理由は

森 光

理由は

 制服を着て朝ご飯を食べ、家を出たあたしの背中について来たのは1人の鬼だった。

 朝から鬱陶しいなあと思っていたら、その鬼、口を利く。

「すずらん商店街に行きたいのです」

 鬼って結構、言葉遣いが丁寧じゃん。

「連れてってもいいけど、学校あるからさ」

「放課後で構いませんから」

「うん」

 商店街に連れて行くことにしたけれど、この鬼、学校の門までついて来た。クラスの子たち、なんて言うかな。


◎ ◎ ◎

「全然気にされなかったね」

「はい」

 校門を出て、鬼と話しているあたし。赤くて髭面だけど、やや細身の鬼。目つきは鋭いようにもみえるけど、時々キョロキョロ辺りを見回す様は、小さな子供がお出かけするときと一緒だなあと思う。

「鬼くんは見えないの?」

「見える人と見えない人がありますね」

 そうなんだなあと歩いていると商店街がみえてきた。「着くよ」

「ありがとうございます」

「でもさ、何しに行くの」

「買い物です。娘の誕生日が近くて」

「ふうん。結婚してんだ」。ちょっと良いなあと思う。鬼としての幸せを順調に手に入れてるのかなあ。

「なんであたしに頼んだの」

「理由ですか」

「聞かせてよ」

「見た目、ですかね。優しそうだったから」

 見た目か。よく言われる。お人好しって。鬼からみてもそうか。

「でも、理由ってそんなにはっきりしていないんですよ。何事も。たまたまあなたに頼んで、こうして連れてきて貰えた。それだけで私はありがたく感じました。ありがとう」

 鬼がスラスラと言葉を述べるのを聞いて、返事をしようとちょっと考えていたら、鬼はフッと消えてしまった。

「あ、ちょっと」。消えるんかい。

 もうちょっと聞きたいこと、色々あったんだけどなあ。

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理由は 森 光 @morihikaru

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