第3話 事故物件

「今日は文一がゲストをつれてくるんだって?」

「うん。僕らの会社の後輩。社会人2年目の文一の部署に配属されている若い子だよ。」

 啓がテーブルに置かれた紅茶に手を伸ばしながら答える。

「文一先輩がゲストを連れてくるなんて珍しいっすね。」

 俺の高校時代からの後輩である恭介が物珍しそうな感じでつぶやく。俺自身もそう思う。文一とは大学の頃からの付き合いだが、あいつが俺たち以外の人間と交流を深めている場面は両手の指で数え切れるくらいだと思う。

「あいつ人間嫌いじゃなかったか?」

「文一は人間嫌いだけど、人間からはあんまり嫌われてないんだよ実は。文一ああ見えてしっかりしてるし、スキルも高いからよく新人君とかから仕事の相談にのってほしいって言われてるんだよ?」

 文一が新人に仕事の相談されているところを想像してみても、嫌味を言ってつっかえしているところしか想像できない。

「まぁ悪い人間ではないしな。」

 この喫茶店"四辻"のオーナーである清隆がテーブルにつき鉄面皮から眼鏡をとりテーブルにことりと置く。

「あいつただの根暗じゃなかったのか...」

「諒一、それはいいすぎだよ...」

「だってこの倶楽部の"女人禁制"ってルールあいつが作ったんだぜ?下手したらゲスト制度までなくなってたかもしれねぇんだから。」

「女人禁制なのは諒一先輩が引き起こした"闇鍋合コン事件"のせいで女の子が怖くなったからじゃないっすか...文一先輩ゲスト制度には反対してなかったじゃないっすか...」

 そうだったか?と思い古の記憶を呼び起こそうと頑張ったが覚えがない。昔の俺は何をしたんだろうか。

 そんなくだらない話をしていたら小気味のいいベルの音とともに人間の足音が聞こえてきた。

「お?ようやくおでましか。奇士談倶楽部のはじまりだ。」


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 奇士談倶楽部。正式名称は奇妙な話が大好きな紳士たちの談話倶楽部というちんけなものなのだがこの5人を大学生の頃から社会人になった今でも結びつけるいわば共通点となっている。

 オカルト好きがこうじてできた5人組、とある日に凝り性で鉄面皮の生田目清隆がこの趣味もルールを決め紳士的で高尚な趣味に昇華させようと提唱したことによって始まったものだが、大学時代の終焉とともに終わったものと思っていた。しかし、2年前の清隆の脱サラとともに始めた喫茶店"四辻"を応援しようと文一が再結成させ、四辻の経営がうまく軌道にのった今でも厚かましくこの店の定休日である第2と最終週の日曜日に隔月で開催させてもらっている。


「さて、腹ごしらえも済んだところでそろそろ本題といこうか。」

「諒一、本題に行く前にちょっと俺から話をさせてくれ。」

 文一が進行を遮ってくる。こういうときに早くしろよとヤジを飛ばしてくるこいつが珍しい。

「食事の前にも紹介させてもらって、既に親交を深めたものもいるようが改めての紹介と今回のゲストの話についてだ。」

 文一の隣に座っているゲストに全員の視線が行く。啓の言っていた通りで若く、いわゆるイケメンと言われる部類の人間だろう。ここ最近、社会人になりたてといったような初々しさもある。学生の頃はちょっとやんちゃだったのかなと思えるようなところが社会人の癖に少し明るめな茶髪に表れている。

「俺の会社の後輩で、梧桐鉄也君だ。この会のことは彼には事前に説明している。くれぐれも無礼な振る舞いは控えていただけると助かる。俺の友人が礼儀をわきまえない低俗なやつらだと会社でいいふらされたくないからな。」

 何か癪に障る言い方だ。清隆は眉間を押さえ、啓は素知らぬ顔で紅茶をすすっている。恭介はまた始まったみたいに呆れていて、その発言中ずっと睨まれていた当の俺はというと握っていたスプーンを超能力と言わんばかりに捻じ曲げられないかと格闘中だった。

