「暴」の巻


「…………それで、クマから逃げ切ったと思ったら、この明かりが見えたってわけか」

「えぇ……そうなんです…………」

「……なんか、すごい体験だな……車に轢かれて、崖から落ちて、クマに襲われて……でも、痛くない?」

「痛くないんスよね…………」

「ぜんぜん?」

「全然」

「左足、見せてもらっていいか?」

「あっ、はい」

「大丈夫?」

「大丈夫です、こうやって座ってる分には……」

「……うわぁー、すごいね」

「やっぱりすごいですか」

「これすごいよ。膝から裏っかえしだもん。これで痛くなくて、しかも歩けるってのは奇跡だよ、兄ちゃん」

「はぁ……」 

「で、顔と腕が穴だらけで? ちょっと……ライターで照らしていいか?」

「はい、いいですよ」

「…………ウェッ! オエッ!」 

「ダイジョウブッスカ!」

「テメ何シテクレテンダッコラアー!?」

「アッすいません……」

「お前らは黙って休んでろや!」

「シャアッセン」

「スャゥッセン」

「……悪いな、ウチの若いの、元気はあるんだが……。俺こういうブツブツ苦手なんだわ。ごめんな」

「自分も自分で見てウェッってなったんで、いいですよ」

「うーん……それなんつうかよ、妊娠線みたいなもんだと思うよ」

「ニンシンセン?」

「俺の女がな、子供出来て、お腹ふくれてるんだわ」

「おめでとうございます」

「うん、ありがとう。で……腹の皮膚が急に伸びてさ、ヒビ割れみたいのができるわけよ。で、そういうのをなくするクリームみたいなんがあって、産まれた後で塗ってくれ、って頼まれてるんだけどな」

