形勢判断の変化
注 2015年の記事です
電王戦、一局目は棋士が勝ちましたね。
今回、参加するのが活躍している若手たちということもあり、どの対局も勝敗は五分五分ではないかと思っていました。そんな中人間対ソフトらしい対局になった第一局は、勝敗以外にも見所が多かったと思います。
私は昔から、「局面の評価」に関する能力は想像以上にばらつきがあるのではないか、と感じていました。以前『将棋世界』で、ある局面に対してプロ棋士たちが形勢判断や最善手を検討するコーナーがあったのですが、見解がバラバラになることも珍しくありませんでした。「好み」の問題とも言えますが、それぞれの人が局面を判断する「方法」も違うのではないかとも思いました。
アマチュアでも感想戦で局面を振り返って検討することがあるのですが、どう考えても苦しそうな場面を「互角」だと言い張る人がいます。で、詳しく聞いていくと「相手が間違えれば十分逆転できる」局面において、終盤力などに自信があるために実際逆転できることが多く、そこから「互角」と判断しているんですね。個性を要素に入れているため局面に対する純粋な判断ではないのですが、そんなことは気にならないようです。そしてその人自身にとっては勝率五割なのですから、「私にとって互角の局面」というのは確かにそうなのかもしれません。
プロ同士においても、「間違いやすさ」は勝負における重要な要素であるため、どうしてもそのことが形勢判断に影響します。「一回でも間違えれば先手負けで、非常に間違えやすい展開だが、正しく指し続ければ先手勝ち」の局面をどう評価するか。プロにおいてもこの見解が分かれるので、人によって判断がバラバラになるのではないでしょうか。
そしてソフトは、「間違えやすさ」が人間とは異なります。うっかり駒を取られたり、簡単な詰みを逃したり、持ち駒の数を勘違いしたり、といったことはほとんど起こらないはずです。その代り苦手な部分もまだあり、人間なら一目の必至がかけられなかったりするようです。ですから相手がソフトであることを考慮に入れると、形勢判断も変わらざるを得ないはずです。
電王戦のある対局で、終盤、ソフトの評価値は大差なのに、解説者はどちらの勝ちかまだ分からないといった様子で必死に検討している場面がありました。ソフトは自分の玉が詰まされないことを知っていて、何を渡してはいけないかもきっちり読み切っているので、逆転の余地はないと判断しています。しかし人間は、様々な筋の中に詰んでしまうものや詰めろ逃れの展開がないか、ぎりぎりの局面では相当苦労しないと読み切れないのです。
相手がソフトであることを考慮に入れると、形勢判断の仕方自体を変えなければならないでしょう。そして若手の方がそのような変化を柔軟に受け入れられるのではないか、と思います。
そんなわけで私は、解説者の形勢判断、ソフトの評価値、感想戦での対局者の感想などに注目しつつ、残り四局を楽しみたいと思います。
初出 note(2015) https://note.com/rakuha/n/n16f5947d3e0d
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