「あ、あの、先輩、さすがに僕そんなことしないです。」

 食事中にもおもっていたことだったが、風体のわりにやけにおっかなびっくりなところがある。まぁ会社の先輩と、さらにはその友人たちに初めて会った日に堂々としていられる人間もそうはいないだろうが、それにしても縮こまりすぎな感は否めない。

「文一。いい加減にしないと。ほら、梧桐君も困ってる。」

 どこ吹く風だった啓が調子に乗った文一をたしなめる。

「そうだな。話を進めるとしよう。今日の話は困っていることの相談事だ。ああ、ちゃんとオカルトな話も絡んでいる。」

「相談事?」

 文一が奇妙なことを言う。ゲストを呼ぶときには相談事をあまり持ち込むな、解決できるかわからんことを話されても困るだけだ、と嫌な顔をしていたやつの発言とは思えない。

「そうだ。だが、解決してほしいとかそういうことじゃない。少し梧桐君も参っていてな。話だけでも聞いてほしいとのことだったので今日は連れてきた次第だ。」

 こくこくと頷く梧桐君。なるほど。よほど困っている、というより精神的に参っているから気晴らしにつれてきたということか。

「梧桐君。ここの連中はオカルト話が好きで基本的にどんな話でも信じる人間ばかりだ。悩み事を解決できるかということを約束はできないが、必ず君の話を信じるし、ここの会の外に話が漏れるということは絶対にない。」

「はい。そう言われて、話だけでも聞いてほしくて、ここにこさせてもらいました。よろしくお願いいたします。」

 見た目のわりにきちんと礼儀がなっている。自分の高校時代からの後輩に爪のあかでも煎じて飲ませようかと考えるくらいだ。

「あ、あの。皆さんはいいと思うんですけど、彼は...」

 梧桐君がいままで影に徹して給仕をしていたバイト君を見ながら言う。小林君という本名がありながら自らをバイト君と呼んでくれという不思議な男だ。

「席を外しましょうか?」

「いや、いい。梧桐君。彼はいつも奇士談倶楽部に付き合ってくれる、名誉会員みたいなものだ。だから扱いは俺たちとほぼ変わらない。彼も外に話を漏らすような無粋な真似はしない。」

 梧桐君はいや大丈夫です。それを約束していただけるなら、とバイト君の同席を許してくれる。

「それでは、今日はいつものを清隆。お願いしていいか。」

「ああ。」


「我々は、礼儀正しく、上品に相互信頼のもと紳士的に話を聞きます。君から聞かされる話は全て真実の話として例え罪の告白であろうと胸に留めることを誓う。君自身もここでした会話、この会にまつわる全ての話は門外不出のものとすることを誓ってもらう。」


「はい。」

「それじゃあ梧桐君。話をしてくれ。」

「は、はい。始めさせてもらいます。」

 少し緊張した面持ちで梧桐君は話を始めだした。


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 半年ほど前、僕は社会人2年目にしてようやく実家から出て一人暮らしを始めました。大学の頃も実家から通っていたので本当に一人暮らしデビューです。

 ただ、一人暮らしするといっても、深山先輩や文一先輩はわかってるかもしれないですが、うちの会社そんなに給料よくないので家賃は抑えたいと思っていました。なので安くていいところがないか、いろんな不動産屋さんを巡り歩いて、ようやくこれだってところを見つけたんです。

 都内で駅から徒歩十分ほど、広さも2DKで月3万と破格の家です。家自体もそこまで古くなくて築12年くらい?結構新しい感じです。ダイニングキッチンに和室と洋室。和室には押し入れもあって収納もいい感じでした。家の周辺には色々のみ屋さんだったり買い物できるスーパーもあって何不自由なく暮らせそうなところです。