「はい」

「要はさ、そうなった皮膚も、ガーッと揉めば柔らかくなって、元に戻るってわけ。だから腕も顔も、揉みほぐせばいいんじゃないかな」

「あー……なんか、それ聞いて安心しました…………」

「でも、顔の皮もめくれてるんだっけ」 

「めくれてますね」

「手で押さえてないとまずい?」

「ペローンってなります」

「それダメだなぁ、痛くないとは言え、早いとこ医者に行かないと……」

「そうですよねぇ……」

「そうなるとな……ちょっと困るねぇ…………」

「困る」

「まぁそのー、見られちゃったわけだろ?」

「あー、まぁ、そういうことにはなりますよね……」

「いや……どうしようかな、って迷っててね俺…………そんな悲惨な、あっ、悪ぃな悲惨とか言って」

「いや、悲惨なんで……」

「そういう目に遭ってる人をさ、見殺しにするってのはちょっとイヤなんだわな、俺としては。ましてや、ころ」

「あーっ! あのー! でもところでアレですよね! 苦労が多いですよね! あのー、家電を! 家電を捨てるのも!」

「…………うん? なに?」

「最近はほら、リサイクル料とか言って、タダで捨てられないじゃないですか」

「…………おお、うん? ん?」

「なので、まぁよくないことッスけど、こういう山奥に、捨てに来られたんですよね? 家電を、ね?」

「………………あーあーあー、あーなるほどね! そうそう! うん、そうなんだわ兄ちゃん! 家電な! 本当はダメなんだけどな!」

「そうですよね!」

「カネとられっから!」

「ええ、ええ」

「だから俺ら、ここに捨てに来たワケよ! 家電を!」

「はい! はい! そうなんですよね!」

「テメ何ワケワカンッネコト吐カシテッダオオーッ?」

「俺ラニ何サセヨッテンダコラァナメトッカァオォ?」

「お前ら静かにしろッつってんだろうが!」

「ワーリアッタ」

「サイヤスェン」

「ゴメンな、ウチの若いの、バカだらけでな」

「そうみたいですね」

「アンダァッテメェアーッ!?」 

「テメコラ死ニテェッカテメー!?」

「あっスイマセン! スイマセン!」

「今のはよくないぞ兄ちゃん」

「スイマセン」

「…………それでまぁ、アレだな、じゃあ、どういうことになるかと言うと…………」

「えぇと、そのー、皆さんが『家電』を捨てていたことは言いませんので、その代わりに道路まで連れていってもらって、そこで救急車に連絡を……」

「そうだな、まぁそんなところか…………。兄ちゃん、本当に言わねぇよな?」

「そりゃあもう……」

「男と男の約束、できるか?」

「はい。このご恩は一生忘れません」

「いや、全部忘れてもらわねぇと困るんだけど……」

「あっスイマセン、忘れます。このご恩はすぐ忘れますんで」

「それもどうなんだろうな」

「じゃあ、概念としての恩は忘れませんので」

「……まぁホラ、兄ちゃん、俺らの名前もなんにも知らねぇわけだし、顔も、この暗さでわかんねぇよな?」

「はい、はい。見えてないです」

「でもこっちは兄ちゃんの顔、覚えたからな?」

「………………」

「……いや悪い悪い! いつものクセが出ちまった! よくねぇよな!」

「はは、は、ははは」

「ジョータンだよ冗談! 俺はこんな顔してっけど極悪人じゃねぇから!」

「はいOKです。いい人です」

「……よぅし、話はまとまったな。お前らそれ、さっさと埋めちまえ! それからこの兄ちゃんを道路まで連れてってから、救急車に電話を」

「でもカナウチさんッ! 見ラレチマッタンすヨッ!」

「……………………お前なんで俺の名前呼んじゃうの…………?」

「アーッ! アーッ! あのー! 聞き逃しました! 今のあちらの方の言葉! 聞こえなかったです!!」

「そうかい?」

「いゃもう全然! 全然聞き取れなくて!!」

「ンナワケネッダロウガテメー!」

「サッキカラテメー、カナウチさんト対等ニ話シヤガッテヨオォーンッ?」

「だから俺の名前…………」

「ソイツ放ットッタラ! ゼッテーヤベースヨ!」

「アト早ェトコ、タカハシさんトコ戻ンネートヤベッスヨ!」

「なんでオジキの名前まで言うの…………?」

「アーアーアー聞こえてないです、聞いてなかったですなんにも」

「見タシ聞イタダロッガテメー!」

「フカシコッテンジャネゾテヤァ!!」


 穴の淵に座っていた若い2人が、でかいスコップを手に勢いよく立ち上がった。 


「参ったなぁおい……お前らちょっとな、さっき酒飲んでから穴掘ったから、酔いが回ったんだな? まず落ち着けよ、な? お前ら酔ってるんだよ」

「酔ッテニャイッスニョ!」

「酔ってるじゃねぇか」

 スーツの男は心底困った顔で言う。そういえばライトの中に浮かぶ若い2人の顔はだいぶ赤い。死た……家電を埋める穴を掘る気つけとして、酒をあおったに違いなかった。

「俺たちゃカタギに迷惑かけちゃいけねぇんだよ、しかも道に迷ってケガしてる人に……」

「カラウッサン! ダッメッスヨ!」

「チャント始末ツケッテ! ケジメツケッテェト!」

「……てめぇら俺の言うことが聞けねぇのか!!」

 中年の男が一喝した。2人は一瞬怯んで俺も怯んだが、前者は肩で風を切る立ち姿をやめなかった。

「カニャウッサン、ヤレネーナラ、ホレラガヤリャッス」

「ショウユウ意味ッスヨネ? 根性キメノ仕事ッスヨネ?」

「いや違う違う……本当に違うんだって……」

 今度は中年の方がたじろぎはじめた。男として惚れられているのは間違いないのだろうが、若い衆の愛が間違った方向に行きがちな関係のようだ。

「オッシャテメーヤッゾオイ! ハクゴシヨヨ!」

 呂律の回らぬ口調で言いながら金髪で襟足の長い方がスコップ片手におれに近寄ってくる。おれは岩の上に腰かけてしまっており、迫り来る恐怖ゆえ左足の動かし方が数秒、わからなくなった。

