第65話 記録が無い

『マスター、近くの魔法少女から応援要請です』


 仕事を終えて、アパートに帰ってぷに助にの件を相談しようと思ってたらメイプルから通信が入った。


「応援要請?」

手強てごわい魔物に遭遇そうぐうしたようです。近くの魔法少女に助けを求めてます』

「俺が行っても平気なのか?」

『魔物はランクB相当と推定されます。マスターであれば問題ない相手かと』

「ふーん……まあ、ポイント稼いでおきたいし、行ってみるか」


 近くのコンビニのトイレを借りて変身すると、要請のあったポイントへ向かう。そこには二人の魔法少女が空中戦していた。


「あれ? 二人いるじゃん。もう応援来てたの?」

『いえ、応援が来た情報はありません。マスターが一番ですね』

「ということは、二人でってて倒せないってこと?」

『そうなります』

「まあ、そういうこともあるか。――アナライズ」


【中型ランクB・ポルヌス】

【瞬間的に亜音速移動する。マンタのような見た目をしており攻撃を自動回避する。攻撃力は比較的低く主に偵察や撹乱かくらんを目的とする】


「偵察や撹乱? そういえばH公園でも偵察っぽい魔物がいたな。また魔物が情報収集してるのか?」

『可能性はあります』

「ま、いいや。とりあえず行こう」


 近づいて「応援に来ましたー」と言うと、二人揃って「助かりましたー!!」と、こちらへやって来る。どちらも中学生くらいだ。


「攻撃は、そんなに……痛くないんですけど、とにかくすばしっこくて……。攻撃が当てられないんです」


 ソフトモヒカンのやや気合い入った子は息が上がっていた。悔しそうに拳を振るところを見るとコンバットか。


「そうみたいだね」

「あの、お願いできますか!?」


 もう一人は姫カットの可愛らしい感じ。いわゆる小動物系といった感じがある。魔法の杖が変化してないところを見ると、俺と同じマジカルのようだ。


「とりあえず、やってみるよ。二人は逃さないよう牽制お願い」

「「はい!」」


 さて、と。

 新たに登場した魔法少女に警戒しているのか、様子を見るようにフワフワと浮いている。

 まだ魔力の路の整理はできてないけど、今までの特訓を試すにはちょうどいい。亜音速移動する自動回避システムに通用するかどうか。


「――ピュアラファイ」


 魔法の杖を魔物ポルヌスに向けると同時に閃光が走る。貫かれた魔物ポルヌスは力無く落下した。


《魔物を浄化しました。50MPがチャージされます》

「久しぶりだなー、このアナウンス」

『お見事です。マスター』

「サンキュー」


 正直こんなに上手く行くとは思わなかった。クイックドロウを修得してなかったら苦戦してたのかもな。


「終わったよー。……って、あれ?」


 二人してポカーンと呆けてる。


「おーい、大丈夫?」

「――す、すごいですね!」

「うんうんうん!」


 ソフトモヒカンの子は興奮して「すげー!」と語彙ごい崩壊ほうかいし、姫カットの子はヘドバンするように頷きまくっている。


「あんな綺麗なピュアラファイ初めて見ました!」

「うんうんうん!」

「あ、ありがとう……?」

「あの、お名前聞いてもいいですか!?」

「えーと、姫嶋かえでだけど」

「自分は二階堂亜未あみっていいます!」

「私は唐沢七奈ななです!」

「姫嶋さん、ほんっっっとうにありがとうございました!」

「ありがとうございました!」

「二階堂さんと唐沢さんね、無事で良かったよ。じゃあ、私は帰るね」


 なんだかテンション上がった二人は見えなくなるまで見送ってくれた。


「なんだか柴田を思い出すなぁ」

『どなたですか?』

「以前、任務中に出会った魔法少女だよ。1キロメートルエリア担当で魔法少女MポイントPのペナルティを受ける寸前だったところを助けたんだよ」

『そんなことがあったんですね。記録にはありませんが』

「記録に無い?」

『はい』


  少し遠回りにはなったが、魔法少女に変身できたので結果的に早く帰れた。


「ぷに助に連絡してくれ」

