ミランダSide

 私は支援魔法をメインとして簡単な回復魔法もできる冒険者だった。だったというのは今回の戦闘で右足の膝から下をなくしてしまったからだ。

 今まで特に決まったパーティーは持たず、依頼があったときに短期間パーティーに加わって援護を行うという立場だった。

 もともと戦闘は補助的な役割だったし、連携を崩しかねないのであまり手を出さないようにしていた。それでもパーティーへの協力依頼のリピーターも結構あったので十分に役割分だけこなせていたと思う。定期的に依頼を受けられていたので冒険者としては平均的な生活を送っていた。


 今回もそれほど難しい依頼ではなかったはずだった。良階位のメンバーのパーティーで怪我をした支援職の代わりに援護するだけのはずだった。戦闘には加わらなくていいと言われていたからだ。


 順調に討伐を行っていたはずなんだが、急に後ろから魔物が現れてしまったのだ。気配察知の担当のミスとしか思えないが、私がそれを言ったところで誰も認めてくれるわけがない。所詮私は臨時のパーティーメンバーだ。

 あとで小耳に挟んだところ、魔獣を倒すのに思った以上に手こずってしまったせいで気配察知の範囲が狭くなり、私がいた後方に警戒範囲が届いていなかったらしい。いつものメンバーだともっと近くにいたためそのつもりで範囲を絞っていたようだ。



 片足の支援職だと、魔法による仕事はこなせてもやはり依頼する人はほとんどいなくなってしまった。それはそうだ。戦闘には関わらないとしても、狩りに行くまでの移動はどうするんだという話である。私レベルの支援職は他にもいるんだから。

 足を再生する治癒費用はとんでもない額だし、義足を買うにしてもお金が足りない。義足だけでもつけることができれば近場での狩りなら十分対応できるのに・・・。でも今は依頼もないのでお金も入らないため、貯金を食い潰している状態な私にそれを買えるだけの余裕はない。


 このまま冒険者をやめて体を売るか、奴隷に落ちるしかないのだろうか?容姿はそれなりにいいという自信があるのでそっちの世界でもそれなりにはお金は稼げるだろうが・・・。

 こんなことなら家を飛びださずに商売の手伝いをしておけばよかったのかもしれない。でも今更家に帰ることはできないよね。兄も結婚したと聞いているし、もう5年以上もたっていたら実家に私の居場所もなくなっているだろう。しかもこんな状態の私だと邪魔にしかならない。



 パーティー募集の掲示板を見ていると、クルトという良階位の冒険者がパーティーを募集していた。募集内容には上の階位は目指さないが、体に支障があってもかまわないと書かれている。たしか最近怪我をしたという剣士だったはずだ。評判は悪くなかったが、怪我のせいでパーティーから外されたと聞いた。


「私と同じか・・・。」


 お互い体の不自由なもの同士でもなんとか戦えるかもしれないとクルトに声をかけてみた。


 彼からとりあえず1ヶ月は体験と言うことで、必要経費と最低限のお金は渡すが、報奨金の管理はすべてやらせてくれと言ってきた。またこのパーティーでのお金のことについては口外しないと言うことでわざわざお金のかかる魔法契約までするといわれてかなり悩んでしまう。

 契約内容を読む限り特に怪しいところは無い。この内容であればもし私を襲っても口外できないようにすることもできないし、お金のことも倒した魔物で大体予想することができるので問題はなさそうだ。

 事前に聞いた彼の評判でも特に変な話は聞かなかったし、どうせだめだったときは体を売るしかないのだから、最後にこのチャンスにかけてみようと思い、契約することにした。


 契約をした後、買い物に向かうと言って行った場所は補助具の専門店だった。いきなり義足を購入するというではないか。


「ちょっとまって、義足ってそんなに簡単に買えるものじゃないでしょ?」


 そう言ったんだけど、あとでその分返してもらえばいいからと言うことで購入することになった。とりあえず納得はしたんだけど、少し不安になる。私にどういう見返りを期待しているのだろう?



