第41話 私の本当の姿 かえでサイド
――当日、夜。
多少アクシデントはあったものの、計画通り歩夢の目の前で魔法少女モードを解除するところまできた。
「……最後に一応、もう一度だけ言っとく。今ならまだアタシは許すよ、かえで」
「歩夢が私のことを思ってくれてるのはすごく嬉しいよ。だから、私の本当の姿を見て」
本当の姿、か……。
結局俺は、歩夢を
年収100年分の人形を二体
だが本音を言えば、打ち明ける勇気が無かっただけだ。
魔法の杖を構える。魔法少女モードを解除するボタンをカチッと押すと強烈な光を放つ。――と同時に体がフワッとなったかと思うと離れた暗がりにいた。
「おわっ!?」
初めての感覚に思わず変な声が出て「静かにしろ!」とぷに助に叩かれる。
「悪い……。どうだ?」
「上手くいった。ポジション・チェンジで交代したことには気づかれていない」
「へぇー」
「この魔法陣からは絶対に出るなよ? 全ての苦労が水の泡になる」
「分かってるよ」
離れてはいるが、声だけは聞こえる。どうやらぷに助のスマホみたいな端末からのようだ。
「……女の子が実際に触っても分からないのか。あれを半日で造るなんて信じられないな」
「それをやるのがマキハラだ」
「……なぁ、マキハラさんってなんであんな技術持ってるんだ?」
「それは極秘事項だ。答えられん。そもそもマキハラの存在自体、天界の一部上層部しか知らないことだ。言うまでもなく他言無用だぞ」
なるほど、技術含めマキハラの存在自体が天界のトップシークレットってわけか。
パンッと乾いた音がしてビクッとなる。
「なんだ!?」
「なんだ聞いてなかったのかお前は。ちゃんと集中しろ! あの御方が殴ってくれというから
「えぇ……大丈夫なのか?」
「心配いらん。力加減は完璧だ」
「そうだ、ここで少し介入していいか?」
「構わんが、悟られるなよ」
「分かってるよ」
ぷに助の端末から
「悪い、一言だけ喋らせてくれ。いくぞ? ……歩夢の誤解が解けたようで良かったよ。――っていつの間にかタメ口になってた! ごめんなさい! ……以上だ。ありがとう」
「意外と芸の細かい奴だな」
「だろ? あとは学校についてか」
姫嶋かえでが実在する女の子であることを裏付ける設定が学校だ。ぷに助が水面下で進めていたらしい。
今回は歩夢から
「それにしても、三ツ矢学院って盛りすぎだろ」
「三ツ矢は数少ない
「マジかよ!?」
「それに超一流の学校に在籍してるという信頼感と
「なるほどな、三ツ矢学院というブランド力を背景にして姫嶋かえでが実在する女の子だという説得力を持たせるのか」
「その通りだ。……ほれみろ、あの御方もあっさりと納得しただろう」
「すげぇ……ブランドの力って偉大だな。……でも俺さすがにそんな偏差値ないぞ? 大丈夫か?」
「ふん、お前の頭が悪いことぐらい織り込み済みだ。強力なバックアップ体制を取ってあるから大船に乗ったつもりでいろ」
ぷに助がこんなに頼もしいなんて……連載始まって以来初めてのことじゃないか?
「……よし、別れたようだ」
歩夢の姿が完全に消えてから通信が入る。
〈終わりました〉
「お疲れさま、先に帰っててくれ。あとで落ち合おう」
〈承知しました。では後ほど〉
全てが終わって仰向けに大の字になり、「ふぅー……」と深い溜息を吐き出す。解放感がものすごい。
「これでいいんだろ? ぷに助」
「スレイプニルだ。ふん、お前にしては上出来だ」
「お前にしては、は余計だ。――と言いたいところだけど、まさかこんなに上手くいくとは……」
「当たり前だ。そのために準備してきたんだからな」
「……でもやっぱり、罪悪感は残るな」
「お前が決断したことだ」
「どの口が言う。選択肢なんて無いに等しいだろこんなの。……ところで
「問題ない、すでに離れた所での脱出を確認してある。恐らく巻き込まれた空間内で偶然一緒になったんだろう」
「そっか……」
「これで正体がバレることは当分の間なくなったが……、油断はするなよ」
「分かってるよ」
魔法の杖のボタンを押して、くたびれたサラリーマンに戻る。
「ふぁぁ……。もうこんな時間か。早く会社に戻らないとな」
「お前……まだ仕事する気なのか?」
「言ったろ? 絶賛デスマーチ中なんだよ」
「また倒れでもしたら迷惑千万なんだ、分かっているのか?」
「倒れないよう天から祈っててくれ」
ぷに助じゃ頼りないが、どこにいるのか所在不明な神様に頼るよりはマシだろ。
「……」
「……ん?」
ふと気になって空を見る。
「どうした?」
「いや……なんでもない」
気のせいか? 誰かがいたような――見られてたような……?
「……疲れてんのかな」
「当たり前だ! さっさと片付けて寝ろ!」
「そうするよ、じゃあな」
To be continued…?
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