第68話 レッスンの合間の激闘・前編
「こんばんはー」
「かえでさん、いらっしゃい」
仕事を終えてのレッスンもだいぶ慣れてきた気がする。HuGFのメンバーに囲われるのは相変わらず慣れないが……。
「さて、今日は久しぶりに歌唱トレーニングしましょうか。まずリップロールから」
「はい」
あれから何度か歌ってみたが、やはり自分自身では上手いのかどうか判断できない。かといって会社の人間に聞かせたくはないし、結局はHuGFのお墨付きとぷに助、メイプルの反応が全てだと思うことにした。
「うん、だいぶ安定してきたわね。普段もちゃんとやってる証拠ね」
「ありがとうございます」
「じゃあ次はロングトーン、20秒やってみようか」
「20秒ですか!?」
「10秒は安定してきたし、そろそろいけるんじゃないかしら?」
「が、がんばってみます……」
あぁーーーっ、と同じ音程で声を出し続ける。これが地味に難しい。10秒が安定してきたと言われたが俺は不安しかない。
苦しくなってきた頃に「あと5秒!」とカウントダウンが始まる。残り3秒ですでに空気がほとんどない。
「あぁぁ……!」
「20! ――大丈夫?」
「はぁ、はぁ、はぁ……、しんどいです」
「さすがにまだ厳しいかな? もっと安定するまで10秒でやりましょうか」
「はい……そうしてもらえると助かります」
「こんばんはー」
ちょうど練習が一区切りついた時に卯月響子がやって来た。
「かえでちゃん久しぶり〜!」
「お、お久しぶりです」
抱きしめられて頬ずりされる。最近はスタジオに来るたびにスリスリされて、そのたびにガチガチに緊張する。
「ほら響子、かえでさん困ってるじゃない」
「えー? そうなの? かえでちゃん?」
「いや……その……」
「そんな風に訊かれたら返答に困るでしょうが。ほら離れて離れて」
「あーん、きらちゃんのいじわる〜」
HuGFメンバーの中でも最年長のはずの卯月だが、東山のほうがお姉さんといった感じだ。
「さて、じゃあ次は――」
言いかけて、東山はスマホを取り出して見て少し表情を曇らせる。
「かえでさん、ちょっといい?」
「え? はい」
「ごめんね響子、ちょっと出てくる」
「はーい、いってらっしゃ~い」
スタジオを出て外に行くと、ネックレスにしてる魔法の杖を見せる。
「ごめん、ちょっと協力してもらっていい?」
「魔物ですか?」
「ええ。ランクAのアノバリウスって分かる?」
「いえ、初耳です。どんな魔物なんですか?」
「そうね、一言で言うなら……ドラゴンかしら?」
またドラゴン? この前もドラゴンだったけど。
「ランクBにもドラゴンいますよね?」
「よく知ってるわね。ちょっと遠いから飛びながら説明するわ」
「分かりました」
「じゃあ、ついてきて」
東山は魔法少女に変身すると空へ上がった。俺も変身する――ように見せて衣装だけ変えると、その後について飛ぶ。
東山もスカートなので
「魔物には種族があるのは知ってる?」
「はい」
「その種族の中にも優劣というのはあるのよ、人間と同じようにね。そしてランクが異なると呼び方が変わる魔物がいるの」
「それが今回のドラゴンなんですね?」
「そう。ちなみにランクCがリノス、ランクBがリグノール、ランクAがアノバリウスよ」
出世魚……とはまた違うか。同一種族内でもランク差があるというのは、魔物からしたらどう思ってるんだろうか?
「それで、ランクAのドラゴンはやっぱり強いんですか?」
「強いわ。……リグノールとは戦った?」
「はい」
「どうだった?」
「どう……と言われても。ピュアラファイが龍鱗に弾かれたのは驚きましたけど」
「そう。魔法耐性がとにかく高いのよ。かえでさんはどうやって倒したの? 先輩か誰かいた?」
「いえ、むしろ1キロメートルエリア担当の子から応援要請が来てて、それで私が行って助けました」
「え? ちょっと待って、1キロメートルエリア担当が遭遇したの? かえでさんが助けた?」
「はい、そうですけど」
もしかして助けたのはまずかったか? それとも1キロメートルエリア担当がエリア外行動したの言っちゃったのがまずかったか?
もし後者なら名前くらいは伏せておくか。
「――あれか!」
そうこうしてるうちに現場に近づいた。それが分かるほど遠目から見ても大きい魔物がいた。
〈ハロー、メイプル〉
〈マスター? 魔法通信からは珍しいですね〉
〈これから数名の魔法少女とランクA・アノバリウスと交戦する。なんかあったらバックアップ頼むわ〉
〈分かりました〉
体躯はリグノールより二回りほども大きく、禍々しい角は赤黒く、龍鱗は金色に輝いている。ランクBが銀でランクAが金というのは安直な設定感あるが、魔物からしたらそんなの大きなお世話というやつか。
「東山さん!」
「お待たせ、状況は?」
「見ての通りですよ。他にも10キロメートルエリア担当が十人ほど応援に来てくれましたが、決定打どころか有効打すら厳しい状況です」
「でしょうね。本当なら
状況はかなり不利のようだ。こちら側の被害はまだ軽微なものの、アリが象に立ち向かうようなものだろう。
〈
〈近いところで30キロメートルほど離れています。あちらもランクAと交戦中ですので、まだしばらくは応援に来れないかと〉
〈この前の
〈ランクBから飛躍的に防御が上がった、という報告はありませんので、通る可能性は高いと思われます〉
〈じゃ、タイミング見計らって撃ち込むか〉
と、様子を窺っていると向こうが動いた。
「グオァァァーーーッ!!」
「うるさっ!?」
黒い翼を広げると、翼が赤く光る。明らかな攻撃態勢に全員が身構える。
「なんだ?」
〈全体攻撃です〉
「今なら撃てるんじゃないか?」
〈いえ、すぐに攻撃が来ますので防御してください〉
「……そういえば私、防御魔法知らないぞ」
〈ではサポートします〉
「助かるよ、お願い」
アノバリウスは赤く光る翼をバサッと
「うわっ!」
メイプルが防御魔法を発動してくれなかったら確実に墜ちてたな……。
「メイプル、被害状況は?」
『ほとんどの魔法少女が無傷でやり過ごせてます。一人逃げ遅れてダメージを受けたようです』
「深刻か?」
『命に別条はないようですが、右腕と肋骨が折れた可能性が高いですね』
「助けに行くか」
ダメージを受けた魔法少女のもとに飛ぶと、一人泣きそうに介抱していた。
「大丈夫だよ、きっと……助かるって……」
「うん、ありがとう……。――誰?」
「え?」
俺に気づいたようでこちらを振り向く。
「怪我したのはそっち?」
介抱されている方の子を見ると、頷いて答える。
「これあげるから飲んで。少し下がって回復したら復帰してね」
「あの、いいんですか?」
「うん。早く飲んで回復してきな」
「は、はい! ありがとうございます!」
優海さんに貰ったRドリンク、自分で使うよりあげるほうが多いな。
「まあいいか。さて、さっさと片づけてレッスンの続きだ!」
To be continued→
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