Track.5 夢寐委素島かも助記念館
町のほうに大掛かりな資料館や神社・仏閣があるが、島にもそれなりのものがある。
手付かずの自然や、海賊のねぐら……。
昔、島は漁業の他に夢寐委素一帯の自警団の役割を持っていて、武器が貯蔵されていたそうだ。
海賊と表記しているのは、副業(強奪)が副業(強奪)だったこともあるが、上の方に正式な手続きをとっていなかったからである。海の武士団である海賊衆は権力を持たないままだったのだ。
ここ一帯を治めていたであろう上の者が頼りなかった、夢寐委素まで手が回らなかったのだから、自衛するしかなかったというところもある。なので、当時の風習的に考えて、海賊は絶対悪だと罵る気はない。
戦国時代になって台頭した戦国大名に対して水軍力(海の治安維持や武力)を提供できるほど組織化された海賊衆が『水軍』と呼ばれるようになったように、夢寐委素一帯を非合法で取り仕切っていた海賊も後に『水軍』となり、あとは時代の流れによって自然に消滅していったという。
その『水軍』時代に、とある名門に婿入りした者がいる。
それが『かも
夢寐委素島乱戦記の登場人物たちの元ネタとも言える。
夢寐委素島かも助記念館は、藤波道倫という地元の偉人が生きていた当時の島の歴史と風習を主軸にした小さな博物館である。
そして、今、まさに、ボクは、夢寐委素島かも助記念館にいるのだ。
豪華三階建て。一般公開は二階と三階の一部のみではあるが、島の規模にしては大きめな記念館である。
コーナーも五つぐらいあり、常設展示のかも助コーナーには、実際かも助が使用していたというきらびやかな着物や武器、屏風などが展示されている。
かも助は刺青を彫っていたらしく、後ろ右肩に金色の竜が描かれていたという。今でこそ忌諱する人が多いだろうが、海で亡くなった場合、顔も体もわからなくなるため、刺青が目印になるのだ。海の男ゆえ、死体判別のため、彫ることはよくあることなのである。
ちなみに、伴侶の姿も等身大フィギュア化していて、仲睦まじい姿が見られる。
かも助の生涯のパートナーは藤波家の生まれで、名を実愛。
フリガナが振られていないので、読めないが『愛』があっていい名前だと思う。ちょっと自画自賛が入っているけど、『愛』はいいよね『愛』は。
藤波実愛は夢寐委素一帯で信仰されている、青波様の熱心な信者だったらしく、戦乱の世で荒れ狂う夢寐委素を嘆いていた。
戦のない平穏な世界を夢見て、祈り続けるのが日課だったらしい。
かも助が台頭したことで、夢寐委素は実愛の望み通り、豊かな社会へとみるみる移り変わっていく。願いを叶えてくれるかも助に恋愛感情を抱き、結婚したのは当然の流れであったと、展示ボードに書かれていた。
夢寐委素では、理想の夫婦として語り継がれているようだ。
「しかも、3Dプロジェクションマッピングも搭載って……すごいな、この記念館」
館内の夢寐委素信仰コーナーで出迎えてきたのは、龍神、青波様。夢寐委素の土着の青波信仰の青波様は、呪法を感知する能力がある。それによって、時空を超えて、魔を浄化すると謳われている。
出入り口付近に設置された呪法によって穢れ、人に襲い掛かろうとするサメ型の怪物に飛びついて、清浄。
呪法が取り除かれたサメは、元のきれいな姿に戻って海の中を漂うという寸劇。
特撮のワンシーンのような巨体を揺らしていくのは、なんとも格好いい演出だった。音楽もリズム感がある曲が流れていて、子どもだけではなく大人も喜びそうである。
海と浄化を司るという神々しい龍のイメージ通りだ。
本当によく作ったものだと、プログラマーの人に敬礼したくなる。
さらに進むと、夢寐委素島の自然コーナー。
夢寐委素島はかつて夢寐委素町とちゃんと地続きだったそうだが、平安時代に起きたという二日二晩の大雨の後、大地震と大津波によってから分離され、今の夢寐委素島となったそうだ。
満潮時に完全に沈む龍舌小道が、地続きだったときの名残だという。
青波はその大津波を神格化した存在だとされ、島に剣、町に勾玉と鏡と、夢寐委素三種の神器を治めたのはこの頃。
神器を治める場所は荒くれモノたちが、大きな石をくり抜いて神器を治められるようにしたという、気合と根性と腕力で作った祠が基らしく、結構粗暴だったらしい。
つうか、すごい。
夢寐委素は脳筋ばかりだったのか……いや、文章通りの自然災害に生き残れたのは、かなり腕っぷしのいい者だけだったのかもしれない。
中央のガラスケースの中には、夢寐委素島の全体模型がある。それを見たボクは、夢寐委素島の形状はバナナの形……もとい、龍に見えるようになっていることを知る。
そして、たつなみペンションは夢寐委素島の東下の小島……龍の持つ『玉』のところに位置し、夢寐委素島乱戦記のクライマックスの舞台でもあることが見て取れた。
他にもコーナーごとにテーマがしっかりしていて、島の博物館としては思った以上に本格的な展示品の数々に、ボクは驚き、興奮したものだ。
「特別企画展のコーナーは……今ときめく夢寐委素島乱戦記の世界。楽しみだな」
ボクは館内のパンフレットを眺め三階へ上がる。
そこには、夢寐委素島乱戦記の世界観が広がっていた。
元ネタ考察や、八人の流刑者の死因は、もともと夢寐委素島を仕切っていた海賊が行っていたという八種類の処刑方法から来ていることなど、少し不気味な内容だ。
苦しみが少ないことから、一番慈悲とされる、斬首刑。
悪人の内臓は汚いとされているからこそ、悪しき心を清める必要があると行なわれる、心臓抜き。
もっとも過酷な処刑方法。生きながら五臓六腑を切り刻むというところからも、かなりの極悪人相手でしか執行されなかったという、なぶり殺し。
何日か見せしめに海岸に放置するため、時期によっては人間干物になることもある、絞首刑。
なぶり殺しほどではないが、よほど恨みが強いのか、崖から石を落として殺す、分類上は投石刑に近い、岩石落とし。
身体を拘束して、崖から海につき落とし、溺死させる、波殺し。
決闘で勝負と生死をつける、血の裁判。
そして、撲殺。これは処刑というよりも、事故で突然死したものや病死した人間の体をこん棒でたたき、己は死んだのだと思い知らしめるという儀式的なもの。死霊となって蘇ることなく、あの世に逝ってこいというわけだ。
ここ一帯の殺与奪権を与えられた信心深い海賊らしい処刑方法である。
夢寐委素島乱戦記はホラーありサスペンスありの小説なのだから、やや過激であるものの、この程度なら精神衛生上なんも問題ない。
「うっ……」
このお姉さん以外は。
海賊たちが行っていたという処刑方法が詳細に記載されている解説用のタッチパネルを読んで、気分を悪くしたらしい。
感化されやすいタイプだったようだ。
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