第83話 雷都に相談
「二人でランチに行きましょう」
今まで彼女なんていたことない俺にとって、有栖川彩希からのこの誘いは嬉しいようで怖い。どうすればいいのか分からないからだ。
「
いや、駄目だ。今回は二人でと言われたし誘われてない紫にそのことを相談するのは良くない気がする。
「かといって歩夢にそんな相談はできないだろうし、他に相談できるような人は……。あっ!」
* * *
「――で、俺に相談ってわけか」
「頼む、俺にはどうすればいいか分からないんだよ……」
他の連中には絶対言えないし知られるわけにもいかない彩希からのお誘い。なので、俺より確実にモテるコミュ力の塊のような男、安西雷都に助けを求め、
「それはもうデートの誘いだろ」
「やっぱりそうなのか?」
「お前は彩希嬢ちゃんに気に入られてるようだし、良かったじゃないか。逆玉狙えるぞ?」
「どうかな? 個人的に仲良くしたいと言われてLINE交換はしたんだけど」
「十分だろ。普通商談でLINE交換しねーよ」
「まあ途中からただのランチタイムになってたけどな。……うーん、でも俺と付き合ったところでなんのメリットもないぞ?」
「確かに恋には損得勘定や駆け引きなんかもあるにはある。だが彩希嬢ちゃんはそういったものを抜きで、お前に好意を持ってるんだと思うぞ」
「そうなら嬉しいけど……でも相手はあの有栖川だぞ?」
「有栖川だろうがなんだろうが関係ないだろ。――ていうかお前はどうなんだ?」
「俺?」
「お前は彩希嬢ちゃんのこと好きじゃないのか?」
「人間的には好きだよ。でもやっぱり女の子は苦手だし、今のところビジネスパートナーとしてしか見てないな。それにまだ16歳だからな」
とはいえ、ビジネスモードの彩希はそこらのビジネスマンよりデキるだろうな。
「……え?」
「どうした?」
「彩希嬢ちゃん、……まだ16なのか?」
「いや、なんでお前が知らないんだよ」
「それがな……俺も色々と動いてはみてるんだが、彩希嬢ちゃんに直接会ったことはまだないんだ」
「は? だってこの前、不穏な動きがあるから注意しろって……」
「それは情報源がまた別なんだよ」
「いったいどこの……――そういえば、動きあったぞ」
「なに?」
「前に言ってた妨害だよ」
「なっ――!? ……大丈夫だったのか?」
「ああ、まあ一応はな。上木が助けてくれたから」
「上木が? 珍しいこともあるもんだな。てことはプログラム関係か?」
「全く身に覚えのないコードが入ってたんだ」
「どういうことだ? コードの鬼のお前がチェックしなかったのか?」
「いや、もちろんチェックはしたよ。テストも問題無かったんだ」
「……なのに、覚えのないコードが入ってた?」
「そうなんだ」
「それを上木が見つけたのか? なんか怪しくないか?」
「俺も一瞬疑ったんだけどさ、パワハラとか意地悪なら皆の前で怒鳴るだろ? それに有栖川の案件は社運が掛かってると言っても過言じゃない。上木はそこまで馬鹿じゃないさ」
「だとしたら、本当にお前の凡ミスか、あるいは他に犯人がいるってことか」
「ああ。俺は塩谷が怪しいと思ってる」
「塩谷? あー、有栖川の案件を横取りされたって逆恨みか?」
「正当とは言えないが、動機としては十分だろ?」
俺としてはかなり有力な線だと思っているが、雷都はピンと来ない様子で唸る。
「うーん……でもそれはちょっと考えづらいかもな」
「どうしてだ?」
「塩谷にはアリバイみたいなものがあるんだよ」
「アリバイ?」
「有栖川プロジェクトから外された塩谷が別の仕事やってるのは知ってるか?」
「ああ。なにをしてるかまでは知らないけど」
「木村システムに常駐してるんだよ」
「常駐? 塩谷が?」
意外なことを聞いて目を丸くする。というのも、塩谷は常駐に向かないと言って課長の早山があえて振らなかったからだ。
常駐というのは、プロジェクトが終わるまで何ヶ月も客先に滞在する仕事だ。その間は客先が設定した単価で雇われて仕事をするから、期間が長ければ長いほど
塩谷自身は儲かる仕事だからとやりたがっていたが、なんせあの性格だ。客先で
「それだけ有栖川の案件は塩谷にとって大きかったんだよ。テキトーに茶を
「その常駐はいつから?」
「お前が有栖川の担当になった3日後にはもう決まってたよ。早山課長も仕事早くなったよな」
「……ということは、担当替えの話をした時にはすでに常駐のことを考えていたのか。本当に昔の早山さんに戻ったような感じだな」
「昔の?」
「そうか、まだ雷都が来る前の話になるか。福山って先輩から聞いたことがあるんだよ。課長になる前の早山さんはものすごく優秀な
「それマジかよ? 今の早山課長しか見てないから想像つかないな」
「俺も昔の早山課長は知らないけど、実際に今はバリバリ仕事ができる人だからな。
「ま、なんにせよ助かるけどな。――そろそろ話を戻すぞ」
話しながらカツ丼を食べ終えた雷都は、箸を置いて話題を戻す。
「彩希嬢ちゃんがまさかJKだとは思わなかったが、下手したら娘と思われるだろうし堂々としてればいいんじゃないか?」
「さすがに娘は難しいだろ。銀髪だし」
「ハーフなのか?」
「いや、どう見ても日本人だった」
「なら髪を染めてるだけだろ」
「まあ、髪色は置いといても、娘なんて偽って有栖川の関係者に知られたら大変だぞ」
「パパ活とか援助交際と思われて誤解されるほうが大変だと思うけどな」
「とにかく、どうすれば上手くやれる?」
「そんな
「す、すまん……。どうしたら女の子と上手く話せるかな?」
「そうだなー、お前の場合は特に女子に対して免疫無いからなぁ。とりあえず後で気をつけるポイントをLINEで送るわ、そろそろ戻らないと」
「やばっ! もうこんな時間か!」
雷都の協力を得られることになったのは大きい。あとは俺が上手く話せれば! ……本当に大丈夫か?
To be continued→
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