第84話 デートに向けて

 早速、雷都からミッションが送られてきた。しかも俺にとってはいきなり難易度超絶級だ。


「デート用の服か……」


 考えてみたら仕事のスーツかプライベートではTシャツに短パン、冬はトレーナーと股引に裏起毛のズボン。これくらいしかない。

 そもそもファッションに興味無かった上に彼女がいないからお洒落する必要性が無かったからな……。


「うーん、衣装変更機能オート・コーデが使えればいいのになぁ」


 しかしあれは、あくまで姫嶋かえで専用設計だから俺には使えない。つまり自分のファッションセンスを信じて揃えるしかない。

 仕事終わりにデパートまで足を伸ばし、何年ぶりかの洋服店へとおもむく。


「えーと……」


 膨大な量の服に圧倒されてしまい、なにをどう選べばいいのか分からない。

 立ち尽くしていると、店員が「いらっしゃいませ」と声を掛けてくれた。そうだ、店員に相談すれば手っ取り早いじゃないか。


「すみません、デート用の服が欲しいんですが」

「それでしたら……こちらはいかがでしょうか?」


 店員が見繕みつくろってくれたのは夏ニットというものらしい。ズボンと合わせてもシンプルで良い。


「上下で……1万6千円かぁ」


 うーん、ちょっと高いけど……まあ、ビジネスへの投資と考えればいいか。


「じゃあ、これで」

「試着なさらないで大丈夫ですか?」

「あ、そうですね。試着してきます」


 試着室で着替えると、なんだか自分じゃないようだ。服装でこんなにも変わるものなのか。

 試着して問題無かったので、そのまま買うことにした。


「ありがとうございましたー!」


 店員の営業スマイルに見送られながら、たまにはデパートをうろついてみるかと歩いていると、見覚えのある人影を見つけた。


「あれは……歩夢か?」


 魔法少女モードじゃない制服の姿は初めて見たが、あの赤い髪は見間違えようがない。

 ゲーセンに入って行くのを確認して俺もゲーセンに入る。この喧騒けんそう感懐かしいな、学生時代はよく来たものだ。


 歩夢は太鼓の◯人をやっていた。かなりやり込んでいるらしく、いきなりむずかしい難易度で高得点を出した。可愛い女の子がやってるというのもあってか、気づけばギャラリーが集まっていた。


「すごいな」

「あれ? もしかして……あの時のお兄さん?」

樋山楓人ひやまあきとっていうんだ、よろしくね葉道さん」

「葉道さんなんて、止めてくださいよ! 歩夢でいいです」


 お互い魔法少女じゃない時に話すのは初めてだが、全然印象が違うな。制服姿だからってのもあるか。


「ありがとうー!」


 ギャラリーに手を振ってゲーセンを後にする歩夢について俺も出る。ただ話すのもなんだから、ファミレスに行くことにした。

 魔法少女としては何回も話したが、やはり素の状態でしかもファミレスだと緊張してしまう。


「えーと、歩夢さんはゲーム得意なんだね」

「はい!」

「ゲーム制作に興味あるみたいだったけど、プロゲーマーにはならないの?」

「うーん、確かにゲームは得意だし好きなんですけど、プロゲーマーになりたいのかって言われると、そういう方向での情熱じゃない気がするんですよ」

「なるほど、あくまでゲーム好きのままでゲームの世界にたずさわる仕事がしたい?」

「たぶん、そんな感じです。今はまだボンヤリしてて」

「まあ、まだ中学生だし、今は毎日を楽しむ方がいいよ。――そうだ、新島がまた遊びに来ないかって言ってたよ」

「え? いいんですか?」

「もちろん。遠慮しなくていいよ」

「いや、その……なんとなく行きづらくて……」

「むしろ新島もアストラタの人も待ってるよ」

「ホントですか!?」


 目を輝かせ、身を乗り出して反応する。こうして見ると本当に年相応の普通の女の子だ。


「だから遠慮しないで来ていいよ。新島の番号教えるから、来るときに電話するといい」

「ありがとうございます!」


 俺の番号を教えると色々と面倒くさいし、ややこしくなるのは目に見えるからな。新島の番号を歩夢さんのスマホに転送する。


「あの、質問していいですか?」

「どうぞ」

「樋山さんは、どうしてSEシステムエンジニアになろうと思ったんですか?」

「うーん、昔からパソコンが好きでね。パソコン雑誌読んでたらプログラミングについて載ってて、試しにやってみたら思いのほかハマったんだよ。気づいたら仕事になってたって感じかな」

「そうなんですね。それと、姫嶋かえでって知ってますか?」

「――えっ? ……ああ、確かアストラタのデバッガーやってる子、だよね?」


 油断してた。不意打ちに一瞬動揺してしまったが、顔に出てただろうか?

 それにしても、なぜこのタイミングで名前を出したんだ? かえでに対しての疑いはもう晴れたはずだ。念の為に俺に対して鎌をかけたのか、それとも単純に知ってるかどうかを確認しただけなのか……。

 ――こういう時は、深読みしないほうがいいな。


「はい、そうです」

「その子にも歩夢さんが来るって伝えとく?」

「いえ! 言わないままで……」

「サプライズにしたいんだ?」

「まぁ、そんな感じ……です」

「姫嶋さんのこと好きなんだね」

「やっ! いえそんな、そういうわけじゃ!」


 分かりやすく顔を赤くして全力で否定してくる。


「別にそういうんじゃないんです、本当に友だちってだけで……」

「俺は良いと思うけどな、好きなら好きで」

「ぅぅ……」

「別に友だちを越えたらもう関係なんて、デジタルに考える必要ないんじゃないかな? それこそ親友って表現だってあるし」

「……親友」

「もっと仲良くなりたい、ずっと一緒に居たい。そう思える相手がいるって幸せなんじゃないかな」


 なんて、彼女いない俺が言っても説得力の欠片カケラもないか。


「さて、なにか食べる? 好きなの頼んでいいよ」

「えっ!? い、いいんですか……?」

「いいよ、好きなだけ」

「ありがとうございます!」


 はからずも歩夢のおかげでデートへの自信がついた気がする。そしてこのまま女性耐性ゼロからも脱却したい!


To be continued→

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