「お前らやめろってんだよ! よしとけよ!」

 俺の隣に座っていたスーツの男が制止するが金髪は止まらない。 

「シェャイ!」

 金髪の方がスコップを両手で握り、右から左へと薙いできた。

 おれは逃げられなかった。

 でも、座ってるだけなので、頭は下げられた。

 なのでひょい、と頭を下げた。

 スコップは隣にいたカナウチさんの頭に「ぱこん」と音を立ててぶち当たった。

「デッ」

 カナウチさんはそう叫んで地面に倒れた。色つきメガネが飛んで落ちて割れた。

「あっ」おれは言った。

「あっ」金髪も言った。

「あっ」黒髪も言った。

 カナウチさんは胎児のように倒れて動かない。どのようにぶつかったのかまでは見ていなかったため、この人の顔にスコップが平たく激突したのか、それとも横ざまに斬るように当たったのかはわからない。もし後者だったら死んでいるかもしれない。前者でも死んでいるかもしれない。

「お、お、おッ…………?」

 金髪は兄貴分を殴打してしまったことに動揺しているのか、両手でスコップを握ってプルプル震えている。黒髪は口を開けて立ったまま何もできないでいる。酔いは半ば醒めてしまった様子だ。 

 次に起こることは、だいたい予想がついた。

「よ、よくもォ…………!!」

 金髪は長い襟足を震わせながらおれの顔を憤怒の形相でにらんだ。犬のような顔がさっきよりも真っ赤に染まる。

「よくも!! よくも兄貴をーッ!!」

 やっぱり。

 お前が殴ったんじゃん、と言う間もなく金髪はスコップを振りかぶりおれの脳天めがけて打ち下ろしてきた。俺はまだ足が動かないので岩の上からずれ落ちて避けた。落ちたすぐそばには倒れたカナウチさんがいた。

「逃げンナコノッ! バッカヤロウ!」

 おれは上半身の動きだけで二発目をかわした。するとスコップはカナウチさんの側頭部にぱこん、と当たった。

「テンメェーッ!! ヨクモォーッ!!」

 おれはようやっと立ち上がって逃げはじめた。すぐ後ろから金髪がスコップをぶんぶん振り回しながら追ってくる。 

「ユルサネッゾテメェアーッ」

 それをおれに向けて投げればまず間違いなしに当たるだろうに、興奮のあまりその選択肢は浮かばないらしかった。

 森の奥は暗くて危険なので、おれはあえて黒髪のいる方に逃げていった。顔面が半分ペラペラするので、左手で左頬は押さえたままだ。

 黒髪はさっきと同じように呆然としている。脳の許容量をオーバーしたのだろう。

「オイ! オイ! ケンジィ! ケンジィ! そいつあのー! アレしろ! アレ!!」

 金髪の呼びかけに、黒髪ことケンジは「え?」と呟くだけだった。おれはケンジの横をすり抜ける。

 背後でンナロッテメーッと金髪の絶叫が聞こえたかと思うと、何かが風を切る音と、その何かが誰かにぶつかる音と、その誰かが倒れる音がした。

「ケンジぃーッ!!」

 金髪の悲痛な叫びが森にこだました。

「テメェーッケンジまでェーッ!!」

 ちらり後ろを振り向けばケンジが口を開けたまま倒れていて、顔にスコップの柄が乗っている。刺さらなくてよかった。あれなら死んでない。たぶん。

 そのスコップと、ケンジの持っていたスコップを拾い上げ、金髪は二刀流になった。意味もなく頭の上で交差させてガキンと鳴らした。

「テメェーッ! 許さねェーッ!」 

 おれは穴の淵に沿うように逃げた。それ以上行くと足元が闇に包まれるからだ。

 と、俺の右足が青いビニールシートに引っかかった。たたらを踏んでしまったので振り向くと金髪が今まさに、スコップを一本おれに向けて横に振り抜こうとしている瞬間だった。

