子どもと、家事と、ひとりごと。

１５歳の夏。

　小学校から高校生まで、私は女優を目指していた。

　高校一年生の頃、養成所のカメラマンに。

「化粧はした方がいいよ。」

と言われたのをきっかけに、メイクをする事になった。

メイク・・・ものすごく抵抗があった。

私、まだ１０代だしいいよ・・・とすら思っていた。

「中二病」を引きずっていた私は、当時、私は自分で自分を少女だと思っていたし、少女は素顔がいいと思っていたのだ。

　メイクをせず、教室でお菓子をつまんでいる「ギャル」とは違う。失礼かもしれないが、そう思っていた。(というより、ギャルのメイクが明らかに似合わない顔だった)

　教室でメイクやお菓子をつまんでいる人たちより、草原で、たそがれたくなるような、そんな自分が好きだったのだ。

　それにまず、目鼻立ちがはっきりしている事が、とてもコンプレックスで、人前で顔を見せるのに、化粧品売り場にいくのに、とても抵抗があった。(女優志望なのに・・・)

　なんの拷問だよ・・・と化粧品売り場で逃げたくなったが、もうあとには戻れない。そんな私の心なんてつゆ知らず、おかまいなくメイクの人がどんどん私の目に細工をしていった。

　メイクの人はとても的確に私に肌にあう色を選んでくれた。上を向いて、涙袋にきらきらした細かいハイライトを入れ、二重の溝にブラウン。眉毛の下はブルー。その下はゴールド。パレットに並べられているそのきらきらした色の組み合わせは、まるで昔、通っていたバレエの発表会のメイク道具を思わせた。

　マスカラの付け方も、ただまつ毛にのせるだけではない。　まつ毛の根元に、マスカラのブラシでたっぷりマスカラをのせて、くるり、とまつげをのせる事を私は今知った。

　鏡の向うにいる自分は。

　想像していた、自分と、とても、かけ離れていた。

　私じゃないようで、私だった。

　そして、私は。

　メイクは、顔の上に違う色をのせていくものだと思っていたけど。

　元からある、自分の色に、ほんの少しだけ華を添える事だって、知った。

　その日から、私は、鏡に映る自分を少しだけ好きになった。

　私の事を、可愛いと言ってくれる人も出てきた。すごく女っぽくなった！と褒められるようになってきた。メイクって楽しい！　それでも、校則違反だからめったにやらなかったが。

　普段アイラインくらいは引くようになった。

　私は、大嫌いだった、このぱっちりとした二重の目が。

　とても好きになった。

　自信が出てきたせいか、うまく人と話せてきた気もする。

　抵抗があったけど、挑戦してみたら、とても素晴らしい経験だった。

　自分が変わる事は、決して、怖い事ではないんだな。

　そう、初めて気づいた、１５歳の夏だった。