第23話 鳴心 vs クリオト

鳴心なここ流、踏鳴ふみなりいち式!」


 強烈な一撃をシンザイに打ち込むと、「ピィィー!」と甲高い悲鳴を上げて倒れる。魔物が消滅すると《魔物を浄化しました。100MPがチャージされます》とアナウンスが流れた。


「ふぅ、これで小さいの最後ですかー?」

〈私の見える範囲では反応は最後です。あとはランクA含めた大型数体で終わりのはずです〉

「了解!」

「さあて、じゃあ残りの大型も片付けますか!」


 空羽あきははやや大きめのブーメランを、さらに大きく巨大化させた。しかも今度はいくつかの小さな装置のようなものがあった。

 空羽はその巨大ブーメランを、端に付いてる取っ手を掴んでハンマー投げよろしくグルグルと回す。


「スラスター、オン!」


 ブーメランに付いてる小さな装置が火を噴く。


「いっけぇぇぇ!!」


 火を噴いたブーメランをそのまま魔物に向かって投げると、勢いよく回転しながら外殻が硬い魔物をも力技で破壊していく。細かい魔物や鳴心を気にする必要が無くなったため、空羽の本領発揮となった。

 残ったランクA以外の大型を一掃して戻ってきたブーメランを器用に掴むと、クルッと回って勢いを殺す。


「さて、あとはランクAが2体か」

〈残りはヒューザとクリオトです〉

「鳴心がランベルを倒してくれたおかげで、やりやすくはあるかな?」


 鳴心が極拳きわみのこぶしで倒した毛むくじゃらの魔物、ランベルはまるで戦車のように頑丈で物理攻撃も強く、盾として居るだけで厄介になる。

 真っ先に全力で叩いた鳴心の好判断のおかげで、有利とまではいかないが、戦況は五分ごぶに持ち込むことができた。


「ヒューザは私が相手しようか? 鳴心だと接近しないとだから、危ないでしょ?」

〈そうですね、ヒューザ相手に近接はかなり不利ですから。でも空羽さんも相性が良いとは言えませんよ?〉

「そこはなんとかするよ。できなかったら歩夢に笑われちゃうしね!」

「じゃあ、あたしがクリオトですね!」

〈了解です。クリオトも近接が有利とは言えませんが……クリオトは倒せない、かなり厄介な相手です。油断しないように〉

「分かりました!」


 鳴心は早速クリオトへと向かう。コクーン型のこの魔物は、他のとは一線をかくすメタリックな直線的デザインで、魔物というよりも機械兵器といったほうがしっくりくる。

 魔法少女の接近を感知したクリオトは目からビームを発射する。かなり速いその攻撃を、鳴心は見切ってすんでのところでかわすと走り出す。


「いっくよー!」


 鳴心はもう一発のビームをスライディングで避けると、鍛えた腹筋で上体を起こしてメタリックな体に両掌りょうてのひらを当てる。


「鳴心式! 烈破掌れっぱしょう!」


 衝撃波で魔物を内部から破壊するこの技は、当てた時点で決まる。だが、クリオトには通用しなかった。


「あれ?」


 オォー……ンと反響音がするだけで、クリオトにはダメージとして通っていなかった。


「おっかしいなぁ〜、これならどうだ!」


 ガントレットで思いっきり殴ってみても、ガーン! と音がするだけで凹みもしなかった。逆にこちらの手が痺れてしまう。


「かった〜い!」


 すると今度は、クリオトの背から何かが数個射出された。


「もしかしてこれ、ヤバいやつ?」

〈鳴心さん、全力で逃げてください!〉


 クリオトから射出されたそれは、空中を自在に飛びながら鳴心を捕捉しビームを撃ってきた。


「うわわわっ!」


 鳴心は持ち前の反射神経でギリギリ避け続けて距離を取る。


「ふぅ、どうすればいいかなー?」


 落ち着いて作戦を考えようとすると、今度はクリオトの体表面が剥がれて空中に破片のようなものがバラかれる。


「今度はなんだろ?」

〈あれは全て反射板です。本体から発射されたビームを反射板に当てて角度を変えて多角攻撃するためのものです〉

「げっ! マジ?」

〈あれら全てを避けきるのは至難の業なので、何発かもらう覚悟はしておいたほうがいいですよ〉

「いやいやゆかりさん、そんな……」


――なにかあるはず。

 あんなところに飛び込んでいったら、飛んで火に入る夏の虫だ。かといって近づかないとあたしは攻撃できない。

 それにあの硬さはランベルと同じくらいだし、でも極拳きわみのこぶしは魔力足りないし……。


「……うん、これしかないかな」


 作戦を考えていたら本体からの目からビームが飛んできた。


「うわっと!?」


 またも反射神経でギリギリ躱した鳴心は覚悟を決める。


「紫さん! 空羽さんのほうはどうなってます?」

〈良いとは言えないかも知れません。大ダメージを受ける心配の無い立ち回りができるとはいえ、やはり相性が良いわけではないですから〉

「なら、こいつぶっ飛ばしたら加勢しに行きますよ!」

〈大丈夫なんですか?〉

「大体イメージはできました」

〈……では、気休めですが〉


 鳴心の体がほのかに黄色く光る。


「これは?」

〈身体能力と防御力アップです。ほんの少しですが〉

「へー……ありがとうございます!」


 鳴心は改めてアナライズでクリオトのコアの位置を探る。体の中心よりやや上あたり。人間で言えば鳩尾みぞおち辺りの位置だった。


 一つ深呼吸して前を向く。


「いくよ。鳴心流、踏鳴ふみなり式!」


 強く地面を踏むと、一気に間合いを詰める。その動きに反応したクリオトはビットを展開して集中砲火。そのタイミングに合わせたかのように、鳴心は短く後ろへ跳ぶ。


「……」


 クリオトは即座に反応して反射板の角度を微調整すると、鳴心が着地する瞬間を狙って一斉発射した。

 ――しかしそこに、鳴心の姿は無かった。


「……?」


 鳴心の姿を探すクリオトは、足元から音声を拾った。


「鳴心式――!」

「……!」


 慌ててビットと反射板を調整しようとするが間に合わない。


穿空撃せんくうげき!!」


 ガントレットから放たれる研ぎ澄まされた魔力が、クリオトの金属のような体を、コアを貫き空へと消えていく。


「……――」


 クリオトが機能停止すると、中から割れた小さな黒い星のような物が出てきて、鳴心のガントレット――正確には魔法の杖――に吸収されると《魔物のコアを回収しました。500MPがチャージされます》とアナウンスが流れた。


「やったぁー!!」


 ――踏鳴・弐式。

 種を明かせば、踏鳴・いち式を2回発動させるだけのシンプルなもの。一回目の踏鳴で一旦止まり、そこから軽くバックステップして二回目の踏鳴が発動する。つまりはフェイントの踏鳴。

 クリオトは着地の瞬間を狙ってビームを一斉発射したが、二回目の踏鳴は一回目のエネルギーを残しておくため、足が地面に着いた瞬間に発動する。ビームが届くギリギリのタイミングで鳴心は走っていた。


 踏鳴の距離感、エネルギー調整、二回目のタイミング。全てが上手く噛み合ってこそのシビアな技を一発で決めてみせた鳴心は、まさに主力級エースであることを見事に示したのだった。


「さーて、空羽さんの助っ人に行きますか!」

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