奴隷メイド・マルトSide

別視点を書いてみた結果、前の文章も若干変更しなければならないところがあり、少し変更しています。特に気にする必要が無い程度ですので読み返さなくても問題ありません。

あと、都合のよい男性視点と思われるかもしれる方もいるかもしれませんが、そういう世界と言うことでご容赦下さい。


~~

私は奴隷として売られてしまった女でした。奴隷になったのは当時結婚していた旦那様の借金のせいで、私が借金をしたわけではありません。

 そこそこの商会を経営していた家に嫁いできたのですが、気がついたときには商会は借金まみれになっていたようでした。どうも旦那様が他の女性に貢いで、店の売り上げもつぎ込みお店を担保に借金をしていたようです。


 商会の従業員のために料理を作ったり、お世話をしたりしていた私は何だったのでしょう?結婚して1年もせずに女として扱われなくなった私は何だったのでしょう?ただの便利な家政婦としてしか見られていなかったのでしょうか?


 旦那様は姿をくらましたので、結局どうなったのかはわかりません。ある日突然お店に人がやってきてすべてを差し押さえられたのです。借金の証拠もすべてあり、反論することもできませんでした。

 その中には私自身も担保に入っていたようです。私はお店の物と同じ扱いで人としての価値はなかったみたいです。

 そういえば旦那様には何も買ってもらったことがありませんでした。結婚式も簡単に教会で済ませただけでしたし、お披露目も何もありませんでした。これでも8年も頑張ってきたつもりでしたが、気にくわなかったのでしょうか?



 運がいいのか悪いのか、とりあえずは奴隷として奴隷商人に引き渡されました。直接そういうお店に売られるよりはまだ普通のところに買い取られる可能性が残っているのが救いです。まあ20代後半の女にその可能性は低いでしょうけど・・・。

 私の契約は制約なしの奴隷でした。奴隷としての最低限の生活保障はされますが、あくまで建前です。体を使った奉仕をしろと言われたらするしかないでしょうし、どのようなことをしなければならないかもわからない状態です。結局買い取られなければそういうお店に売られていくのは目に見えています。もう私の人生は終わったも同然でしょう。



 奴隷の購入に訪れる人はそれなりにいますが、やはり売れていくのは容姿がいい人やスキルを持った人でした。残念ながら私は特にスキルを持っていないようでした。いろいろとやっていたと思うのですが、やっぱり手伝い程度ではだめだったのでしょう。


 何度か買い取りの候補には残ったことがあるのですが、やはり最後には若い娘やスキルを持った人が選ばれてしまい、私は売れ残りました。何でもありと言うことで候補には残ったのでしょう。

 正直なところこのままここで生活するのもいいのかと思っていましたが、一定期間売れなければ結局はどこかに払い下げられるのです。



 その日にやってきたのは20代前半の男性でした。商人の対応を見ると、かなりの上客のようです。一応私にも紹介のチャンスが来たので頑張って見ようと思いましたが、他の人たちが言うのを聞くと私のアピールポイントはありませんでした。

 みんな体を使ってアピールしているし、年齢的にも私はかなわないから・・・。私の容姿はいいとはいえず、太ってはいませんが、正直貧相なのです。こんな体でアピールしても滑稽なだけでしょう。

 私の番がやってきたので、素直に自分のことを話しました。


「マルトと言います。家庭レベルの家事はできますが、残念ながらスキルはありません。以前は商会の従業員のために料理を作ったり掃除をしたりと言うことをやっていました。精一杯やりますのでよろしければお願いします。」


「家庭レベルって料理をするとしたら何人分くらいは作れるの?」


「10人くらいだったら十分対応できます。掃除や洗濯も結構できる方だと思っています。」


 スキルの再確認をしているようですが、なぜか奴隷商人の方も驚いているようです。どうしたのでしょうか?

 一通りの話をした後は他の人にも話しかけていましたのでやっぱりだめなのでしょう。


「それではあのマルトさんと、クレアさんをお願いしたいのですがよいですか?」


 いま私の名前が呼ばれたのは気のせいでしょうか?あとのクレアってたしか20歳くらいのかなりかわいい娘でしたよね?その娘と私ってかなり差があるように思えるのですが・・・。ああ、あの子はあっちの方はダメでしたね。それで私も選ばれたのでしょう。


 本当に私の名前が呼ばれたみたいで部屋に連れて行かれることになりました。よかった・・・。まだわからないけど、とりあえずは買われることができたので最悪の状態は逃れることができたかもしれません。




 奴隷契約を済ませてからご主人様についていくと、そこは結構大きな屋敷でした。貴族ではないようですが、かなり裕福な家なのでしょう。ロビーのようなところに通されて説明を受けました。


「改めて自己紹介をするよ。俺のことはクルトと呼んでくれ。冒険者をやっていて、他に3人パーティーメンバーがいるので後で紹介する。冒険者をやっているので留守にすることが多いため、二人にはこの家の管理をお願いしたい。あとは食事の準備などだ。」


「「はい、わかりました。」」


「マルトはスキルが無いといっていたけど、先ほど確認したら料理や裁縫、あとは商人などのスキルを持っていたよ。前にスキルの確認はしなかったの?」


 なぜかスキルを持っていると言われました。最初にスキル確認はしたと思いましたが、壊れていたのでしょうか?


