第12話 魔法少女の敵は魔法少女?
――あらすじ
ブラック企業戦士として日夜デスマーチを繰り広げる
深夜のノリで魔法少女となってしまった楓人は、天界の使者である『ぷに助』ことスレイプニルから魔法少女の代行、『魔法少女agent』に任命され、ブラック企業戦士との二足のわらじを履くこととなった。
本当なら魔法少女になるはずだった少女、
保護してくれた
たまたま駆けつけた二人組の魔法少女
* * *
弓矢で50メートルほど離れた的を射抜いて爆破した和服美人がこちらへやって来る。
「この人が……?」
「そう、かえでに色々と教えてくれる人」
「はーい、歩夢。元気してた?」
「まあね」
二人はハイタッチを交わす。けっこう仲が良いらしい。
「それで、その子は?」
「ああ、紹介するよ。新しく魔法少女になったかえで」
「初めまして、姫嶋かえでといいます。よろしくお願いします」
「私は逢沢
「そうだなー、
「魔法少女についてのおさらいと、戦闘技術についてかな」
「――ていうことは、かえでちゃんはマジカルタイプ?」
「そっ。だからアタシはお手上げ」
「分かったわ。じゃあ魔法を――あら? かえでちゃん、魔法の杖は?」
「あ、えーと……実は……」
夜道で魔物に遭遇して魔法の杖を壊されたことを、かいつまんで話す。
「そう……
「はい。それで今は魔力が――」
そこまで話して、ふと思い出した。あそこには確か酔っ払いのサラリーマンがいたはずだ。なんでいまの今まで忘れてた!?
「すみません! あの現場に確かサラリーマンが!」
「民間人ってこと?」
「はい!」
「んー、歩夢は聞いてる?」
「いーや?」
「そう、なら大丈夫じゃないかしら」
「え?」
「私たち魔法少女には、民間人を巻き込んだ場合、報告義務があるのよ」
「報告義務?」
「民間人が負傷したり、行方不明になったり、死亡した場合は報告書を書いて提出しないといけないの」
「始末書みたいなものですか?」
「イメージとしては近いけど、大きな違いはペナルティが発生するということよ。……ていうか始末書なんてよく知ってるわね?」
「えっ? あ、えーと、ほら! ドラマなんかでよく見るので」
あはは……と笑って誤魔化す。いかん、気を引き締めないとボロが出てしまう。
「ふーん? ドラマ好きなんだ?」
「ええまあ……。えーと、ペナルティってもしかしてMPの没収ですか?」
「没収はもちろん、マイナス化しちゃうの」
「マイナス化?」
「そうね、簡単に言ってしまうと借金かな」
「えっ!
「例えば、かえでちゃんの
「それは……かなりキツイですね……」
ということは、柴田がもし住宅街で戦って民間人巻き込んでたら、一週間ペナルティどころじゃない。確定で資格剥奪になっていたじゃないか。柴田はそのことを知らされてなかったのか?
「tre’sが民間人を巻き込むなんて考えられないし、大丈夫よ」
「あの二人って100キロメートル担当なんですよね?」
「そうよ。魔法少女の中でも10人しかいないトップチームなの」
「10人しかいないのに、二人が組んでるんですか?」
「あー、それについてはまた後でいいんじゃない?」
「そうね、また後でお話しましょう。とりあえず今は頭の片隅に、そういう魔法少女もいるってことだけ覚えておいてね」
「はぁ……」
なんだろう、
「それじゃあ、魔法少女について話すわね。少しスレイプニルの話と被ると思うけど、いい?」
「はい、よろしくお願いします」
「私たち魔法少女の主なお仕事は魔物を討伐すること。でも、倒すと浄化するとは実は意味が違ってくるの。さて、いきなり問題です。浄化とはなんでしょう?」
「え?」
そういえば、深く考えたことなかったな。魔物を倒すイコール浄化くらいの感覚でいたけど……。
「浄化っていうくらいですから、魔物をキレイにすること? 魔物は敵性魔法生物だけど、その敵性部分を浄化して、魔法生物を解放してあげること……とか?」
「……」
「……」
「……あれ?」
二人ともポカーンとしている。やばい、また無意識になんか変なこと言ってしまったか!?
