商人の息子・マルドリーSide

 僕は父の経営する商会で働いていた。父も母も商会を大きくするために朝から晩まで休みを取ることもなく必死に働いていた。僕たち兄弟にも同じようにするように言われ、学校に行っていたときも終わった後は店の手伝いをし、学校を卒業してからはさらに厳しく指導されるようになった。


 商売としてはうまくいっている感じであり、支店まで出す話も出ていた。ただここまで必死になってやっているのに利益が思ったよりも出ていないため、両親はさらに必死になって働いていたようだ。いろいろと調べていくうちになにかおかしなことに気がついた。どう考えてももっと利益が出ていてもおかしくないのだ。兄にも相談してみるが、兄は日々の仕事に追われていてそこまで確認する余裕がないようだ。


 しょうが無いのでまだ仕事的に余裕のある僕が独自に色々と調べてみることにした。そこでおかしなことが色々とでてきたのである。両親や兄はあれほど働いているのだが、従業員はそこまでではないのだ。休みも定期的にとっているし、仕事も残業することもあるが早退していることも結構あるようなのだ。ただ僕たちと同じように働いているように見せかけている感じがした。

 収支管理や勤務管理は番頭であるクラスターさんが仕切っているんだが、どうもおかしいように思う。相談してもだめだと思い、少しずつ確認をしていたんだが、ついにその不正の証拠をつかむことができた。これでやっとなんとかなると思ったんだが、すでに手遅れだった。


 僕が調査を行っていたことはすでにばれていたみたいで、僕たち一家は奴隷商人に売られてしまった。商会は借金のかたに取れてしまい、クラスターがそのまま引き継いだらしい。従業員もそのまま働いているようだった。みんなグルになっていたんだ。せっかく見つけた証拠の品も今となってはなんの価値もない。



 奴隷になってしまったからには家族はバラバラになってしまうのは仕方が無いことだ。厳しい両親だったが、自分たちに愛情を注いでいたことは間違いなかったのだ。ただ幸せのために必死になって働いていただけなんだ。



 僕たちは新しい町へと移動させられてその町の冒険者に買われることとなった。試験期間の1ヶ月で満足な結果を出せば家族全員で買ってくれるらしい。しかもそのまま商会の経営まで任せてくれると言うことだった。

 僕たちは1ヶ月間必死で資料を集めた。十分な資金などを準備してくれたおかげでなんとか形にはなったと思うが、こればかりはどうなるかわからない。

 父が戻ってきて話を聞くと、一家でまとめて購入してくれたみたいで、さらに商会の経営についてすべて一任してくれると言うことだった。よかった、これでなんとかなるのかと思ったが、驚いたのはその後の父から言われた経営方針だった。


 利益よりも従業員の生活水準を高くするように言われたらしいのだ。これは奴隷として買われた僕たちを含めて言っていることだったらしい。さらに住むところも準備してくれるという話だ。



 まただまされているのかもしれないと思いながらも奴隷として買われたので逆らうことはできない。言われたとおり、自分たちの勤務時間の管理をし、休暇も十分の取らせてもらった。さすがにそれだと家族だけでは仕事が回らなくなったため、従業員を雇うこととなったが、あっさりと許可を出してくれた。

 追加の従業員は奴隷を購入することとなった。勤務条件を話すとかなり驚いて、最初は少しおびえていたが、徐々に慣れてくると何も言わなくても進んで仕事をやってくれるようになった。



 収支計算は僕が行うこととなり、クルトさんからの素材の提供もあって十分な給与を払っても十分な利益を出すことがでるようになった。

 2年もすると、僕たちは貯めたお金で自分たちを買い戻すことができたのだけど、そのまま商会の経営は任せてくれた。他に雇った従業員達も自分の買い取りをしていったが、だれも仕事を辞めるとは言わなかった。


 宿舎で食事の準備や掃除はメイドの3人がやってくれていたんだが、彼女たちも奴隷だった。おそらく妾のようなものだろうと思っていたんだが、彼女のことがどうしても諦めきれず、クルトさんに相談に行った。

 クルトさんに怒られることを覚悟していたんだが、「そういう関係ではないから。」といわれて驚いた。彼女にも自由に恋愛して結婚してもかまわないと言っているらしい。なので彼女にアプローチするのはかまわないが、力ずくでものにしようとしたら容赦しないと言われてしまった。



 それからクレアさんに猛アタックしてやっと付き合えるようになった。1年の付き合いの後、クレアさんの奴隷解放を待って結婚することになった。クルトさんたちからも盛大にお祝いをしてもらった。

 住む場所はどうするか相談を受けたんだが、さすがに宿舎ではなく外に出ることを話すと、アパートの家賃手当まで出してくれた。妻もそのままメイドとして働きたいというのでその許可は出した。



 もうすぐ支店を出すことになり、自分はそこの支店長として働く予定だ。妻は子供ができて仕事を辞めようとしたんだが、子育てが一段落したらメイドとして戻ってきてくれと言われて驚いている。普通は子供ができたらもう前の職場に戻れないからだ。


 1年ほどしてからクルトさんのところに雇われた子守メイドに子供の面倒を見てもらうことで、仕事に復帰できた。妻はとても生き生きしている。


 父も母も前の店の時と違ってかなり落ち着いたように思う。最近は前以上に仲がいいように見えるのは気のせいだろうか?よく旅行にも行っているからな。二人とも前よりも若返ったように見えるのは気のせいだろうか?


 妻ともいい関係で、まもなく二人目の子供を授かりそうだ。今回も子育ての間は休んでかまわないと言われており、今度は半年で復帰すると息巻いている。

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