「カタキーッ!」

 おれの右脇腹に衝撃が走った。スコップが刃のようにかすめて血が散るのが見えた。

「死ネコラあーッ?」

 金髪は振り抜いた勢いに持っていかれて、穴に仰向けに落っこちた。

 おれの腹を切ったのとは別のもう一本のスコップが、金髪の後頭部にぱこん、と当たった。

 金髪は穴の中で動かなくなった。


 …………例によって例のごとく痛みはゼロだが、おれは無意識のうちに右脇腹を右手で押さえていた。血が出たのが見えたからだ。

 さすがに腹をやられたら出血量がひどいだろう、と危惧した。事実血が溢れてきたが、別のものも出ていた。

 なんかムニムニしている。太った奴の腹みたいにムニムニしているモノが脇腹から出ている。

 もうだいたいわかっているのでおれは呆れ気味に、でかいライトの方へと足を向けて傷口を確かめた。


 傷口から、腸が出ていた。


 いや、わかっていたけれども…………


 ぱっくり開いた右脇の傷から、腸は子猫が穴から顔を出すように可愛くちょこっと飛び出ている。鮮やかな桃色だった。その腸をなぞるように血が垂れ出ている。

 もう無茶苦茶だ、と叫ぼうとしたら、傷口が広がって腸がさらにモリッと出かけた。

「あわわ、わわ」

 俺は再び右手で押さえた。

 しかしこれではもう、座るどころかしゃがむことすら難しい。ちょっとの刺激で腸や別の内臓がモリッと出たらえらいことだ。おれは内蔵の戻し方を知らない。

 そんなわけで、たぶん気絶しているだけでおそらく死んでいない3人の懐を探ってスマホを見つけることもできそうにない。さらに言うなら身体検査している最中にガバッと起きられて掴みかかられでもしたらそれこそおしまいである。さっきの改造車のお兄さんのように俺が両腕を上げて逃げなければならなくなる。大腸とか小腸とかを引きずりながら。

 とりあえず、おれはこの場を離れることにした。いつこの人らが覚醒するかわからない不安の方が勝った。


 左手で剥がれた顔面の皮膚を押さえつつ、骨折をスマホで固定した右手で右脇腹からはみ出しかけた腸を押さえ、左腕には穴を掘る現場にあったライトを抱えながら、左足…………とにかくおれは満身創痍としか言いようがない状態で、深夜の森を進んでいった。

 ライトは重かったが光源としては十二分な役割を果たす。こんな光るものがあればクマもイノシシも近寄ってこないだろう。それに行く先にキャンプ場やロッジがあればすぐわかる。俺は広がる光に希望を託して、腸や顔面が変にならぬよう気を払いながら歩を進めた。大丈夫、きっとどこかに出れる。そう思った。


 森しかなかった。


 進めど進めど森しかない。木と林しかない。バカじゃないだろうか。山だからって木しかないなんて。もてなしの心が足りないんじゃないか?

 おれは腹を立てそうになったが、そうすると脇腹に力が入ってしまう。平常心を心がけて一歩、また一歩と進む。それでもなおやはり暗くて木と草ばっかりの森しかない。これは、あんまりひどいと思う。さっき現れた川みたいな休憩ポイントがあってもよさそうなものだ。あっそうか川に戻ればよかったんだと気づいた時にはもうだいぶ来てしまっていた。平坦で変化のない森である。いま来た方角すらわからなくなっていた。

 ツルツルになった頭部と違って、脇腹からの出血はなかなか止まらなかった。つんと鉄くさい匂いが鼻をつく。時々ふらり、とめまいがする。これが出血多量というやつだろうか。痛くはないのに出血多量にはなるのか。そりゃそうか。おれは傷口を強めに押さえてみたが、今度は手に力が入らなくなってきた。

 これは本当に、まずいかもしれない。

 頭の底から浮き上がってきたとおぼしき記憶が、目の前を横切っていく。よもやこれが走馬灯というやつなのか。黒く広がる森、木の幹、その先にある大きな塀と門……違う、これは今起きてることだ。脳までおれをコケにしやがって。

 

 塀と門?