 なぜこんないい物件なのにこの価格なんだろう?最近よく聞く、いわゆる事故物件ってやつじゃないんだろうかと疑って不動産屋さんに問い合わせしたところやっぱり事情のある家でした。ただ、事故物件というものではないそうです。建築されてから一回も死亡事故はないし、あったのは5年前に借金持ちが夜逃げしたという事件があっただけ。それ以外は特にこれといった事件はないと個人情報とまではいかないですけど住居履歴のようなものを見せてもらいました。

 

「そんなもんまで出してくれるのか?最近の不動産屋。情報開示には結構慎重になりそうなもんだが。」

「住んでくれる人間がいないもんだからって結構必死でしたよ。部屋を空けてるだけで結構きついって言ってました。元々好条件の10万超える物件でもあるんで。」

「それじゃあいったい何が問題なんだ?」

「文一。おとなしく話を聞け。」


 それでは何が問題なのかというとですね。この物件出るらしいんですよ。人が住むようになってその噂がすぐ上がったそうです。なんでも女性の霊がでるとか。いままで連続6人。好条件の部屋にひかれて大丈夫大丈夫といって部屋を借りた人たちが女の霊が出た!と言って出ていったそうです。

 敷金礼金なし。引っ越し費用は持たないが、半年暮らしてくれたら違約金とかなしで引っ越ししてもいいという条件で少し興味を持っていた僕にすごい売り込んできました。

 正直気持ち悪くはありました。それに初めての一人暮らしで嫌な体験はしたくないなぁと思いつつ、3万で2DK、それも超優良物件。少し悩みましたが、内見に行って住むことに決めました。家具などもおきっぱだったし、なによりおしゃれだったんですよね。当時はちょっと狙ってる女の子がいて、ここだったら安心して連れ込めるなと下心もあったし、なにより違約金のリスクとかもない。これは少しチャレンジしてみるかと思ったんです。


「清隆が好きそうな話だな。」

「どういうことですか?」

 梧桐君が不思議がって尋ねた。

「清隆そういう事故物件とか廃墟とかそういうの好きなんだよ。確か今住んでる家も事故物件だったよな。」

「ああ。不動産屋からはそう紹介された。だが、1年住んでも何も起こらないからそろそろ別の物件に引っ越そうと思っている。」

 淡々と表情を変えずに話す清隆に尊敬のまなざしを送る梧桐君だった。

「俺のことはいい。続きを。」

「はい!」


 続けますね。契約を結んだあと僕はすぐ引っ越しました。引っ越しの荷物はトラック借りて自分でやりました。家具とかほんとうにそのままだったんで、入れ替えたのはベッドくらいですね。そのままは嫌だなと思ったものはさすがに捨てましたが基本的には備え付けのままです。

 そしてようやく夢の一人暮らし生活が始まりました。最初は少し噂のことを警戒してましたが、ひと月くらいたって何も起こらなかったのでなんだやっぱりただの噂だったんだろう。もしくは自分は霊感とかないから感じないだけなんだろうとか思ってました。

 一人暮らしの生活も慣れて三ヶ月くらいのことです。当時狙っていた女の子とも付き合うことができて同棲を始めたあたりからです。家の中のものの位置がずれていたり、閉めていたはずの戸があいていたり、自分しかいないときに物音がしたり、果ては台所が荒らされていたりと不可解なことが頻繁に起こり始めました。噂のような女性の霊は見なかったですが、もしかしたら本当にその女性の霊がいるのではないかと思うようになっていきました。

 そんなことが起き始めたので彼女との仲も悪くなり、家に一人でいることが多くなったのもあって最初の頃にあった余裕もなくなってきました。不気味な現象も増えてきて、最近は俺のスマホにも無言電話がかかってくる始末です。会社の同期たちに何度も泊まってもらったりしてもらいましたが彼らには何も起こらず、最近では話も聞いてもらえなくなりました。彼女とも結局別れてしまいました...