「えっと、前に受けたはずなんですが、スキルは無いと言われたんです。」


「そうか、ある意味ラッキーだったな。これだけのスキルがあったら結構買い手が多かったと思うんだけどね。」


「そうなのでしょうか?」


「とりあえずはマルトがメインで管理をお願いするね。クレアはマルトの補助をお願い。基本的に掃除や洗濯などが中心だけど、毎日全部の部屋を掃除しなくてもいいから、できる範囲でやってくれ。」


 今後の作業内容を確認したところ、正直なところずいぶん楽な内容でした。前は毎日の掃除に食事にと一日朝早くから夜遅くまで働いていましたから。


「あと、仕事をする時間は指定するので、それ以外の時間は自由にしてくれてかまわない。自分たちのことは自分たちでするので俺たちの身の回りの世話をする必要は無い。まあ必要な場合はお願いすると思うけどな。」


 このあと家の中を案内されましたが、思った以上に大きなところでした。冒険者って結構生活が厳しいと聞いていましたが、他に何かやっているのでしょうか?

 大きなリビングにキッチン、お客様用と思われる部屋がいくつかにお風呂までありました。トイレなども最新式のトイレが設置されていました。


「二人にはこっちの部屋を使ってもらおうと思っている。申し訳ないけど部屋はそれほど広くないが、一応個室になっているので勘弁してくれ。欲しいものはあとで買いに行ってもらうから必要なものは考えておいてくれ。」


 狭い部屋って、私たちにも個室を与えてくれることに驚きました。普通奴隷は一つの部屋に雑魚寝です。それなのに個室の上にベッドなども置いています。マルトも少し困惑しているようです。どう考えても奴隷の扱いではありません。


 一通りの説明が終わったあと、出かけていたと思われるパーティーメンバーの女性3人がやってきました。みなさんかなりの美人です。パーティーメンバーと言っていましたが彼女なのでしょうか?


 3人にとりあえず買い物に行こうといわれてマルトと一緒に連れて行かれました。買ったものは服やいろいろな小物などなのですが、こんなに買ってもらっていいのと困惑するくらいでした。

 何も持っていないというと、作業用の服以外にお出かけ用の服まで買ってもらえました。お出かけ用って着る機会があるのでしょうか?奴隷は個人的な理由で出かけることはでき無いはずです。



 家に戻るとまずは体をキレイにするように言われました。まだ他の人たちが入っていないので最後で十分ですと言っても聞き入れてくれませんでした。困惑しながらマルトと二人でお風呂に入りました。


「夜の相手をするために綺麗にしてこいってことなのでしょうかね?」


「そうかもしれませんね。パーティーメンバーとはそういう関係ではないと言うことなんでしょうか?大丈夫ですか?」


「ええ、もともとそういう契約ですから・・・。それにこれだけのことをしてもらうのであれば、あまりひどいこともされないでしょう。」


 クレアも困惑しているようですが、これだけの生活をさせてもらうのであればそのようなことを求められても仕方がありません。こんな私でも奉仕できるのでしょうか?


 髪も洗って買ってもらったくしで髪を解くと、久しぶりに髪の毛もすっきりしました。お風呂を出て皆さんがいるところにいくと、クルト様や他のメンバーの方達が驚いた顔をしていました。どうしたんでしょうか?


「なんか来たときと雰囲気が全く違うんだけど・・・。」


「ああ、申し訳ありません。人と話すのが苦手で眼鏡をかけていたのですが、本当は必要ないのです。あと久しぶりに髪の手入れもできたので、すっきりしました。」


「ねえ、クルト。二人ともかなりの美人さんだけど、そっちの目的で買ってきたのかな?」


 なぜかミランダ様がかなり怒っているようです。他の二人も少し怒っている風に感じます。


「そんなわけないだろ。家の管理用と言うことでスキルを確認して買ってきたっていっただろ。正直マルトは予想外でびっくりしているんだよ。まさかミランダ達と同じくらい美人だったとは・・・。」


 なにを言っているのでしょう?美人って・・・奴隷にお世辞を言ってもしょうが無いのに。ミランダ様達も照れているようです。




 今日は二人の歓迎会をやろうと言って、いろいろと買ってきたものや作ったものでお祝いをしてくれました。奴隷なのに一緒のテーブルについていいのでしょうか?食事だけでなくお酒までもらっていいのでしょうか?デザートとかこんな高級品を食べていいのでしょうか?


