第22話 疑惑
「しっかし、本当に魔力感じないなぁ」
廷々の広範囲レーダーみたいな魔法じゃなくても、近くに魔法少女がいれば同じ魔法少女は魔力を感知できる。ただし変身してればだけど。
「かえで、待ってて!」
3階まで上がったところで、開発室の札が目に入って足を止める。
「そうか、かえでがやられてるとは限らないか」
なにかしらの理由で魔力が感知できないというだけなら、普通にバイトに戻ってる可能性だってあるよね。
「……」
ここでゲーム作ってるのかな? プログラミングとかしてるんだろうな。入って怒られたり、しないよね?
ワクワクとドキドキと不安が入り混じって緊張しながらも、ドアをノック――しようとして気づく。
「やば。今変身中じゃん」
どうしようかな……魔法少女のままで確認できないことはないんだけど。
「マタリナ倒せてたらなぁ……まあしょうがないか。……こちら葉道歩夢、本部応答願います」
魔法の杖を通じて
「現在任務中、民間人との接触の必要があるため変身解除の申請をしたいんですけど」
〈分かりました。念の為、説明をお願いできますか?〉
「任務中に姫嶋かえでの魔法の杖を発見。でも本人の姿も魔力反応も確認できなくて、可能性が高そうな部屋を見つけたので中へ入って確認したい」
〈……本部了解。必要性ありと判断しました。解除申請を許可します〉
「ありがとうございます!」
通信を終えて魔法の杖に触れると、変身が解除された。
「やった!」
魔法少女は変身後、魔物を倒さないと変身が解除できない。というのは周知の
でも、本当に必要だって本部に判断されないと許可は降りないし、今みたいに詳しい理由を話さないといけないから、けっこう面倒くさい。
でも、かえでのため、開発室に入るためならしょうがないじゃん?
軽く身なりを整えてから、改めてドアをノックする。
「……はーい」
中から声が聞こえてドアが開く。
「あら、どうしたのかな?」
優しそうなお姉さんといった感じのOLが出てきた。
「あ、あの……友だちを探してまして」
「友だち? お父さんとかお母さんじゃなくて?」
「はい。アタシと同い年くらいの女の子なんですけど、デバッグのバイトしてるって聞いて、このビルにいるみたいなんですけど……」
「あら、そういうことね。ちょっと待ってて。せんぱーい!」
お姉さんが奥にいる男性を呼ぶと、「なんだ、どうした?」と返事が聞こえた。
「この子、お友だちを探してるみたいなんですけど、デバッグのバイトなんて募集してましたっけ?」
「……」
「……先輩?」
「ああ、すまん。まずうちはデバッグ募集はしてない。してるとしたら……上の階のゲーム開発かな?」
「あー、アストラタですか。ありそうですね」
「えっ、アストラタってここなんですか!?」
思わず反応してしまい、変な汗が出てくる。
「知ってるの? えーと……」
「あ、すみません。
「覇道さん、へぇー、なんかすごいね」
「あ、いえ……葉っぱに道で、葉道です」
「葉道さんなんだ? へぇー、珍しい苗字だね」
「はい、ちょっと恥ずかしいんですけど」
「いいじゃない、覇道を歩むみたいな感じでカッコいいよ」
「……その、名前がそれで……」
「え? もしかして、あゆむ?」
「はい。歩む夢と書いて、歩夢です」
「すごーい! いい名前じゃない!」
「そ、そうですか?」
「うん、ステキだと思うわ!」
「ありがとうございます」
「歩夢ちゃんでいい?」
「はい」
「歩夢ちゃんアストラタ知ってるんだ?」
「はい。ゲーム好きなので」
「そうなんだー、よかったらアストラタ見学してみる?」
「え!? い、いいんですか!?」
「うん。実は私の知り合いがアストラタにいるの」
「あれ? 新島の知り合いって、同期のあの子か?」
「はい、そうなんですよ」
「あー、そうなのか。あの子アストラタにいるのか。この前の差し入れ助かったからお礼言わないとな」
「じゃあ、これから歩夢ちゃん連れて行きますから伝えておきますよ」
「今から? 大丈夫なのか?」
「多分、今はそんな忙しくないと思いますし」
「いいねー、こちとらデスマってんのに」
「ですねー、ついでに飲み物とか買ってきますね」
「ああ、頼むよ」
「じゃあ行こっか、歩夢ちゃん」
「はい! よろしくお願いします!」
自然とテンションが上がる。友だちには見られたくないな……。
お姉さん――新島さんとアストラタへ行こうとした、その時だった。
「あら? 歩夢ちゃんそのイヤリング」
「え?」
「ほら、右耳のイヤリング。それって魔法の杖かなにか? 可愛いねー」
「――!」
浮ついた気持ちが一気に吹き飛ぶ。
今この人はなんて言った? イヤリング化してる魔法の杖が見えてる?
