反則が起こるという想定

 ラグビーを観戦していると、それが「反則を前提とした」競技であるとわかる。ペナルティは幾度も出現し、そもそも前提としたルールになっている。ペナルティゴールは、相手の反則により得点する機会が与えられてもいる。

 これは競技の性質上、様々な「良くないこと」が当たり前に起こるのである。「アクシデンタルオフサイド」は味方と交錯してしまう反則だが、故意でないことが最初からわかっている。それでもゲームを進めるうえで、そのようなイレギュラーによって相手が損することは避けたいのだろう。ラグビーにおいて「想定外の反則」が出現したのはまだ見たことがない。

 それに対して将棋は、ほとんど反則が起こらない競技である。反則はすぐに負けであり、それを前提として対戦するはずがない。二歩は比較的起こりやすい反則だが、それでもプロがすれば話題になるぐらいに珍しい。あとは王手放置や時間切れが「想定内の反則」だろうか。

 ごくたまに、プロの将棋においても想定外の反則が起こる。駒を裏返しに打つ。角が駒を飛び越えていく。これらの出来事は「ルールに書かれている反則」ではないが、「ルールの外」であることにより即負けとなる。

 アマチュアにおいては反則は起こりやすくなる。プロならば避けるであろう「連続王手千日手」や、「相手陣二段目以降で桂馬を成らない」といった反則も目にするし、二歩に至っては普通にいっぱいある。そして相手が気付かないまま、反則が放置されて対局が続くこともある。将棋は、「上達するにつれて反則がどんどん減っていく」競技でもある。

 誰でも反則をする可能性がある。そして、アマチュアにおいてアナログの対局は、対局者同士が気が付かなければ続行されることが多い。たとえば県大会の決勝ともなれば、棋譜をとっていることもあるだろう。この時手書きならば問題ないのだが、デジタルで記録している場合戸惑うことになる。反則手は普通の状態では記述できないのである。駒の配置だけは自由に記述できるよう設定を変更できても、二手指しや隣の対局の駒を使うなどといった反則はそのまま続けられた場合、多くのソフトで記録できないのではないか。

 


 昨日、プロの対局で反則があったようである。棋譜も公開されているのだが、最後に「反則」と書かれているだけで何が起こったのかわからない。最初後手側の最終手が反則だったので、後手負けかと思われた。しかし実際は後手勝ちらしい。このことから先手の二手指しが予想される。だが実際のところ様々な反則が考えられる。例えば先手の棋士と記録係が席を交代して対局者でない者が次の手を指した。あり得ないが、実際起これば「反則」としか書きようがないだろう。

 ソフトによる記録の段階では難しいとしても、紙面に載る棋譜には人の手が加わっている。多くの人が、どんな反則だったのか知りたいと思っているだろう。反則自体は予測不能なことが起こるかもしれないが、反則がいつか起こるだろうことは予測可能である。「プロの棋譜を公開する場合には、どのような反則があったのか記述する」というルールは決めておけるのではないか。



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