 指を2本なくしたと聞いていたはずなのに、クルトはすでに治療しているようだった。指だけなのでそこまで治療費は高くないとはいえ、良階位でもすぐに払うのは難しい金額だったはずだ。

 今回の義足のことといい、治療のことといい、実は副収入でもあるのだろうか?ただこのことは秘密にするように言われたのでそれ以上は聞かなかった。またクルトの指や義足のことは周りには内緒にするように言われたので、素直に従った。



 お金を貯めると言っていたのに泊まる宿は個室のあるところだ。何かされるのかとちょっと不安になったのだけど、私と別々の部屋を取ってくれるようだ。個室の宿なんて冒険者になってからほとんど無かったから驚いた。夕食もちゃんとしたところでの食事だったし、お金を貯めることに集中するんじゃなかったのかな?


 宿に泊まって、しっかりと食事をとって、さらに小遣いまでもらうという贅沢している上、討伐する魔物も上階位レベルのものだ。まあパーティーの戦力を考えると良階位の魔物を狩るのは難しいことはわかるんだけど、これでお金は貯まっているんだろうか?



 約束の1ヶ月となったところで、今後のことについて話をした。

 驚いたのはもう一ヶ月もすれば足の治療費が貯まると言うことだった。私の計算では稼いだお金は8万ドールがいいところのはずだ。宿屋や食事にもお金がかかっている上、装備の整備費とかまで考えるとお金はほとんど貯まっていないことになるはずだ。

 どういうことなのか聞いてみたところ、いろいろと教えてくれた。クルトはこれに気がついて問題にならないかは分からないが、どっちにしろ生活を変えて行くにはこのくらいの冒険は価値があるとと言っている。悩んだ末、私もその言葉に乗ることにした。




 今後の話をしたところで、やはりもう少し戦力を増やしたいらしく、奴隷を買いに行くことにしたようだ。それなりのレベルで魔法使いか剣士がいれば声をかけてもらうようにしていたみたいで、ちょうど魔法使いだったという冒険者が入ったようだ。


 候補の奴隷は攻撃系の魔法使いらしい。もともとは上階位と言うことだったが、この年齢で上階位と言うことであれば十分優秀だろう。

 仮面をしていたので確認のため外してもらうと、目を背けたくなるほどひどい状態だった。やけどなのか顔の皮膚は引き攣れており、そのせいでうまくしゃべられないみたい。クルトはすぐに仮面をつけさせて謝っていた。

 クルトは私の足の治療は遅くなるけど、顔の治療を先にしていいか聞いてきたので同意する。さすがにこんな状態だとかわいそうだ。彼女の購入を決めてから教会に行って治療をしてもらう。戦力的にもその方がいいからね。


 治療した顔を見て驚いた。最近見なくなったアルマという魔法使いだったのだ。まだ上階位だが、優階位相当の実力者と言われている女性で、実力だけでなく美貌も有名だったからだ。名前を隠していた意図を聞いて納得した。たしかにあのアルマを奴隷として手に入れられるのなら治療費くらいは出すという金持ちは多いだろう。


 クルトは「アルマは奴隷だが、パーティーメンバーとして扱う」と言ってきた。しかも、自分の部屋に泊めさせるのかと思っていたんだが、私と同部屋でいいかと言われて驚いてしまった。

 彼女の容姿を見ても手を出さないって言うのは女性に興味が無いのかと思ってしまったが、どうもそうでもないようだ。狩りの途中で服が破れたり、着替えがあったりすると恥ずかしそうにしながらもチラチラ見てくるからね。


 アルマはソロで狩りをしていたのでパーティーが苦手なのかと思っていたんだけど、そういうわけでもなかったようだ。連携もきっちりできるし、話しても色々と返してくる。

 まだ17歳と言うことで自立をしているけど、思ったよりも幼いところがあり妹みたいな感じでかわいがった。アルマも私によくなついてくれてそれだけでもとてもうれしかったのに、ミラ姉と呼んでくれるようになって悶絶しそうになったのは秘密だ。



