第二章

第42話 優海さんとデート(?)

 ラジオ体操に「希望の朝だ」というフレーズがあるが、少なくとも社会人になって以来、希望と思えるような朝に出会ったことはなかった。

 だが、今日は違う。地獄のデスマーチをくぐり抜け辿たどりついた今日は人生で初めてと言っても過言ではないデート(?)の日なのだ!


「歩夢の疑惑も上手く解決できたことだしな!」


 ティンティロテン、ティンティロテン!


「うぉぅ!?」


 聞き慣れない音にビクッとなる。


「なんだ、こいつか」


 魔法少女用のスマホ。自分で用意しようと思っていたが、ぷに助が天界の経費で落ちるからと渡してくれた。先日歩夢とLINE交換したのもこのスマホだ。


「……ああ、やっぱり歩夢からか」


 姫嶋かえでのことはもう欠片も疑ってないようだ。楽しそうに話してスタンプもいっぱい使ってくる。


「おはよう。私も今日は本部に行くから会えるといいね……と」


 ……なんだかネカマやってる気分になるな。

 ネカマがなにか分からない人は検索しよう。


「さて、変身しますか!」


 魔法の杖を元のサイズに戻して魔法少女モードのボタンを押す。アニメなら変身シーンもあるだろうが、女の子が変身するのはいいけどおっさんが魔法少女に変身する過程のシーンなんて全カットだよな。


