第69話 レッスンの合間の激闘・後編

「さーて、さっさと倒すためには、やっぱり徹甲弾アーマーピアシングかな?」

『マスターであれば可能だと思われますが、一つ大きな問題があります』

「問題?」

魔物アノバリウスの攻撃範囲が広すぎて狙撃地点スナイプポイントがありません。かといって離れ過ぎると命中率が大幅に低下してしまいます』

「うーん、攻撃が届かないように、かつ離れ過ぎないような所から攻撃かぁ……」


 なんか良いアイデアがないかと模索していると、また魔物アノバリウスが攻撃モーションに入る。


「今度はなんだ?」

『デー……に……こう……ます』

「メイプル? ノイズか?」


 そのかんにも周りの魔法少女が攻撃しようとするが、魔法が上手く発動していない。なにかがおかしい。

 赤黒い角がバチバチと光ると、軽い破裂音がして衝撃波が広がる。


「くっ!」


 ……妙だ。確かに衝撃波は来たが、さっきまでの攻撃に比べると明らかに緩い。ダメージ入るような攻撃じゃない。別の目的? ――となると答えは二択だな。


「状態異常か特殊効果か……。メイプル、この場の魔法少女全員の状態をモニターして異常があれば報告してくれ。――……メイプル?」


 と、周りから悲鳴が聞こえた。同時に俺にもその異変が起きた。


「えええええええええええ!?」


 力が抜けて浮くことができずに落下する。当然他の魔法少女も落ちていてパニック状態だ。失神してる子もいる。


「東山さん! くそっ、メイプル! ハローメイプル!!」


 いくら呼び掛けても反応が無い。そして落ちていく魔法少女たち。これは――


「魔力キャンセラーか!?」


 マジかよ! こんなの卑怯だろ!

 どの範囲まで影響があるのか分からないから魔力が戻る期待はできない。そして魔力が無いということは俺以外の全員が魔法少女モードが解除されてるということ。

 つまり、魔力が戻ったところで魔法少女に変身する必要がある彼女たちは


「――っ!」


 ダメ元で魔法の杖のボタンを連打する。メイプルと通信できないってことは緊急コールも機能しないんだろうが、今はもう藁にもすがる思いってやつだ。


「ぷに助えええええええええ!!」

「スレイプニルだっ!!」


 幻覚じゃないよな? ぷに助が来てくれた?

 だがすでに地上の街が見えてきた。ぷに助だけで助けられるのは一人か二人しか……。


「間に合わんな……致し方あるまい!」


 ぷに助の体が白く光り輝く。これはワュノードにやられそうになった時、一瞬だけ見せた本気みたいなやつか。

 白い大きな翼が空に広がると落下速度が大きく減少した。まるでフワフワと浮いてるような感じでゆっくりと近くのビルの屋上に降り立つ。


「助かったのか……」

「感謝しろよ」


 いつの間にか元のぬいぐるみになったぷに助が隣にいた。


「他の魔法少女は?」

「全員無事だ」

「良かった……。そうだ、ハローメイプル。……だめか」

「いったいなにがあった?」

「恐らく、アノバリウスの特殊攻撃――魔力キャンセラーだ」

「なんだと!?」

「メイプルとの通信にノイズが入ったと思ったら通信ができなくなって、そのあと軽い衝撃波が来たと思ったら全員の魔法少女モードが解除されて落下したんだ。――緊急コールは別なんだな?」

「当たり前だ。専用回線を使ってるからな。そうでなければ緊急コールの意味がない。よく気づいたな、お前にしては上出来だ」

「いや、ただもうこれしか手がなっただけだ」


 この緊急コールが無ければ、俺も他の魔法少女も全員死んでた。

 ――自惚れてた。メイプルがいればサポートしてくれるし、徹甲弾アーマーピアシングさえ撃てれば勝てるだろうとアナライズすらおこたった。


「……魔法少女は命懸けの仕事だってこと、改めて痛感したよ」

「お前は今までか、ゴリ押しで相手の両極端としか戦闘経験がない。その経験のムラがお前の弱点ではある。だが今回のことはお前のせいではない」

「なんでそう言える?」

「恐らくメイプルはこう言おうとしてたはずだ。『』と」

「データにない?」

「ランクAの中でも上位に位置するあの手の魔物には未解明の部分も多いのだ。先日お前の職場近くに現れたヒューザという魔物も、角の先端に毒があるという新事実がその時に発見された」