 おれは改めて目の前を見た。

 森が終わっていた。

 細かく砂利が敷いてあり、その先には高い石塀が並び、鉄格子のような洋風の門がある。

 その背後には大きな洋館が建っていた。

 そして洋館の窓には、明かりがついていた。


 ──人がいる!!


 おれは思わず数歩駆け出した。そうしたら傷が広がって腸がモロロッとさらに出た。

「あ~っやばいやばいダメダメダメ~!」 

 半ば戻らなくなったそれを押さえつけながら、おれは門へと近づいた。インターホンがある。文明の利器とはなんと素晴らしいものだろうか。おれは足と腰が流れ続ける血で濡れるのを感じながら、右手を一瞬離してインターホンを押した。

 血が足りなくなってきたらしい。膝ががくがくする。返答の声が聞こえてくるまでが、5分にも10分にも感じられた。

「…………はい、どなたですか? あの、いま夜中の3時ですが……?」

「あのぉーすいませぇーん、道に迷いましてぇー」

 喉にすら力がこもらない。便意を我慢し続けた人のような声になった。まぁ事実、おなかなら何か出そうになっている。

「あとそのー、ものすごくー、すごくケガ、してるんですよー、それでぇー、救急車をー、すぐさま呼んでいただきたいんですけどぉー」

「遭難してケガを! それは大変だ! 今行きますよ!」

「いやあのー、ケガがもう本当にすごいんでー、救急車を先にぃー」

 ここの住人には悪いが、こっちに来て「大丈夫ですか!? うわぁひどいケガだ!!」と見たままを言われるより先に救急車を呼んでほしかった。いやもう、即、医者がほしい。医者を即座に呼んでほしい。

 いよいよ出血量がヤバくなってきたらしく、数秒意識が途切れた。早く、今すぐ医者を。今オペの準備を。

 その直後、インターホンから聞こえてきた答えに、おれは違う意味で意識が途切れそうになった。 

「大丈夫です、私は医者です!」 

 おおお…………っ?

「外科医をやっています!」

 おおっ……おおお……っ!

「この家でも処置はできると思いますから、気を確かに! そこで待っていてください!」

 オオオオ………………

「いま、担架を持っていきますからね!!」

 オオ、オオオ…………!


 おれはこの時、神の存在を信じた。

 午後3時に「オッ、神社いいじゃん」と軽い気持ちで入山し現在午前3時。この12時間でひどい目に、あまりにもひどい目に遭い続けたが、とうとう幸運の女神がおれに手を差し伸べたのだ。

 意識がなくなったり戻ったりする中で門が開いた。ナイトガウンを着て、真っ白な髪を上品に撫でつけた神様……じゃなくて紳士が、おれの肩を持ち上げた。彼の足元に、かわいらしい小さな犬がじゃれついている。

「これは大変だ……! さぁこの担架に……!」

 夢のような心地で担架に横たわると、それは丁寧に優しくゆっくりと動きはじめた。

「家の中まで着けばもう大丈夫ですからね! 私の腕前なら、このくらいの傷どうにかしちゃいますよ!!」

 気休めには聞こえない自信に満ちた言葉に、俺の目からは涙があふれた。ありがたい。

「ほらジョン、危ないだろう! ……失礼、犬がじゃれつくもので…… あなたの頭の脇に置かせてもらいますよ!」

 あぁもう、全然いいです。全然置いてください。

 言葉通りに俺の頭のすぐ隣にさっきの犬が置かれた。あぁ、かわいい犬……犬はかわいい……かわいい犬……!


 無邪気でキュートな犬の顔ばかり見ていたおれだったが、ふとその下半身が目に入った。


 犬の腰から下は、全部機械になっていた。


 とてもいやな予感がした。





【「医」の巻に続く】





 


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