「えーと……私なにか粗相を?」
内心冷や汗ダラダラで恐る恐る訊ねると、「ううん! 違うのよ、なんていうか、こんなに的確に答えられるとは思ってなかったから……ねえ?」と、逢沢は葉道に同意を求める。
「うん……ぷに助のやつ要らないんじゃねぇの?」
「ぷに助?」
聞き慣れない名前に逢沢はキョトンとする。
「ああ、スレイプニルのことだよ。ぬいぐるみみたいな奴だからって、かえでが命名した」
「ぷ、ぷに助……」
逢沢はジワジワ込み上げてくる笑いを我慢しようとして、思わず吹き出してしまった。
「あっははは! ぷ、ぷに助って、可愛い! あはははは!」
よほどツボに入ったのか、地面をバンバン叩いて笑っている。これほどウケるとは……ぷに助、恐るべし。
「あ〜笑ったぁ、あはは。かえでちゃんセンスあるね!」
「そ、そうですか? ありがとうございます」
「それにしても、かえでちゃんすごいね」
「え?」
「浄化ってなんでしょう? なんていきなり質問されて、そんなに具体的な回答した新人さん見たことないよ」
「そうなんですか? いうて私も推測を話しただけなんですけど」
「十分すごいわよ。じゃあ、ついでにもう1問。魔法生物ってな〜んだ?」
「……へ?」
魔法生物そのものについても、深く考えてなかった。ゲームに出てくる敵キャラくらいの感覚でいた。どうやらゲームライクな魔法少女の仕様にすっかり慣れてしまっていたようだ。
「魔法生物っていうと、魔法で創られた生き物……とか?」
「正解よ。じゃあ、いったい誰が創っているでしょうか?」
「……」
そうだ。魔法で創られるということは、言い換えれば人造生物ということだ。誰かが創っている。
魔法を使えるのは、魔法少女か天界の関係者しかいない。まさか天界がマッチポンプみたいなことしてるわけないと思うが……。となると――
「魔法生物を創ってる魔法少女がいるってことですか?」
「さすがね、その通りよ」
「でも、どういうことなんですか? 魔法少女の敵が……魔法少女?」
「んー、それは半分正解かな。端的に言っちゃうと、相手は魔王よ」
「そうなんですか……って、魔王!?」
「そうだけど……そんな驚くこと?」
「いやいや、だって魔王ですよ? いきなりファンタジーじゃないですか。もしかして勇者とかもいるんですか?」
「んー、勇者はいないかなぁ」
「そんなこと言ったら、魔法少女の時点で十分ファンタジーじゃん?」
「それはまぁ……そうですけど」
「強いて言うならアタシたち魔法少女が勇者かな、なんてね」
ニッと笑ってみせる葉道は、確かに勇者だとしても全く違和感が無さそうだ。ガンガン切り込んでいって魔王とバチバチに
「じゃあ、魔法少女が魔王になった。ということですか?」
「まあ、そうなるかな。でも正直なところ、詳しくは何も分かっていないの」
「どういうことですか?」
「敵性魔法生物を創り出しているのは間違いなく魔法少女よ。でも、一体誰がそれをやっているのかは実は誰にも分かっていないの」
「魔物を創り出す魔法――
「その、
「極論はね。でも、10キロメートル担当未満の魔法少女にはまず無理だと思っていいわ。歩夢の言う通り魔力の消費が凄まじいのよ。仮に発動させる知識やスキルがあっても、発動させるエネルギーが絶対的に足りないの」
ということは、逆に言えば10キロメートル担当以上の魔法少女の全員が容疑者みたいなものか。
「魔王とか
「10キロメートル担当以上ならほとんど知ってると思うよ。有名な話だし」
「ただ、一応機密情報扱いだから、なるべくは他言無用ね」
「はい……。ていうか、いいんですか? 私なんかにそんな重要な話を」
「あら、かえでちゃんなら問題ないと思うから話したのよ?」
「大型新人だしな!」
「きょ、恐縮です」
それなりに信用されてるということだろうか……?
それにしても、魔王だの
「さて、じゃあ次は魔物について――」
「あーごめん、ちょっと呼び出しだ」
逢沢が話を続けようとすると、葉道がイヤリングにしている魔法の杖からビービー! とアラート音のようなものが鳴り出した。
「招集? 何かしら……」
「さぁ? とりあえず、かえでの戦闘技術を先にお願い」
「そうね、そうするわ」
「かえで!」
「はい?」
「思いっきりやっていいからね!」
「は、はい! 分かりました!」
葉道はそう言い残して部屋を出ていった。
思いっきりって、ピュアラファイを全力で撃っていいってことかな? そういえば全力全開でなんてやったことないな。
「じゃあ、まずはこれを持って」
「これって……」
手渡されたのは、もはや見慣れた魔法の杖……のプロトタイプみたいなものだった。ハートの飾りも色も無い。
「ここでの練習用よ。仮想空間だから好きに撃てるわ」
なるほど、
「じゃあ、
「ええ、遠慮しないでいいわよ」
少し前に出て、部屋の奥のほう、さっき逢沢が当てた的があった辺りに狙いをつける。といっても精度は関係ない。方向感だけだ。
「はぁ……すぅー……はぁ……」
深呼吸して
「全力全開、ピュアラファイ!!」
撃った瞬間に、目の前が真っ白になった。確か最初に撃った時も似たようなことになったが、これはその比じゃない。今まで無意識に力をセーブしていたんだと自分で実感した。
撃ち終わると、地面が抉れて照明がいくつか壊れてしまっていた。
「えーと……」
自分でも予想以上の破壊力に冷や汗ダラダラだったが、そーっと振り向くと、逢沢は目が点になっていた。
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