱出するつもりだったのに、このままでは逆に捕まってしまう。

 仕方なく【紅のヤシオ】を放棄して、新たに武器をつくり出す。ただ軽いだけじゃ駄目だ。触手を斬れて片手で持てる強い剣――【双天そうてん緋水ひすい

 緋色と水色、2色の剣身を持つこの剣は、見た目通り2つの属性を持つ。といってもそれはゲーム内での話だ。


「せいっ!」


 片手で振ると触手をスパッと斬ることができた。属性2つ持ちという特異性が目立つが、そもそもの基本性能が高く使い勝手が良い。俺も当時お気に入りだった剣だ。


「よし、これなら行ける!」

『マスター! 陽奈さんが気を失ってます!』

「なにっ!?」


 意識を失った陽奈は魔法少女モードが強制解除され落ちていく。


「くそっ!」


 触手を数本切り払うと、頭を下にして垂直落下する。


「おおおおぁぁーっ!!」


 地面の手前ギリギリで服を掴んで急ブレーキを掛ける。まるで映画のワンシーンのようだが、これは現実だ。あと一秒遅かったら謎の飛び降り自殺になるところだった。

 本社ビルから離れているからか、人影はなく目撃者はいなそうだ。


「メイプル、念の為に周りに人間がいないかチェックしてくれ」

『――大丈夫です。周囲には誰もいません』

「ふぅ……そっか。なんとかなったか」

『お見事です、マスター』

「コアはありそうか?」

『確認できました。真ん中からやや右上辺りにコアがあります』

「流石だねメイプル。よし、なら話は早い!」


 空へ飛ぶと、射程圏内から魔法の杖を構える。しかし警戒されているのか、触手を何本も出して明らかな防御態勢に入った。


「ちっ、向こうもみたいだな。ガチガチにガードしてる」


 こうなったらピュアラファイも出力を上げないと届かない。だが出力を上げるとビルにも大穴が開く。


「本当に厄介な魔物やつだな。徹甲弾アーマーピアシングでぶち抜くか」

『本来であればベストですが、マスターの場合、破壊力があり過ぎて建物に深刻なダメージを与える可能性があります』

「あーそうか! くそっ、なんか良い案ないか?」

『他の特殊弾を使ってみませんか?』

「他のって、徹甲弾アーマーピアシングの他に貫通力高いものがあるのか?」

『光線弾。通称・レーザービームと呼ばれる特殊弾です』

「レーザービーム!? そんな弾あるの!?」

『貫通力は非常に高いのですが、魔力消費が大きく実戦向きではないと言われてます。ですが、マスターなら撃てるのではないかと』

「なるほど、私ならではの作戦ってわけか。よし、やってみよう!」


 ライフルモードの杖を構えて弾丸選択チョイスで光線弾をセットする。


「メイプル、サポートよろしく!」

『射線に生物反応、電子機器無し……クリア。角度微調整、誤差修正コンマ13……』

「いくよ……発射シュート!!」


 魔法の杖から放たれた光線弾は、文字通り光線となって有栖川の本社ビルごと魔物ギュネイブを貫いた。


To be continued→

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