一度でいいから、会いたかった人。



 胸の中にしまいこんでいる人がいる。


と言っても、私はとくに、彼に特別な感情を抱いた事は一度もない。



 今日は義実家とお食事会だった。

 長女は、そんな時、いつも「猫をかぶって」いる。

その反動なのか、おじいちゃんおばあちゃんから解散されたら、やたら我が儘になる。

発散させるべく、マンションのキッズルームで娘を放流した。他の子供達に混ざっていく娘の姿を目で追いながら、私はふと、胸の中にしまっていた「彼」を思い出した。


  彼とは、小学校の同級生で。当時は接点はなかったが、ふとしたことでSNSでコメントの交換をした事をきっかけに、時々メールをしていた。


 だが、「飲みに行こうよ!」と誘われても、私は行かなかった。私の1人暮らししていた自宅がそこそこ都会だったので、そこまで行くよとまで言われた事もあるが、はぐらかし続けていた。


 今思えば。


 心の隙間に入られそうで怖かったのだ。



 それでも、一年に、一度はメール交換をする関係であった。


 それだけだ。


 だから、26歳の年。


 彼からのメールが途絶えたのも。


 彼が結婚して、私も一年後に結婚式を控えていたので。


 お互い独身ではなくなるし、そういった遠慮だと思ったのである。


 そして、私も無事に結婚式を終え、無事に長女を妊娠した年の年末。


 SNSで、彼の誕生日を知らせる通知が届いた。


 ぴこんぴこん・・・と、点滅する通知のライトが、なぜか、懐かしい・・と思ってしまったのだ。


 今まで、一度も、彼に連絡をしたいと思わなかったのに。


 急に、彼に、文字を打ちたいと思った。


 SNSの通知をクリックし、便利機能を使って、誕生日おめでとう。とだけ送った。


 深い意味は徳になくて、「ありがとう!」とか帰ってくると、信じていた。



 奥様から、彼が結婚した年に病死した事を知らされたのはその日の終わりだった。


 仲間たちのコメントを見ても、彼が亡くなっていたのは明らかだった。


 一度も、彼からの連絡を待った事は無いし、他に小学校の同級生とのつながりは何もない。この時初めて分かったのだ。


 まるで、何かの物語・・・のようで、あまり実感がわかなかった。



 でも。


 そこから数年。


 時々思い出すのだ。


 今度、あの店行こうや。とメールくれた事や。

ミクシィで落ち込んだ日記や、SNSで投稿を書けばメールをくれた、彼の事を。



 せめて、ありがとう、と一言いえば良かったな。


 

 繰り返すけれど。


 私は、彼に特別な感情を抱いた事は一度もない。(彼女いるって知ってたし)



  ただ、無事に結婚式を挙げられて、子どもが生まれて。家を建てたり。


 私に進展があったら、必ずコメントをくれた彼だったので。彼がいたらどうコメントくれただろう、と思うときがある。


 私は。


 小学校の頃、いつも男子に虐められていて、誰とも上手く話せなくて、1人で遠くの中学校に進学して。去っていった、私を。彼がしっかり見てくれていた事に。


彼が一年に一度、メールをくれたり、コメントをくれたりした事が。


 少しだけ、嬉しかったんだ。




 今もし。


あの、小学校五年生のクラスメイトだった時代から、また出会え直すことができたら。


 一度でいいから。


 話をしてみたかった。


 食事も、誘われた時にちゃんと行けばよかった。

 



 あなたとメッセージで、つながる関係になれて。


 本当に良かったと、私は、思っている。


  そう伝えれれば。


 彼が生きていたら。


 そう私が言ったら、彼はどう答えたかな。


 

 どうか。


 理不尽に、全て失われた悲しみ苦しみから、彼の魂が癒されていますように。


 SNSで見る彼は、いつも友達に囲まれ笑っていて。私はとても眩しかった。



 なんとなく生きているだけの、わたしは、今日も歳を重ねて、目をこらしながら、子どもを育てている。



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