「毒? 大丈夫だったのか?」

「……分からん。小山内おさない空羽あきはという10キロメートルエリア担当がその毒を受けてな、未だ治療中だ」

「マジかよ……」

「別にお前を慰めるわけではないがな、まだまだ未知数の魔物がいるということだ」

「……そっか、分かった」


 とりあえず、状況を整理して考えよう。

 魔物アノバリウスの特殊攻撃によって魔力が使えなくなってしまった。ぷに助に助けてもらったはいいが、全員魔法少女モードが解除されてる上に気を失っている。

 そして、上空には悠然とドラゴン――魔物アノバリウスが眼下を見下ろしている。


「この状況下でできることって言えば、玉砕覚悟の特攻か……撤退しかない」

「答えはもう出ているな」

「――ああ。即時撤退だ」


 悔しいが、今はまだ勝てない。徹甲弾アーマーピアシングさえ撃てれば勝てるとは思うが、撃てなきゃ意味がない。


「でも、魔物あいつは放っておいて大丈夫か?」

「心配するな、すでに高位ハイランク魔法少女に緊急要請をしてある」

「そうか……。それに、どうやって撤退すればいいんだ? 飛べないぞ?」

「その前に一つだけ口裏合わせしろ」

「はい?」

「お前は。いいな?」

「……他の魔法少女に知られたくないってことだな? 分かった」

「よし、理解が早くなったな」

「馬鹿だったって言いたいのか? 喧嘩売ってるのか?」

「では行くぞ」


 ぷに助が端末を操作すると足元に魔法陣が浮かび光に包まれる。そして次の瞬間、本部らしき建物の中にいた。


「転送魔法か?」


 周りを見ると他の魔法少女もちゃんといる。

 ……そういえば、なんで俺は魔力を失っても魔法少女モードのままなんだ?

 以前から気になっていた。デュプリケートで倒れた時も、ワュノードに魔法の杖を壊された時も、普通なら魔法少女モードが強制解除されるはずの状況で俺は魔法少女の姿のままだ。


「いったいどうして……」

「うー……ん」


 隣から声が聞こえたので振り向くと、制服姿の東山がそこにいた。


「東山さん!」

「ん……。あれ? かえでさん?」


 目が覚めて起き上がると、「ここは……本部? っ! アノバリウスは!? ――いったい……なにがあったの?」と俺に訊ねる。


「分かりません、私も気づいたらここにいたので……」

「そう……。誰が助けてくれたのかしら? 悔しいけど、ランクAの上位は伊達じゃなわね。私たち全員がここにいるってことは、高位ハイランク魔法少女が動いたのね、きっと。――そうだ! 早くスタジオに戻らないと!」

「でも、他の人たちはどうしましょう?」

「そうだ、皆も起こさないと。みんなー! 起きてー!」


 ……しかし誰も起きなかった。


「こうなったら、やるわよかえでさん」

「へ? やるって、なにを?」

「ライブに決まってるじゃない!」

「……え? えええええええ!?」


 東山は驚く俺のことなどお構いなしにスマホで音楽を流す。HuGFの代表曲『Believe My Way』だ。


「これなら、かえでさんも歌いやすいでしょ?」

「でもいきないそんな……!」

「ほら、行くわよ! ――『どこにでもある“普通”そんなもの私は求めてないわ』」


 区切りでこちらにウィンクする。俺に続きを歌えということらしい。こうなったらもうヤケクソだ!!


「『クラクラ目眩がするほど輝く、そんな人生にしよう、一度しかないんだし楽しまなきゃ損でしょ?』」

「『やりたいことをやろう、やらない後悔よりやる後悔のほうがいいー!』」


 歌っていると、次々と女の子が目を覚ます。皆なにがあったか分からないまま、本物の東山煌梨きらりが歌っているのを見て「うそーっ!?」「きゃー!!」と驚き興奮する。


「「せーのっ」」

「「『私は私でりたいの、線路レール道路ロードも自分の王道みちに変えてゆくわ』」」


 せーの、はアドリブだ。一緒に歌っているからなのか、アイコンタクトで合わせることができた。しかも東山がハモリパートを歌ってくれるという贅沢なフレーズだ。

 ワンコーラス歌いきった頃には全員が起きて割れんばかりの拍手と黄色い声が部屋に響き、まるで本物のライブ会場のようだった。


「みんなー! ありがとう!」

「東山さーん!」

「隣の子は新しいメンバーなんですか!?」

「ふふ、それはまだ秘密だけど紹介するわ。期待の魔法少女新人エースであり、私がプロデュースする新人アイドルの姫嶋かえでよ!」


 十数人もの魔法少女の前で歌わされた上に唐突のアイドルデビュー宣言。いよいよ後戻りができなくなった……。


To be continued→

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