第67話 不穏な動き
カタカタ……とキーボードの打鍵音がオフィス内に響く。
有栖川彩希からの条件をクリアして始動したプロジェクト。大型案件のためチームで動く。といってもメンバーは限られているので、新島と佐々木と安西――いつもの面子だ。
「ところで、安西先輩もメンバーですよね? 最近見ませんけど、どうしてるんですか?」
「ああ、あいつは有栖川
「え? 安西先輩ってエンジニアじゃなかったんですか?」
「一応担当は
「なんでエンジニアやってるんですか……?」
それは俺も昔から思ってたことだ。雷都の能力やキャパを考えれば他にいくらでも良い仕事はある。それなのに『お前一人じゃ可哀想だろ?』とだけ言ってうちに来てくれた。
でも、もし本当に俺のためだとしたら、俺があいつの多才を潰してるようなものだよな……。
「さあな……。新島、ここのコードこうしてみたらどうかな?」
「えーと……ああ、いいかもですね!」
有栖川彩希に直接依頼され任されたことで舞い上がっていたが、今回は特に雷都が動いてくれるおかげで仕事に集中できている。
……今度ちゃんとお礼しないとな。
〈マスター、お仕事中失礼します。魔法少女からの応援要請が入りました〉
〈緊急か?〉
〈少し危ないですね。交戦中の魔法少女は1キロメートルエリア担当の柳瀬みのり。
メイプルは
〈近くに他の魔法少女はいないんだな?〉
〈マスターだけです〉
〈分かった〉
ややわざとらしく「うーん……!」と声を出して身体を伸ばすと、「休憩するかー」と言い残してトイレへ行くと個室に入り魔法少女に変身する。
「どこだ?」
『西に1キロメートルほどです』
「分かった!」
飛んで行くと、その姿はすぐに見えてきた。
だがあれはどう見ても……。
「おいおい、ドラゴンかよ」
銀色に輝く龍鱗と禍々しい2つの角。まるで剣と魔法のファンタジー世界から飛び出して来たんじゃないかと思うほどのドラゴンだ。
「これ本当にランクBなのか?」
『ランクはあくまで総合的評価ですので、見掛け倒しの可能性もありますね』
「見掛け倒し……。それはそれでやだな」
とにかくまずは魔法少女の救出だ。「こっちに!」と叫ぶと俺に気づいたらしく、ポニーテールを揺らしながら一目散に逃げて来た。
「助かりましたぁ!」
「大丈夫?」
「な、なんとか……」
よく見ると赤いドレスがボロボロで体も傷だらけだった。
「これ使って」
Rドリンクを手渡すと、「え? い、いいんですか?」と困惑する。
「いいんだよ、ちゃんと飲んでね」
「は、はい! ありがとうございます!」
柳瀬を安全圏に避難させると、ドラゴンに立ち向かう。
「さーてと、まずはあの銀ピカにピュアラファイが通用するのかどうか」
もうだいぶ感覚を掴んだクイックドロウで
「うーん、さすがに無理か」
俺を敵と認識したのか、重低音響く咆哮で威嚇して口元で火の玉を作り始める。まんまファンタジーのドラゴンだな。
「さて、じゃあお試しと行きますか」
ライフルモードの魔法の杖を構えて「
バレルとかの術式はまだ無いけど、この距離ならまあ大丈夫だろう。
久しぶりに
弾丸――というよりも赤い閃光が走り、火の玉を突き破ると銀色の龍鱗を破壊して胸のあたりに大きな穴を開けた。まるでアニメでよくある高出力レーザーでも撃ったかのようだ。
《魔物を浄化しました。100MPがチャージされます》
「すげーな徹甲弾!
『妙ですね、徹甲弾による攻撃データとは合いませんが……』
「え? どういうこと?」
『徹甲弾は貫通力が高い弾丸ではありますが、ここまでの威力は過去のデータにはありません』
「うーん? なんだろ」
『推測ですが、マスターの強い魔力が影響してるのではないかと』
「ふーん、まあいいや。ピュアラファイ以外に強力な武器があるのは心強い」
避難させていた魔法少女、柳瀬のもとに戻ると「ありがとうございました!」と深々頭を下げられる。
「いいって、気にしないで。治ったようで良かった」
「はい! ごちそうさまでした!」
「今後は自分のエリアから出ないように気をつけてね」
「はい……すみませんでした」
「それじゃ」
「あ、あの! お名前は?」
「姫嶋かえでだよ」
会社に戻ると、トイレの個室に入って変身を解除する。
「ふぅ……。さて、戻るか」
職場に戻ると、そこには雷都がいた。
「よう、久しぶりだな」
「もう仕事終わったのか?」
「いや、たまにはお前と飯食いたくてな」
「――ああ、そろそろ昼か。いいよ、行こう」
「よっしゃ! いつものとこ行こうぜ」
「先輩お昼行くんですか? じゃあ私も――」
「悪いな弥生ちゃん、今日は二人で行きたい気分なんだ」
「えー?」
雷都が二人きりで話したい、というサイン。こういう時はあまり良い話題じゃないことが多い。
「すまんな、新島。明日また行こう」
「はーい、いってらっしゃ~い」
社を出ると、すぐ向かいにある小さな食堂へと入る。雷都と二人だけの時にだけ利用する、
奥の席に座ると、雷都は煙草に火を点ける。
「で、どんな厄介話なんだ?」
「ハハッ、分かるか?」
「そのための暗号だろうが」
内緒話しをするための暗号、「たまにはお前と」「いつものとこ」この2つのワードが揃うと「二人きりで秘密の話がしたい」という意味になる。
子供じみた暗号だが、今まで誰にもバレたことはない。
「……実はな、今回のプロジェクトの裏で不穏な動きがある」
「不穏な動き?」
「どうやら有栖川の彩希嬢ちゃんを良く思わない連中がいるようでな」
「彩希を? あんなに仕事できるのに?」
「ばーか、仕事ができるイコール人望があるわけじゃないんだよ」
「そりゃあ、そうだろうけど……」
「お前は気に入られてるみたいだから良いだろうけどな、切る時は容赦なく切る。それが逆恨みの種になることだってある」
「……まさか、塩谷さんか!?」
「声が大きい。……どうかな、その線が無いとは断言できないが……とにかく妨害がある可能性は高い。気をつけろよ」
「気をつけろったって……。プログラムの妨害ならなんとかなるけど、物理的に妨害されたらどうしようもないぞ」
「お前はプロジェクトメンバーを守ってくれればいい。その他は俺が目を光らせておく。――注文お願いします!」
「分かった。頼りにしておくよ」
「おう、任せろ」
注文しながらも、俺の頭には彩希のことばかり浮かんでいた。魔法少女としてなら守れる自信はあるが、俺自身は無力だ。それに俺は俺の仕事がある。
――一応、念の為に手を打っておくか。
To be continued→
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