第66話 メイプル、オンライン
「有栖川
仕事終わりに
「ぷに助が用意してくれた学校の協力者にいるんだ。もちろん魔法少女として」
「……確か、有栖川彩希の妹だと思います」
「妹か……有栖川に魔法少女がいるっていうのは知ってた?」
「いえ。有栖川の家系にはいないはずです。おそらく
「そうか……魔法少女家系の
「はい。そうしていただけると助かります」
「分かった。じゃあまたなにかあったら連絡する」
紫と別れると、本来の目的である技術班のエリアへと向かう。本部は訓練棟とは違って一般的なビルと同じ作りになっていて、上に行くには階段かエレベーターだ。
エレベーターで23階に行くと、研究室と書かれた部屋に入る。
「お邪魔します」
部屋の中はかなり広い。机が並ぶイメージだったが、どちらかといえば外資系のオフィスに近い。
近くの人に小堂藍音の場所を訊ねると、案内してくれるという。
「ここに来るのは初めて? えーと……」
「姫嶋です。初めて来ました」
「姫嶋さんね。私は佐藤です、よろしくね。魔法少女になってからどう? 大変?」
「よろしく。……最初は大変でしたね、なにも分からなくて」
「なにもって……スレイプニルから説明あったでしょ?」
「いや、それが色々あって魔物と戦うことくらいしか聞いてなくて……」
「えーっ!? なにそれ、そんなことある?」
話しながら歩くと、奥の方に作業中の藍音が見えた。
「藍音ー、お客さんだよー」
「……え?」
顔を上げてこっちを見ると、「かえでさん!?」と驚き慌てて立ち上がろうとして転けた。
「もう、そそっかしいんだから……大丈夫?」
「いたた……。はい、なんとか」
「久しぶり、藍音」
「お久しぶりです!」
「じゃあ、私は戻るから」
「はい! お疲れさまです!」
「ありがとうございました」
案内してくれた佐藤さんが戻ったのを確認して、まずはメイプルのお礼を言う。
「メイプル作ってくれてありがとね、藍音。すごく助かってるよ」
「いえ、そんな! お役に立てたのならよかったです」
「あまりに便利で最近頼り過ぎなとこもあるけど……」
「あはは! どんどん使ってあげてください」
「ありがとう」
「それで、今日はどうしたんですか?」
「そうそう、魔力の路を整理したくてね」
「なるほど。そういうことでしたら、ちょっと魔法の杖を預かってもいいですか?」
「いいけど……?」
魔法の杖を渡すと、なにやらケーブルを杖の底に挿して
「魔法の杖ってPCに繋げられるんだ?」
「はい。でも普通のPCでは接続できませんよ。天界から支給される専用ケーブルを接続するポートと専用ソフトが必要になります」
なるほど、さすがに天界の機密だけはあるな。
「……これでよし。メイプルとリンクさせたので、いつでもどこでもシミュレーター使えますよ」
「……え? そんなことできるの?」
「はい。毎回ここに来るのは面倒でしょう?」
「いや、それは確かに助かるんだけど……藍音すごいね本当に」
「いやー、これくらいお安い御用ですよ!」
「そういえば、一つ話があるんだけど」
「なんでしょうか?」
「メイプルの
「それは……」
「藍音の思いはもちろん分かった上でのお願いなんだ。メイプルのパフォーマンスはかなり高いけど、それは
「……すごいですね、かえでさん。そこまで見抜けるなんて」
見抜くっていうか、どう考えても
「自分で言うのもなんですが、メイプルは最高傑作の魔法AIなんです。でもそれは……」
「私のために作ってしまったから、中立の理念から
「……はい」
「大丈夫。もしなにか言われても私が二人を守るから」
「二人……?」
「うん、藍音とメイプル」
「――!!」
「私にはもうメイプルが必要不可欠だし、藍音のことも必要なんだよ。こんなにも私のことを考えてくれるエンジニアは他にいないだろうからね。藍音とメイプルと私の3人でやって行きたいんだ」
「かえでさん……うっ……」
「えっ!? なな、な……なんで泣いてるの? 大丈夫?」
「はい……。ぐすっ……わたし、嬉しくっ……て……ひっく」
「……これからもよろしくね」
本物の女子ならここで抱きしめて頭撫でてあげるっていう感動的な
……それでも、なにもしないで突っ立ってるだけなのも薄情に思えてならないから、頭を撫でてみる。
「よしよし」
「うぅ……かえでさぁーん!」
「うぁっ!?」
まさかの藍音が抱きついてきて軽く脳内パニック状態になるが、ここまで来たらもう覚悟を決めるしかない。左手を腰に回して抱きしめながら右手で頭を撫でる。
「うわぁーーーん!!」
「ちょっ、ホントに大丈夫……!?」
幸いにも顔が胸に埋まってるから、そんなに声は漏れてない……はず。
それにしても……いくらなんでもこの反応は異常だ。メイプルを本格稼働させられる嬉しさもあるんだろうけど、それ以上になにか……抑圧されてたなにかがあったようだ。
「……大丈夫、もう大丈夫だよ」
小さい子供を安心させるように語りかける。
過去になにがあったのかは察する他ないが、この流れから考えると褒められたことか認められること。つまり承認欲求の
……いや、本質は違う気がするな。
「う……ぐすっ……すみません。みっともないとこを……」
「いいって、泣きたい時はいつでも胸を貸すよ」
「ありがとうございます。もう、大丈夫です」
「メイプルの
「はい、そんなに難しいことではないので。ちょっと待ってくださいね。……できました」
「もう!?」
「一応あとから簡単にアクセスできるようにオン・オフのスイッチつけておいたので」
「うん、エンジニアの
同じエンジニアとして心の底から称賛する。
「ありがとうございます!」
「ちょっと試してみていい?」
「大丈夫ですかね……?」
「大丈夫、メイプルと私を信じて。――ハロー、メイプル」
『お呼びですか?』
「今しがた
『システムチェックします……。
「いいの。私が許す」
「かえでさんがいいなら、私は良いです」
『ありがとうございます。マスター、ドクター藍音』
「よし、じゃあまずは全魔法少女の所在をモニター表示して」
「えっ! 全部ですか!?」
『分かりました。……表示します』
24インチほどの大きさのディスプレイが空中投影されると、そこに日本地図が表示され、魔法少女の位置が青い点で表示された。
「すごい! こんな一瞬で――」
興奮する藍音に人差し指を立てて「静かに」と落ち着かせる。
「すみません……」
「いや、私も驚いたよ。……次は、柴田
「柴田……?」
すると、地図上全ての光点が消えた。
「えっ、消えた……?」
「魔法少女の反応は、変身してないと出ないのか?」
『いえ、魔法少女の反応というのは正確には魔法の杖の反応となるので、変身していなくても出るはずです』
「建物内で反応しないとかは?」
『魔法の杖のビーコン機能は魔法通信と同じ方式なので、電波のように通じにくいということはありません』
「そうか……」
「どういうことなんですか?」
「ちょっとね、気になることがあって。まだ調査中としか言えないから、藍音も内緒にしておいてくれると助かる」
「それはもう……かえでさんが言うならもちろん」
確かに魔法少女として俺の前に現れて、一緒にブルブッフを倒したはずの柴田雫。
いったい何者なんだ……?
To be continued→
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