 このあと3人でひたすら魔物を倒してお金を貯めていった。2ヶ月もすると予定の金額が貯まり、私たちは無事に治療をすることができた。私の足も、アルマの手も元に戻ったのである。リハビリは必要だが、普段の生活は格段に過ごしやすくなったが、周りには治療したことは秘密にしていたし、アルマも仮面を被ったまま生活をした。


 奴隷を解放するという話をしたんだけど、アルマはこのまま解放しなくてもいいし、ずっとクルトの奴隷のままがいいと言ってきたときには二人で突っ込んでしまった。やっぱりアルマもクルトのことが好きになったのかな?

 私もクルトのことが好きだけど、アルマともこのまま仲良くやっていきたいと思ってしまう。アルマはどう思っているのかわからないけど、このまま3人でずっと一緒にいれたらいいのにな。



 この町だといろいろと知り合いが多くて大変なこともあり、別の町に移ろうと考えていた頃にパーティーに入れてほしいという女性がやってきた。どうしたのかと思ったんだけど、彼女の姿を見て納得した。私たちと同じなんだ。



 ラミアが加入したことでパーティーの安定性が格段に上がった。ラミアがすべての魔物を引きつけてくれるので攻撃や支援に専念することができるようになったからだ。3人でも十分と思っていたんだけど、彼女の加入はかなりありがたかった。1ヶ月してからラミアに事情も説明したところ、このままパーティーに残ることを選んでくれた。


 ラミアは私と年齢は同じなんだけど、姉御肌という感じでよく世話を焼いてくれた。時間があるときには3人で買い物に行ったりもした。クルトも時々は付き合ってくれるんだけど、かなりしんどそうだからね。



 新しい町では新しい商売もはじめて私も少し手伝うこととなった。以前家の手伝いをしていたことが役に立つとは思わなかった。だけどここまで従業員に還元していいのか心配になるくらいの厚遇ぶりだった。おかげで従業員の雰囲気はかなりよかった。


 新しい町で家を買ってしばらくした頃に、ラミアから相談があった。ラミアはもう気持ちを抑えることはできないが、二人には先に話しておこうと言って相談に来たようだ。

 やっぱりアルマもラミアもクルトのことが好きになっていたみたい。私も正直に自分の気持ちを伝えた。

 ただ他の二人もクルトとは関係を持っていなかったようだ。女性に興味が無いのかという話にもなったが、ちょっと肌が見えたときとかに視線を感じていたらしく、興味が無いわけでは無いという結論になった。嫌らしい目でもないし、恥ずかしそうにしているのでこちらも気がつかないふりをしていると同じことを言っていた。

 今のままの関係でいたい気持ちもあるんだけど、自分の気持ちを伝えたい気持ちも抑えられなくなってしまった。

 結局恨みっこなしということでクルトに話すことになった。きっと他の二人も今の関係は壊したくないのだろう。もしクルトが他のどちらかを選んだとしても祝福してあげよう。


 クルトからは3人とは付き合えないと言われたときは目の前が真っ暗になった。ただしつこく話を聞くと、私たちの誰かを選ぶことができないくらい好きなのでそれならこのままの関係の方がいいと言うことだった。

 アルマとラミアの方を見ると、うなずいていた。


「「「ねえ、それじゃあ、3人全員と付き合って!」」」


 クルトは驚いていた。それはそうだ。普通は一人で独占したい気持ちが強いはずだ。でもアルマとラミアならかまわない。ううん、一緒にクルトを愛し合えるというのがうれしいと思うのだ。


 冒険者としては名声を得られなかったけど、私は幸せだ。家も買い、素敵な旦那様と親友と呼べるようになった二人、そしてまもなく子供も生まれる。こんなに幸せでいいのだろうか?

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