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「そんなときに大丈夫か?と気遣ってくれたのが木道先輩でした。」

「お前まじで顔やばかったからな?仕事に支障もきたしてたし。」

 文一が頬杖付きながら紅茶をすする。

 文一はそういってはいるが、態度を見るに少し違和感があった。もしかしたらこいつは梧桐君の同期から何があったか聞いていたんではないだろうか。それを聞いて今回呼んだとすれば、こいつ、ただのネタ欲しさにこの会に呼んだのではないだろうか。やっぱしこいつは嫌な奴なんではなかろうか。

「はい。それで相談したらここのみなさんの前で話をしてみたらどうだ?気はまぎれるかもしれないと言われたので今日来た次第です。」

 梧桐君は話をし終わって、少しすっきりしたような顔になっていた。同期からは話を聞いてもらえず、彼女とも別れたというときに話を聞いてもらえるというだけでも違うのだろう。


「今もそこに住んでるの?」

「はい。ただ、最近は実家に帰るようにしています。負担は今のところ月3万の家賃ぐらいなので。次に住む家のために貯金がたまるまで我慢しています。」

 啓がそれがいいね。と賛同する。


「なぁ、事故物件マイスターの清隆。こういう話って結構あるのか?」

 ふむ。と言って清隆が話始める。


「最近だとよくある話だが、昔はそんなにある話ではなかった。昔はこういうのはいわくつきの物件と言われていてな。本来は事故物件とは言わないんだ。事故物件というのは本来、殺人、傷害致死、火災(放火ないし失火)などの刑事事件に該当しうる事柄で死者の出た物件、または事件性のない事故、自殺、災害(地震による崩壊など)や孤独死などで居住者が死亡した物件のことを言う。物理的瑕疵のある物件のことで幽霊が出るといった心理的瑕疵のある物件のことをいうものではなかったはずだ。」

 ことりと清隆の前におかわりの紅茶をバイト君が置き、礼を言う清隆。


「最近よくオカルト界隈で話題がでるようになって、心理的瑕疵にあたる話題。幽霊とか奇妙なことがおこるといったものだな。そういった物件がふえたという話も聞いたことがある。」

「なるほど。中には噂を立てたくてというか話題にしたくてそういったことを話すやつもいると。ああ、安心してくれ。梧桐君の話を疑っているわけではない。」

 文一がフォローを入れる。

「オカルト界隈だと結構ポピュラーな話だったりするよね。でも実際にそういうのを体験している人を見たのは初めてだよ。」

 啓が物珍しそうに言う。

 梧桐君にも事故物件などでよくある話などを紹介を交えて話しており、梧桐君の相談事というか悩みの話からそれてき始めていたころだった。


「なぁ梧桐君。この話、俺に少し任せてくれないだろうか。確かめてみたいことがあるんだ。」

 唐突に清隆が梧桐君に物申す。

「任せるって...僕の家のことですか?」

「ああ。」

「任せろって何かあてがあるのか?清隆。」

 不思議に思い清隆に尋ねる。


「似たような話が昔あった。梧桐君が俺に任せてくれるなら対処含めて対応してみたいと思っている。もちろん必ず解決するという責任は持てないが。」

「心当たりがあるのであればぜひ!」

 梧桐君が前のめりに清隆に頼み込む。


「オーナー。僕も気になります。お話いただけないでしょうか。」

「ああ。」

 バイト君も何か考えていた風だったが、ここは清隆に譲るように話を聞くモードに入った。


「昔からこういう話はあるもんなんだが、今回の話と類似する話を何件か俺は知っている。そしてそれらの話の中に人為的に行われている現象だったというものがある。」

「人為的に?」

「ああ。その話の共通点は何個かあるんだが、今回梧桐君の話の中で気になるのは一点、以前に夜逃げがあったという点だ。」

「もしかしてオーナー...」

「ああ。想像している通りだ。梧桐君。君の家には君以外に、その夜逃げした人間がそのまま住み着いている可能性がある。」

「えぇっ!?」

 梧桐君が驚愕する。実は自分もそういう想像をしていた。そもそも夜逃げしたやつがいる物件というのも前振りにしか聞こえなかった。

「俺が怪しいと思ったのは夜逃げが以前あったというのもそうだが、台所が荒らされていたという部分だ。俺には食糧をあさっているんじゃないのか?としか思えなかった。」

「なるほど。じゃあどう対処するんだ?」

 文一が清隆に尋ねる。

「一ヶ月、兵糧攻めだ。食糧を家に一切いれない。そうすれば食糧調達の手段がないやつは頻繁にでてくるに違いない。そこを捉える。監視カメラをつけてその瞬間を捉えさえすれば警察も動いてくれるだろう。安心したまえ梧桐君。俺がその証拠をつかむまで一緒に梧桐君と住んでやろう。」

