第45話 器の認識

「魔力制御コントロールするためには、まず自分の中にある器をちゃんと認識する必要があるわ」

「器を認識?」

「かえでちゃんはまだ自分の中に器があるという事実だけをぼんやり把握してる状態だと思うの」

「はい、まあそんな感じです」

「じゃあ、まずどっちでもいいから手を胸に当ててみて。こんな感じで」


 優海さんがやったように真似て右手を胸に当てる。

 この身体を動かすのは慣れてきたが、やはりおっぱいを触るのは慣れない。柔らかい感触にドキドキする。


「次は目を閉じて。そして当てた胸に向けて意識集中コンセントレーションして。闇の中に少しずつ器の輪廓が浮かぶはずよ」

「はい……」


 目を閉じた暗闇の中、意識集中コンセントレーションを続けるとピントが合わないようなボヤけたが見えてきた。

 さらに深く意識集中コンセントレーションを続けると、ピントが調整されていくように輪廓がハッキリとしてくる。


「これが……器?」

「そうよ。色や形は人それぞれで、似たタイプはあっても同じものは無いわ。かえでちゃんだけの器よ」


 色は……深い海のような青だ。形はゴブレットのような……。


「――!?」


 なんだ? 今一瞬だけ器が明確に見えたと思ったら、器に満たされた水に女の子の顔が浮かんだような……。


「……かえでちゃん? どうかした?」

「今――……いえ、なんでも。形はゴブレットみたいで色は深い海のような青でした」

「あら、色は私と近いわね」

「優海さんも青色なんですか?」

「私の器はターコイズブルーなの」

「へぇー、キレイな色ですね。ちなみに藍音は?」

「……私は黄土おうど色です」

「黄土色……」

「器の色は選べないけど……ちょっと可哀想よね」


 さすがに思春期の女の子に黄土色はキツイかもなぁ。俺だって黄土色はあまり嬉しくはない。


「ゴブレットは確か、阿山さんがそうだったかな?」

「阿山さん?」

魔法M少女G協会A東京本部本部長の阿山千景さんですよ」

「ほ、本部長!?」

「やっぱりかえでさんは大物の予感ですねぇー」

『私も同感です』


 つまり、俺の器は形は本部長の阿山千景という人に近くて、色は優海さんに近いのか。


「ちなみに色と形ってなにか意味あるんですか?」

「そうね……アタッカーは赤系、マジカルは青系、コンバットは紫系の傾向けいこうがあるかな」

「ホントだ、私と優海さんマジカルスタイルだ。黄土色……黄系は傾向あるんですか?」

「うーん、強いて言うなら技術班に多いかもね」

「へぇー、技術班ですか」


 ということは、もしかしてあのマッドな人もなんか独特な色してるのかな? どどめ色とか。


「特殊色についてはまだまだ不明な点が多いけど、あくまで傾向であって優劣が決まるわけじゃないわ」

「そうなんですか。形も傾向があるんですか?」

「形についてはまだ分かってないんですよ。ちなみに私はワイングラスです」

「おー、お洒落しゃれだね」

「でも、黄土色なんですよね……」

「ああ……」


 同情しかない。


「優海さんは?」

「私の器は江戸切子きりこっていうものよ」

「江戸切子って、あの高級グラスのですか!?」

「あら、知ってるの?」

「え? ええと、まあ。この前テレビでやってたのを見て……」


 あはは、と誤魔化す。なんだかコ◯ンみたいになってきたな……。


「江戸切子でターコイズブルーって最高ですよねー」

「確かに……」

「ふふ、ありがとう。じゃあ次は意識集中コンセントレーションについて教えるわね」

意識集中コンセントレーションって、魔法使う時のあれですよね?」

「そうよ。じゃあ、意識集中コンセントレーションってなんだと思う?」

「……」


 思ってもみなかった問いに俺は返答にきゅうした。

 意識集中コンセントレーションは歩夢に教えてもらった魔法少女の技術だが、思えばなんとなくでやっていた。星が回転することぐらいしか分からない。


「――すみません、魔法を使うのに集中することぐらいしか……」

「ふふ、かえでちゃんにも分からないことがあって安心したわ」

「あはは……」

「まず、魔法は魔法の杖を使って出すよね?」

「はい」

意識集中コンセントレーションは、器から魔力をみ取って魔法の杖に注ぐための儀式ぎしきなのよ」

「……ああ! なるほど!」

「じゃあ、それを踏まえた上でもう一度全力で魔法ピュアラファイ撃ってみようか」

「はい」


 魔法の杖を構える。今度は目を閉じて器をイメージする。ゴブレットの中にたっぷりと満ちる水を汲み取って魔法の杖にどんどん注いでいく。すると魔力がまるで血管を通っていくように感覚が分かるようになった。

 目を開けると、飾りのハートがキラキラと輝いて星が今までにないくらい高速回転していた。今まであった軽い振動も無くなった。


「ピュアラファイ!!」


 撃った瞬間、ものすごい反動で杖を落としそうになる。

 一目で分かる魔法の密度。今までのが綿菓子に思えるような、白銀の魔法ピュアラファイだった。


「あれ……なんかミシミシいってる……?」

「まずい――! メイプル、緊急E防御GシステムSを!」

『了解!』


 魔法ピュアラファイを撃ち込む壁に赤い文字の羅列が浮かぶと、ミシミシという危ない音が消えた。


「……ふぅ」


 撃ち終えると、魔法の杖に付いてる白い翼がバサッと広がって何回か羽ばたき元に戻った。


「なんだ?」

「過負荷で熱くなったから放熱したのよ」

「そんな機能あるんですかこの杖」

「うん、でも滅多にないけどね。それにしてもすごいわね……」


 焼け焦げたようになった壁を見て、優海さんは呟く。


「ここの耐魔防壁は、高位ハイランク魔法少女が暴れても大丈夫なくらいには頑丈なんですが……念の為に緊急E防御GシステムSを組み込んでおいて正解でした」

「今のが本当の全力?」

「今度は手応えがありました。でも、全力かどうかは……」

「どういうことですか?」

「器の水はいくら汲み取っても半分も減らなくて、でも魔法の杖の方はなんだか限界な気がして……」

「……もしかしたら、かえでちゃんの魔力量は和泉ちゃんに匹敵ひってきするのかも」

『ですが、マスターは以前魔力切れになったという記録があります。そのような莫大ばくだいな魔力があるのであれば、魔力切れにはならないのでは?』

「……その前に確か、デュプリケートがあったのよね?」

「あ、はい。その時は知らずでしたけど」

「それは、魔力切れなんかじゃなくて、んじゃないかしら?」

『――なるほど! それで魔法が上手く発動できなかったんですね?』

「ええ。そのあと治療を受けて回復して魔法が使えるようになった。そう考えると辻褄つじつまが合うわ」

「ということは、かえでさんの魔力量って……」

ってことになるわね」


To be continued→

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