『分かりました』


 変身を解除して元のおっさんに戻る。もはや慣れたものだ。

 冷蔵庫からビールを取り出してプルタブを起こすと、カシュッと良い音が鳴る。


「さっきの話だけど、記録に無いっていうのはどういうことなんだ? そもそもどういう事柄が記録に残るんだ?」

『魔法少女モードでの活動が全て記録されます』

「ドライブレコーダーみたいなものか」


 ゴクゴクとビールを喉に流し込むと、一日の疲れが取れるようだ。


「ふぅ……。柴田との記録だけが無いのか?」

『H公園での事件は一部欠落が見られます』

「ということは、柴田の時もなんらかの理由で欠落した?」

『いえ、欠落というよりもようです』

「最初から? 柴田が登場した時からか?」

『いつ頃でしょうか?』

「……数週間、もう一ヶ月くらい前になるか? 俺が間宮楓香を警護してて、イクサって魔物にやられそうになったところからだ」

『その時の記録はあります』

「じゃあ、やっぱり柴田と出会った時から? ちなみに記録が再開されたのは?」

『間宮楓香と出会ったところからです』


 どういうことだ? 柴田とは確かに共闘したはずだ。巨大化したブルブッフを倒したし、ポイントも入ってた。


「来てやったぞ」

「ぷに助、ちょうど良かった」

「スレイプニルだ。なんだ?」

「本題に入る前に一つ気になることがある。俺が歩夢に保護された帰りに1キロメートルエリア担当の話したの覚えてるか? 間宮楓香の警護中に出会った柴田という魔法少女のことだ」

「んー? ……ああ、そういえばそんな話もしたか。それがどうした?」

「メイプルが言うには、その柴田と出会ってからブルブッフを倒して、俺が楓香に出会すまでの間の記録が無いらしい」

「……なんだと?」

「つまり、何者かによって記録が改竄かいざんされた可能性がある」

「待て待て待て! 魔法少女の記録というのは全て天界が管理しておるのだぞ? それを改竄するなど……」

「だが実際に記録が見つからないってメイプルが言ってるんだよ」

「本当なのかメイプル?」

『はい。私がアクセス可能な範囲では該当の記録はありません』

「……なんということだ」

「これって相当ヤバいのか?」

「ヤバいなんてもんじゃない。天界のセキュリティを破れる技術を持つ者がいるというのは、由々しき事態だ」

「俺に協力できることあるか?」

「いや、その気持ちだけでいい。確かにお前の分野には近いが別モノだからな。上に報告して極秘裏に動くことにしよう。メイプルは今後もなにかあれば、些細ささいなことでも報告してくれ」

『分かりました』

「――さて、じゃあ本題に入るか」

「なんなのだ? まさかまた厄介なことじゃないだろうな?」

「それがな……東山がかえでの学校のお友だちを楽屋に招待するから紹介してくれって言うんだよ」

「ふむ。それなら問題ない」

「そう……え?」

「言ったろう、対策はしてあると。魔法少女数人が協力者として三ツ矢学院にいる。そいつらを紹介してやれ」

「お前……そんなに仕事できたのか?」

「当たり前だ!」

「でもチケットが無くて……」

「そんなもの、テレポを使えば問題ない」

「あー、なるほど……テレポにそんな裏技的な使い方があるとは……」

「協力者のデータは魔法の杖とスマホに送っておくから、あとはお前が直接連絡しろ」

「サンキュー、助かる」

「とりあえず私は柴田とやらを調べてみよう。なにか分かったらまた連絡する」

「分かった」


 ぷに助が帰ると、ビールの残りを飲み干す。

 なんだか最近、ぷに助の仕事デキる感すごいな。


「お、来た」


 協力者とやらのデータが3人分届いた。3人とも10キロメートルエリア担当で、協力者とはいえ全員ガチのお嬢様だった。


「さすがに三ツ矢学院だな。……ん?」


 一人、見覚えのある名前があった。


「有栖川……?」


To be continued→

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