 どうしてだろう。いつもの清隆の鉄面皮が少しにやついているように見える。

 恭介も清隆の圧にうわぁっとちょっと引き気味だ。

「清隆はこう言ってるが、梧桐君はどうだ?」

「お願いします!生田目さんがいてくれるのであれば安心ですし!」

 梧桐君は清隆の申し出に一瞬の迷いもなく受け入れてしまう。清隆の眼鏡が怪しく光っているが俺はもう何も口を出そうと思わなかった。


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 清隆が梧桐君の家に住み始めて1か月もたたずに梧桐君の家の話には進展があった。2週間もたったある日。清隆の設置した監視カメラに、女性が押し入れの天板の裏からおりてくるところを映像が捉えられたのだ。

 そしてその映像をもって不動産屋に相談し、警察に突き出すことに決定した。あとはスムーズに事は進んだ。住んでいた女性は、その家にすむうちに借金を抱えてしまい、夜逃げしたふりをしてそこに住む計画を実行したのだそうだ。やはり相当な借金があって、苦しくてどうしようもなくなったがゆえの犯行だったそうだ。

 一時的にワイドショーを沸かせるネタにはなった。何度もテレビで押し入れから出てくる女の映像が流れる日が続いた。それも1週間もしてしまえばほとぼりも冷めるもの。

 悩みの種は解決したが、やっぱりあの家にそのまま住むのは気持ち悪いということで梧桐君は引っ越しをした。不動産屋さんからも問題を解決してくれたからと謝礼金ももらっていい物件を格安にして紹介してもらったのだそうだ。

 

 今日は警察に提供した監視カメラの映像とは別アングルから撮っていた映像を奇士談倶楽部メンバーだけで放映して楽しむというなんとも趣味の悪い集まりをしていた。わざわざ専用の高画質ホームシアター用のプロジェクターを設置し、スピーカーまで持参してみんなで観賞会をしている。スピーカーもあるということは音声まで録音していたのかとどこまで全力だったんだと呆れてしまう。

 清隆的には結構満足のいく話だったらしく、バイト君いわく、梧桐君と一緒にその部屋に住んでいたときはすごく機嫌がよかったらしい。

 

「素晴らしい体験をさせてもらった。私はこの体験だけで一年は生きていける。」

「...気持ちわりぃな。」

 文一は自分の生活風景が移っている映像を見ながら恍惚としている清隆を不気味がっていた。俺も今の清隆とはあまり関わりたくない。

「なぁ。なんで映像がとびとびになるんだ?清隆と梧桐君が仲睦まじく暮らしている映像以外ないじゃないか。」

「ああ。それは常時録画していたらストレージ容量が足らなくなる。だから赤外線探知をして物体の動きや熱源を探知したときに録画が開始される機能がついている監視カメラ購入したんだ。」

「映像も自動で転送してくれるから、そのためのサーバーとストレージの構築もわざわざやったんだぜ。それ。」

 清隆と文一の共同作業だったらしい。さすがは金に余裕があるやつと技術のあるやつが集うとろくなことにならねぇ。

 そして映像を見ていく。そして問題の場面だ。和室の押し入れから出てくる女の映像が映し出される。のっそのっそと降りてきて、冷蔵庫から食べられるものを抱えてはまた押し入れへと戻っていく。この映像はワイドショーで話題になった映像だった。それを違う角度から生で見れるのはオカルト好きにとっては垂涎ものだろう。みんなすごいすごいと若干興奮している。あの啓でさえ目が輝いているくらいだ。

