第55話 夜空の下でアイドルについて
ライブが無事に終わり、打ち上げでも大いに盛り上がり、最高の夜を過ごした俺は東山に例の話をするため
「ごめんね、わざわざ」
「いいわよ、本部は近いし」
ここは表の世界と連動しているようで、今は満天の星空が見える。
二人で草むらに座ると、リハーサルでの出来事を話した。
「魔物が?」
「うん。東山さんを除く四人のうち誰かに寄生してる」
「……それ、本当なの?」
「残念ながらね。これを見て」
メイプルが記録しておいてくれたレーダーとセンサーの反応を見せる。小さな反応ながらも魔物がいるという確かな証拠だ。
「……っ」
「楽屋に戻った時に間近で調べてみたけど、もう休眠状態に入ってて分からなかった」
「まったく、私が付いていながら……不覚だわ」
「仕方ないよ。寄生型はそもそも発見が難しいし、リハーサル中だったし。私もたまたま気づけたから」
メイプルについては念の為に伏せておく。俺の秘密を共有した以上は、それこそできる限り他の人に知られたくない。それに藍音が好意で作ってくれたものをひけらかすようで気が引ける。
「ありがとう。明日からはメンバーの様子をしっかり確認するわ」
「私に手伝えることとかあったら、言ってね」
「……かえでさん、あなたって優しいのね」
「え?」
「私が本番に集中できるように、あえて言わなかったんでしょう?」
「えーと、まあ……」
「メンバーもみんな、あなたのこと好きみたいよ」
「そうなんですか?」
「あんなに楽しそうなの、久しぶりに見たわ」
「え?」
寂しげな東山の横顔に、夜風が髪を揺らす。
「実を言うとね、最近メンバーの雰囲気あまり良くなかったの」
「どうして?」
「うーん、まあ色々とね。方向性とか価値観のちょっとしたズレが徐々に大きくなってきて、まだ話は出てなかったけど解散の二文字も浮かんではいた」
「そんな……!」
「先に謝っておかないとね」
「なんですか?」
「かえでさんを利用しちゃったこと」
「ええ?」
「今日うちのメンバーに紹介したのは、空気を変えてくれるんじゃないかって思いが半分あったの。結果は予想以上だったわ、あんなにメンバーが明るくなったのは半年ぶりくらいよ」
「そんなに?」
「人気アイドルだなんて言われてるけど、私たちも例に漏れず白鳥のように水面下では必死に藻掻いてるの。特にうちのメンバーは個性的でしょ? だからなかなか難しくてね。それなのに、かえでさんがいるだけで昔の一番楽しかった頃に戻ったの。夢のような一日だったわ」
「お役に立てたなら、よかったです。私も皆さんと仲良くなれたら嬉しいし」
「ならいっそ正式にHuGFのメンバーにならない?」
「……え?」
「あなたにアイドルの資質があることは間違いない。本当はかえでさんをソロでプロデュースするつもりだったけど、もしHuGFのメンバーに入るならプロデュースする必要もなくあっという間に人気アイドルになれるわ」
「で、でも私そんな、人気アイドルになりたいわけじゃ……」
「でも、私たちと同じステージで一緒に
「それは、まあ……その、……はい」
「あなたがなりたいかどうかなんて、関係ないのよ。あなたがステージに立てばそれだけで人気アイドルは誕生する」
そういうものなのだろうか? 俺はアイドルとかまだよく分かってないが……。それでも東山煌梨がそう言うのなら、そうなのだろう。
「でも、いきなり出てきて受け入れてもらえるかな……?」
「そこは心配ないわ、最初は限定コラボってことにするから」
「どういうことですか?」
「彗星のごとく現れた新人アイドル、姫嶋かえでがHuGFに期間限定で参加するってことにして数カ所でライブして解散。でもそれだけじゃ絶対終わらないわ、必ずかえでさんのファンがあなたを神格化する。それにHuGFの一部ファンもまた見たいって思うはずよ。その熱が最高潮に高まった時に再コラボして熱を爆発させる。そのままライブツアーを敢行してラストに正式加入を発表するの!」
まさか東山がここまで戦略を練っているとは思わなかった。つまりは期間限定という美味しいワードで釣るわけか。さすが現役アイドルやってるだけあってそういう知恵あるなぁ。
「でもツアーしてる時間が……」
「夏休みを利用すれば大丈夫よ」
ああそうか、学生には夏休みというチート級の裏技があるのか。俺がそれについて行こうとしたら地獄の連勤と引き換えにどれほどの有給が必要になるのか……。
「それに私、歌も踊りも本当に下手ですよ?」
「ある程度まで仕上がれば十分。かえでさんならその可愛さで殴ればたいていの男はKOよ」
「可愛さで殴るですか……」
「そうよ。可愛いは正義っていうのは人類不変の真理だわ」
うん、それは間違いないな。
「まあ、HuGF加入については保留にしとくわね。さすがにメンバーや事務所と話さないといけないから」
「あはは、そうですよね」
「でも、私は
「あ、ありがとうございます」
「――さてと、そろそろ私は帰るわ」
「はい、気をつけて。今日は本当にありがとうございました」
「それはこちらのセリフよ。今度は二人っきりでデートしましょうね」
「……へ?」
最後の最後で意味深な発言をして行ってしまった。
――まさか俺の正体に気づいた!? ……いや、さすがにそれはないか。あくまで友だち同士の冗談のようなニュアンスだろう。
それに、冷静に考えて姫嶋かえでとだろ。
「いいよなぁ、姫嶋かえでは人気者で」
歩夢や藍音や
いや、紫だけは知ってて気に入ってくれてるのか?
「もういっそアイドルに転職するか……?」
To be continued→
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