文学的な近藤誠也
B級1組3位、26歳。
すごい有望株である。
名前は近藤誠也、七段。
26歳といえばギリギリまだ奨励会にいてもおかしくない年齢である。そんな中B1の上位となれば、次期タイトルホルダー候補として名前が挙がってもおかしくないはずだ。
昔、NHK杯を見ていたらむちゃくちゃかっこいい指し方をする棋士がいた。米長相手に、とてもかっこいい手を指して勝っていた。北浜健介という名前だった。ファンになった。
北浜も若くしてB級1組に上がった。上には羽生世代、さらにはその上のベテランたちもいた。それでもいつか、A級に上がり、タイトルに挑戦し、棋戦も優勝するのではないかと思っていた。羽生世代の活躍を見ていたので、「若くして駆け上がってきた人の必然」と思っていたのである。
北浜はA級に上がれなかった。タイトル挑戦もなかった。棋戦優勝も経験していない。
前期、B級1組に昇級してきた中村太地が一気にA級に昇級した。20代の佐々木勇気が、先にA級に上がった。佐々木大地が、C級2組のまま立て続けにタイトル挑戦した、A級に上がる、タイトルに挑戦する、棋戦で優勝する、などは若手が手にする勲章だろう。もっと大きな勲章を得るまでは、その名前で呼ばれ続けることになる。「A級経験のある阿久津」「タイトルを獲った高見」「優勝経験のある八代」「タイトル挑戦経験のある本田」など。それらは、将棋の歴史に刻み込まれた名前でもある。
近藤誠也には、まだない。
若いのでいつかは、はいつまでも訪れないかもしれない。北浜の例で、そのことは嫌というほど知っている。
近藤誠也は、まだ文学的なのだ。若くして駆け上がっていった者。落ち着いた者。研究熱心な者。期待を込めて、それぞれの言葉で表現される。
現在王将戦挑戦者決定リーグに所属しており、B級1組では順位3位につけている。歴史に名を刻む日も近いかもしれない。ただ、まだ世間には広く知られているとは言えない。若くて好成績をあげていても、「打倒藤井の筆頭候補」と思っている人も少ないだろう。
このような棋士は、一つ殻を破ると次々と活躍する場合がある。A級昇級、タイトル挑戦、棋戦優勝などを果たし、「文学的表現」の枠から抜け出すのはすぐそこかもしれない。しかし抜け出せないまま、ということもままあるのだ。
和服を着た近藤。タイトルを獲る近藤。チームリーダーの近藤。私たちが今後「観れるかどうか」の彼は、すぐそこにいる。その一歩を踏み越え、明確な肩書のある棋士になるか。
私は今、最も注目する棋士は近藤誠也なのである。
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