「あの……このイヤリング、見えてるんですか?」
少し声を抑えて訊ねると、「やだー、当たり前じゃない。イヤリングにしてれば見えるわよ〜」と、新島さんは明るく笑う。
しかも、さらに衝撃的な事を言いだした。
「先輩も持ってますよね、このアクセサリー。流行ってるんですか?」
「なっ!?」
まさか! この男性が魔法の杖を!? あり得ない。いくらなんでもそれは似てるだけの物のはずだ。
でもその瞬間、アタシの頭の中にあり得ない仮説が浮かんだ。
「あの、もしかして……これじゃないですか?」
さっき下の玄関口で拾ったかえでの魔法の杖を見せる。まだ小型化状態だからアクセサリーに見えるはずだ。
「そうそうこれ! ほら、先輩持ってますよね!?」
ウソだ……。
まさかそんな……でもそう考えると今までの小さな違和感は全て
『アタシが来たから、もう安心だよ!』
あの時、アタシが突入する前に気づいて……それに魔力が感知できなかったのも、ひょっとしたら……!!
「魔法の杖だ?」
「……」
先輩と呼ばれる男性がやってくる。これといって特徴は無い、ごく普通の大人の男だ。本当にこの人が……?
「……」
「ね、先輩のと同じですよね!」
「はぁ……新島」
「はい?」
「お前、大丈夫か? 疲れてるんじゃないのか?」
「え? ど、どういうことですか?」
「魔法の杖なんて、どこにあるんだ?」
「え?」
見えてない? ……いや、振りか?
このお姉さん――新島さんがウソをついてるとは思えないし、ウソをつけるような人には見えない。新島さんには見えてる。ということは、やっぱりこの人は……。
「だって先輩のポケットに……あれ?」
「俺のポケットに?」
「さっき、変な人に襲われた後で先輩が来てくれて、その時にポケットからこれと同じアクセサリーが覗いてるの見ましたよ!」
「いやいや、それは無いでしょ」
奥から別の男性が口を挟む。
「ええー、雷都先輩は楓人先輩の味方なんですか?」
「まず楓人は少女趣味入ってても、そういったグッズには手を出さない。それに、俺もそんなの今日見たことないし、残念ながら俺にもそのアクセサリーは見えてないよ。俺両目2.0だから間違いない」
「そ、そんな……」
――まずい。
楓人という人の疑惑を攻める前に、このままだと魔法の杖の存在が明るみに出る。それに、このままじゃ優しい新島さんがあまりに
苦肉の策として、新島さんに耳打ちする。
「あの、新島さん」
「え?」
「実はこれ、女性にしか見えなくて、しかも限られた人にしか見えない激レアアクセサリーなんです」
「ええー!?」
「これが見える人はとても幸運なんです。だから新島さんはラッキーなんですよ」
優しく純粋な人を騙すのは気が引ける。でもこれ以上は見てられない。
「ふ、ふふ、ふふふ……」
「に、新島?」
「いいんですよ〜、私はラッキーガールなんですから!」
「は……?」
「さあ歩夢ちゃん、不運な男性陣は置いてアストラタに行きましょ!」
「あ、はい!」
これでいい。今はこれで。様々な疑問は後回しだ。それに、まだ疑惑だ。アストラタに行ってかえでが居たらそれでいい。
〈歩夢さん! 緊急事態です! すぐに――〉
〈きゃあああああああ!!〉
「――!!」
突然の通信に思わず大声を上げそうになってなんとか飲み込んだ。
絢が危険だ!
「ごめんなさい! ちょっと急用で!」
「え!?」
急いで階段を下りようとしたその時だった。大きな地震のような揺れが建物を襲った。
「きゃあああ!!」
「大丈夫か新島!」
倒れそうになる新島さんを、楓人という人が支える。けっこう紳士なのかな?
窓の外を見ると、爆炎が見えた。そして通信から元気な声が聞こえてくる。
〈お待たせ! 正義のヒーロー登場ってね!〉
「鳴心……! やるじゃん!」
小声で小さくガッツポーズをした。これでなんとかしのげそうだ。
「だいじょ……」
新島さんに声をかけようとして、楓人という人が窓の外を見ているのに気づいた。その視線の先は……。
「……」
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