第64話 増える悩みのタネ
「先輩、最近なにかしてるんですか?」
「え?」
昼休み、新島が俺のデスクへ遊びにやって来るのが最近ルーティン化しつつある。
「だって先輩、最近仕事終わるとすぐ帰るじゃないですか
ー」
「いや、そりゃ帰るだろ」
「帰ってなにしてるんですか?」
「なんだっていいだろ? 野暮だぜ野暮」
今度は横から佐々木が入ってきた。
「あんたには聞いてないのよ」
「お前にはデリカシーってもんが無いのか?」
「――って、それこの前のあたし?」
「へへ、お返しだよ」
「はぁ……子供ねぇ」
「なんだよ」
「はいはい喧嘩するな。昼飯不味くなるだろ?」
「すみません……」
「ごめんなさい」
最近はこの二人もよく絡んでる気がするなぁ……なんだかんだ良いライバルなのかもな。
「でも先輩、確かに最近はすぐ帰りますよね。まあ残業無いからって言えばそうなんですけど。もしかして女っスか?」
「なにっ……ぐほっ! ごほっ!」
「あんたねぇ、先輩に彼女はいないわよ」
「なんで知ってんの?」
「えっ? いや、この前たまたま聞いたのよ! ねぇ先輩?」
「けほっ、……ああ、そういや前にそんなこと言ったか」
「ほらね!」
「ふーん。そういえば先輩、HuGFの中で気になる子はいないんですか?」
「HuGFって、あのアイドルの?」
「おう」
「先輩、アイドルに興味あるんですか?」
「アイドルにっていうか、HuGFについては前々から佐々木に聞かされてはいたんだよ。それが最近
「えーっ!?」
「なんだよ、大きな声だして」
「な、なんでもない」
「はぁー? なんなんだよ」
「だからあんたはデリカシー無いっていうのよ!」
「ほらほら喧嘩するな。新島も興味あるのか?」
一応訊いてみると、「ま、まぁ少し……」と小声になる。
「別に恥ずかしがることじゃないだろ、HuGFのファンはむしろ女が多いんだし」
「いやほんと、女性パワーはすごいよ……」
以前、招待されて行ったライブのことを思い出して染み染み語ってしまう。
「先輩、ライブ行ったことあるんですか?」
「えっ? そうなんですか!?」
「え? いやいや! そんなわけないだろ、そう思うってだけだ」
危なかった……あの招待は東山が裏で手を回してくれた非公式なものだから、バレたら大変なことになる。
「そうだ、新島がよければライブ行くか?」
「えっ!?」
「先輩マジで言ってるんですか? もうチケット手に入りませんよ!?」
「俺のを使えばいい」
「はい?」
「余ってるのを仕方ないから使おうってことだったしな、新島が使うのはありだろ」
「いや、え? じゃあ俺と新島の二人で行くってことっスか?」
「そうなる」
「「えええぇーーっ!?」」
ほんと見事にハモるなこの二人。実は相性良いんじゃないか?
「それに俺は別の仕事が入るかも知れないから、貰ってくれると助かる」
本当はHuGFと一緒にステージに立って歌って踊るんだ。なんて言ったらどんな反応するんだろうか? 見てみたい気もする。
「でも……」
「チケットについては貰い物だから気にすることないぞ」
「え? 本当に先輩行かないんスか?」
「本当に行きたい人が行ったほうがいいだろ? 二度と行けないわけじゃないし、また今度3人で行けばいい」
「先輩……ライブ行ってくれるんですか?」
「ああ、たぶん冬になるだろうけど、その時で良ければ」
「……じゃあ、チケット頂いていいですか?」
「もちろん」
「マジかよ……」
佐々木には悪いが、俺としてはこの方が都合がいい。客として入りつつもステージに立つとか危険だし大変過ぎるからな。
「ほら、そろそろ休憩終わりだぞ。佐々木には今度また別で埋め合わせするよ」
「先輩の奢りっスか!?」
「ああ、いいぞ」
「あざーっす!」
「その代わり新島を頼んだぞ」
「お安い御用です!」
* * *
「こんばんは」
「あら、かえでさん。いらっしゃい」
昼は会社員、夜はダンスレッスン、時々魔法少女。
あれ? 定時に上がれるようになったのに忙しくなってないか?
「今日もよろしくお願いします」
「じゃあ今日も体幹トレーニングしましょうか」
「はい」
体幹トレーニングは初心者ということでプランクからやることになった。
両腕を床に付けて腰が床に付かないように維持する。腕立て伏せの、伏せ状態を維持するようなイメージと言えば分かりやすいだろうか。
これが見た目以上にハードで、たったこれだけを5分やるのがキツイ。変身してると基礎体力上がってるはずなのに、それでもキツイ。
「ぐぅ……!」
「もう少し! 3……2……1……、はい! お疲れさまー」
「ぷはぁ……!」
「あはは、かえでちゃん思ってたより体力無いわねー」
「すみません、どうも運動不足で……」
「若いうちからそんな運動不足じゃダメよー? 女の子は常に見られてるものなんだから。特に若い子はね」
「若い子って、卯月さんも十分若いじゃないですか」
「ありがとう〜! でも今年でもう10代が終わりだと思うと悲しくなるわぁー」
そういうものか? 俺からしたら若さに溢れてる年頃だと思うが……。
「そういえば、次のライブっていつやるとかもう決まってるんですか?」
「次のライブって、かえでちゃんが
「いえ、その次です」
「あら、気が早いのね。もう正式にうちの子になっちゃう?」
「ああいや、そういうわけじゃなくて……」
「ダメよ響子、かえでさんの正式加入はまだまだ先の話なんだから」
「えー? でも入ることは決まってるんだ?」
「絶対にオフレコだからね?」
「やったー! かえでちゃん、これからもよろしくねー」
思いっきり抱きしめられると、胸が……匂いが……!
「よ、よろしくお願い……します……」
「あらあらぁ〜、顔真っ赤にしちゃって。可愛い!」
正体知られたら死ぬなこれ……。色々な意味で。
「でも、本当に受け入れてもらえるのかな? 私はまだアイドルですらないのに……」
「大丈夫よ、きらちゃんそういうの上手いから」
そういうのって、裏口入学的な?
チケットもどんな裏技使ったのか……。まさか偉い人と
「かえでちゃんがアイドルデビューしたら、学校でもさらにモテモテになっちゃうわね〜」
「いや、そんな、私なんて全然……それに女の子しかいませんよ?」
「またまた〜
え? 女なのに女の子にモテるなんてあるのか。ていうか謙遜じゃなくて、学校に行ったことすらないんだよな……。
「そうだ! かえでちゃんのお友だちも呼びましょうよー」
「あ、それならもう東山さんにチケット頂きました」
「さっすがきらちゃん! お仕事早いわぁー。じゃあ
「……え?」
「かえでちゃんのお友だちだもの、会ってみたいわー」
「そうね、せっかくチケット用意したんだし、楽屋に招待しましょうか」
「いいわねー! 賛成!」
おいおいおい! 勝手に話を進めるな盛り上がるな! これ以上悩みのタネを増やさないでくれ!
――百歩譲って新島はいいとして、佐々木は無理だ。とても
……どうすればいいんだ。
To be continued→
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