「よし」


 この体にもだいぶ慣れたように思う。最初はころぶし自分の声が自分の声じゃないし、魔物と戦うとかいう以前の問題だったからな。

 窓を開けて外に飛び出す。抜けるような青空の下、空を飛ぶのはとても気持ちいい。こういう時は魔法少女になって良かったと思う。


「あれ?」


 ふと、大事なことを思い出して止まる。


「そういえば俺……東京本部の場所知らないぞ」


 初めて本部行った時は死にかけで覚えてないし、帰りも転送でアパート近くに送ってもらったし、東京にあるってことしか知らない。


「困ったな……ちょっとかっこ悪いけど、優海さんに訊いてみるか」


 連絡先は知らないので魔法の杖で通信してみる。

 しばしコールすると通信が繋がった。


〈はいはーい、逢沢です〉

「すみません、今から本部へ向かおうと思ったんですけど……場所が分からなくて」

〈あれ? 前来たことあるよね?〉

「そうなんですけど、あの時は保健室みたいなとこで目が覚めて、帰りも転送してもらったので……」

〈そうだったのね。いいわ、迎えに行くから位置情報を送って〉

「位置情報ですか?」

「魔法の杖の音声コマンドで、位置情報共有ロケーション・シェアというのがあるから、言ってみて」

「はい。位置情報共有ロケーション・シェア

「……OK、来たわ。迎えに行くから待っててね」

「すみません、お願いします」


 便利な機能があるなぁ魔法の杖。秘密通話みたいなこともできるみたいだし、魔法少女相手ならスマホより魔法の杖こっちだな。

 しばらく待っていると、「お待たせー」と優海さんが飛んでくる。


「すみません、わざわざ来て頂いて」

「いいのよ、じゃあ行きましょうか」


 優海さんの後ろを飛ぶと、見てはいけないものが見えてしまいそうになり慌てて並んで飛ぶ。

 しばらくして速度を落としたと思うと、まさかの東京都内某所に降り立つ。


「えっ、ここ?」


 人通りが多く、とてもあの10キロメートルほどもある本部基地があるようには思えない。ということはやはり、魔法で隠してるのか。


「こっちよ」

「えっ、ここって……スクランブル交差点?」

「そう。ここを魔法の杖を持って渡ると……」

「――!?」


 急に周りの人間が消えていき、街がパズルのように組み変わって異世界が構築されていく。

 コンクリートは草木豊かな大地になり、正面には尖塔のあるタワービルのような超高層建築物があった。全面ガラス張り……というよりもガラスで造られてるような……。


「す、すごい……!」

「ふふ、初めて見ると驚くよね」

「これも魔法なんですか?」

「そうよ。――ようこそ、魔法M少女G協会A東京本部へ」


*   *   *


 魔法M少女G協会A東京本部には、大きく分けて三つの施設がある。

 一つは俺が一室を半壊させた訓練棟。

 一つは本部と呼ばれるタワービル。

 そしてショップだ。


 本部の外観がガラス張りのように見えたのは優海さん曰く、クリスタル製なのだという。ス◯ロフ◯キーさんもビックリだわ。


「そういえば、かえでちゃんはまだショップ行ったことないんだっけ?」

「はい、なんだかんだ未だに」

「じゃあ行ってみましょうか」

「はい!」


 ショップは本部に入ってすぐ右手にあった。

 クリスタル製というのは、どうやら外観だけのようで中は割と普通の建物といった印象だ。


「いらっしゃいませー」


 中に入ると元気な声で挨拶される。なかなか特徴的で可愛い声だ。

 コンビニほどの広さの店内にはアイテムは見当たらず、むしろお菓子や飲み物が多い。……なんでだ?


「へぇー、けっこう色んな物があるんですね」

「ここにあるのは全て魔法少女MポイントPで買えるのよ」

「え? てことは、もしかしてお菓子とか飲み物も魔法少女MポイントPで買えるんですか?」

「うん。アイテムと違って安くて手軽に買えるわよ」

「……ホントだ。菓子パン15P、水5P、ジュース10Pって安いですね。……お米1キログラム100P!? ここだけで生活できちゃうじゃないですか!」

「ふふ、魔法少女の特権ね。しかも魔法の杖で直接支払いできるから便利なのよ」

「すごい……。そういえば、今いくらあるんだろう」

「ステータス画面の左上に表示されてるわ」

「えーと、310MPですね」

「そっか、まだ始めたばかりだから、それくらいかぁ。じゃあ私がおごってあげる」

「えっ!?」

「キュアオール以外なら3つまでいいわよ」

「そんな、本当にいいんですか?」

「もちろん。魔法少女になったお祝いにね」


 キュアオール以外なら奢るっていうことは、数万ポイントあることは確定だろう。でもいったいどうやってそんなに……。


「一つ、訊いてもいいですか?」

「なに?」

「前から気になってたんですけど、魔法少女MポイントPを大量に稼ぐのって、どうやるんですか? 魔物を浄化しても100ポイントとかでしょう?」

「あーそれは――」

「コアを交換するのよ」


 横から入ってきたのは、さっき元気よく挨拶してきたポニーテールの店員だった。


「こんにちは優海さん、その子は新人?」

「こんにちは。そう、姫嶋かえでちゃん」

「へぇー、可愛いじゃない。あたしは和泉いずみ小夜さよ。よろしくね」

「かえでです、よろしくお願いします。――それで、コアというのは?」

「魔物の中にはコアを持つ個体がいるの。そのコアを持ち帰ると最高1万ポイント貰えるよ」

「いちまん!?」

「それだけ難しいのよ。特にランクAのコアを完全な状態のまま回収するのは」


 優海さんが困ったように呟くと、「そうなんですよねー」と和泉も共感して、分かる分かるとうなずく。


「どうしてそんなに難しいんですか?」

「コアはそこそこ頑丈なんだけど、完全な状態で回収するには手加減する必要かあるの。でもコアを持つのは主にランクAの魔物で、それも厄介な相手が持ってることが多いのよ。だから手加減できなくてね……」

「手加減すればこっちがやられるし、普通にやったらだいたい損壊率60%は超えちゃうし……だから損壊率0%の完全な状態は貴重で、報酬もはずんでくれるってわけ」

「なるほど……」


 それは確かに難しい。厄介な魔物を相手に器用に手加減して無傷のコアを回収するなんてまさに神業だ。損壊率とやらが50%以下なら上々といったところか。


「この前も鳴心なここちゃんが持ってきたけど、真っ二つだったし」

「あー、あたしもやりがちです」


 魔法少女あるある話で盛り上がってきたところ申し訳ないが、せっかくなのでもう少しコアについて訊いてみよう。


「あのー、コアがすごく貴重なものというのは分かったんですが、結局どういうものなんですか?」

「んー、それはまだよく分からないのよ」

「コアの別名は『ブラックボックス』。解析率は1割にも満たない魔法少女最大の謎よ」


To be continued→

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