「二人には言っておくが、俺たちはみんなこの世界を楽しく生きることを目的にしている。だから奴隷で買われたと言ってそんなに悲観しなくていい。俺たちと同じように人生を楽しんで幸せになればいいからな。」


 なにを言っているのかわかりませんでした。奴隷なのに幸せになる?そんなことは無理ではないでしょうか?



 食事会の後、後片付けを終えたところで後をマルトにお願いしてクルト様の部屋へ行きました。「夜のご奉仕に来ました。」というと、大慌てで「必要ないから!!」と言われてしまいました。


「やっぱり私とかじゃその価値もないですよね。」


「いや、違うから。価値がないとかという話じゃなくて、あくまで家の管理者として雇っているだけだから。今後はそういうことはしないで!!」


 パーティーメンバーもいるのでそちらの方達と関係を持っているのかもしれないと納得してそれ以上は何も言わずに部屋に戻りました。




 このあと言われたように仕事をしていたのですが、普通に家の管理や食事の準備だけを求められました。そのあと追加で1人の女性が雇われました。

 そのころに新たな商売を始めると言うことで屋敷の庭に従業員の宿舎が建てられて仕事は増えましたが、それでも十分に対応できる範囲でした。


「ねえ?奴隷ってこんな待遇でした?」


 同僚の2人に話を聞きました。


「「そんな訳ないでしょ!」」


 奴隷なのですが、一人一人に部屋が与えられ、支給品と言って服など必要用品は与えられています。さらに給仕などは行いますが、食事は皆と同じ内容で一緒に食べます。働く時間も朝は準備もあるのでそれなりに早いですが、交代で休憩時間もありますし、夕食の片付けの後は自由となります。

 しかも交代で週に1回は休みを取れますし、月に1回は休養日として全員が休暇の日までくれるという好待遇なのです。


 そして驚くのは奴隷なのに小遣いをもらえることです。通常は奴隷の解放のために給金は使われるのですが、それとは別扱いと言うことで月に1000ドールももらうことができるのです。これは貯めて奴隷解放を早めてもらってもかまわないし、自由に使っていいと言われました。

 そして奴隷解放までの貯蓄についても毎月報告してもらっています。月に支払われる額は安いですが、普通の奴隷の給金としては高額です。


「奴隷を解放されても、できればそのまま働いてほしいと言われましたけど、奴隷すらやめる必要がないと思うのは気のせいでしょうか?」


「気のせいじゃ無いと思うわ。もしあっちの方も世話してくれと言われても喜んでご奉仕してもいい位よ。そんなつもりがないというのがある意味残念なくらいだわ。」


「もしいい人がいたらその人と結婚してもらってかまわないし、それでもそのまま働いてもらってかまわないってもう奴隷じゃないですよね?普通に雇われた人ですよね。」


 そうなのだ、どう考えても対応がよすぎるのである。何か裏で悪いことを考えているのではないかと疑ったこともありますが、どう考えてもそんな風には思えません。

 ただ、最初にこの家のことについて口外しないように契約されましたので、そのことが理由なのかもしれません。



 しばらくした後に、いろいろと話し合いが行われたみたいで4人が結婚することになったようです。なぜ今までしていなかったのだろうと言うくらいだったので正直「やっとか。」と思いましたけどね。


 知り合いを呼んでの簡単な結婚式のようでしたが、そのあと家でも従業員全員でお祝いを行いました。とても幸せそうな4人を見て私たちもとてもうれしかったです。




 今までは夜の生活はなかったようなのですが、さすがに結婚するとそういうわけではないようです。おかげで部屋の掃除の回数が多くなったのは仕方が無いことです。


 しばらくするとミランダ様のお子様が生まれました。ミランダ様に似た女の子で、クルト様だけでなく、アルマ様、ラミア様も大喜びでした。他の奥様が嫉妬するのではないかと心配しましたが杞憂でした。みんなまるで我が子のようにかわいがっています。



 同僚の二人は奴隷の解放の後、しばらくして結婚しました。ここに住むのはやめましたが、そのまま通いで働いています。


 私は結婚のことは諦めて住み込みで働いています。前の結婚のこともあり、改めて結婚する気も起きませんでした。ただなにかお返しがしたいのですが、何も思いつかず、ミランダ様達に許可をもらって何度かお情けをいただきました。私にできるだけのことをさせていただいたのでクルト様も喜んで下さったようでした。もちろん子供はできないように十分気をつけていたので大丈夫です。


 今は子供達も増えました。この世話のために新しく雇われた奴隷の方達もいるのですが、やはり最初はかなり困惑していました。いずれは慣れてくるでしょうね。

 でもそれが当然の権利と思われても困りますので、感謝だけは忘れないようにしなければなりません。


 いまは従業員をまとめる役を仰せつかっていますが、最初にクルト様に言われたようにとても幸せな人生となりました。

 私の子供はできませんでしたが、クルト様たちの子供達にも慕われて、とても楽しい日々を過ごしています。

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