 

 ただ、違和感が少しあった。それを指摘したのは意外にも恭介だった。

「...あの。それにしては誰もいないときの映像が時々映ってないっすか?」

 そういえばそうだ。その問題の映像がある前にもちらちらとあったが、映像の中に誰も映ってない場面が少しあったのだ。


「...あの。少しいいですか?」

「どうしたんだ?バイト君。」

 バイト君が恐る恐る声を発した。こんなバイト君は珍しい。


「今回の梧桐さんの家、夜逃げがあったのは確か5年前のはずです。ただ、梧桐さんの話を以前聞いた時、人が住み始めるようになってから女性の霊の噂が出始めたと言っていました。そこに結構な時間差があると思ったんです。」

「...そういえばそうだな。」

「そして実際に犯行をおこした女性ですが、あの物件になぜ住めたのか考えてみてください。借金苦になりそうな女性が10万をこえるような物件に審査で通らない気がするんですよ。」

 一同シーンとなる。問題の映像が過ぎ去って、今は誰も映っていない画面がプロジェクターによって壁に映し出されている。


「つまり、女性の幽霊の話はその借金苦の女の前から?」

「はい。そうじゃないとそもそも彼女はあの部屋に住めていない気がするんです。僕も最初は人がすんでいるんじゃないか?と思ったんですがそのタイムラグに気づいてからは疑問が結構湧いて来たんです。もしかしたらその幽霊の噂を逆に利用して住み着いたのではないかと。そうでないならばいままで入った人間は幽霊と思い込んで物好きなオーナーのような人でなければ検証しようとはしないでしょう。」

 みんなバイト君の方を凝視している。清隆はさらに興奮しているように見えるが他の全員は少し冷や汗をかいていた。映像は進むが一向に人間の姿は見えない。


「それに彼女は梧桐君が住むようになってから一回も姿を現すようなぼろは出していません。ですが、いままで住んだ人たちには女性の霊がみえていました。極めつけは梧桐君が語っていた不可解なできごとの中にあった無言電話の話です。そんな借金苦の女性が携帯を持っているように思えますか?僕ならもしかして音が鳴ってバレる可能性があるようなリスク犯そうとは思えません。」

 バイト君が一通り不思議な点を語ると考えこむ清隆を除いて全員が押し黙る。もう誰も何も映っていない画面をみることはできなくなっていた。


「...なぁ。録画データ。この女の映像がとれてから二日でとめたんだが、あと37時間もデータ転送してきてるんだが。」

 プロジェクターに接続しているPCをみている文一が言う。つまりほぼ一日半分のデータ、誰かが映っているはずということだ。だが画面には一向に誰も映っているようには見えない。

「つまり、俺が女性が映っているのを確認して、映像を警察に突き出すまでの間の期間か?確かその間俺も梧桐君もホテルに行っていてだれもいないはずなんだが。あの女もそこまで長い間部屋に降りてきているとも思えん...」

 そんなことを話し合っていると、突如スピーカーからザ...ザザァ...ザザと音声が流れ始める。

「ヒィッ!?」

 恭介が悲鳴を上げて画面を指さす。全員が画面に目を向けると。驚愕する。そこには神のボサボサの白い女が立っていて落ちくぼんだ目というには白目部分が視認できず黒い穴がこちらに向けて広がっているようにしか見えないものがカメラにむけられていた。

「あ...り...あ....り」

 スピーカーも音を拾っているようだ。その声はありがとうと言おうとしているのか?と思い害のあるものじゃないかと油断したそのときだった。

「あ...り...ひひひキヒャヒャヒャヒャヒャ!!!」

 黒いにたぁと笑う顔がこちらを改めて覗いたかと思えば、奇怪な笑い声を、スピーカーなのかこの部屋から発せられてるのかわからないくらい鮮明に聞こえてきた。


 その一瞬の出来事に思考がついていけず全員が固まっていた。今はもう映像には誰も映ってない部屋しか映されていない。

 





 




































 















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