個人的電王戦の楽しみ方

注 2015年3月13日初出の記事です


 いよいよ明日から、棋士と将棋ソフトの戦う将棋電王戦FINALが始まります。将棋に興味のなかった人からも注目を集める電王戦。私も興味深く見てきたのですが、勝敗に対する関心はあまりありません。将棋ソフトの進歩により、将棋以外の人間も巻き込んで新しいことが起こっています。私はそういう「可能性」の方に惹かれるのです。

 二年前、将棋文芸誌を売っているということでイベントでは多くのお客さんから電王戦のことを聞かれました。しかし昨年は、ほとんどこの話題を振られませんでした。世間の関心は薄れてきている気がします。しかし、電王戦にはさまざまな楽しめる要素があるので、自分なりにそれを紹介してみたいと思います。


・ロボットが将棋を指す


 第二回までは、ソフトの指し手は人間が再現していました。対局風景はいたって普通だったのです。それが昨年の第三回、ロボットアーム「電王手くん」が登場し、ソフトの指し手を再現するようになります。腕だけのシンプルな作りながら、お辞儀を再現したり、一生懸命駒を裏返したりと愛嬌もあり、完成度の高いロボットだったと思います。

 このロボットの登場は、未来に新たな可能性を拓いたと感じます。たとえばおじいさんが遠く離れた孫と、電王手くんと盤駒を使って対局することができるようになるかもしれません。また棋士が指導対局をするのにも使えるでしょう。改良すれば別のボードゲームなどもできるでしょうし、手話などでも使えるかもしれません。

 そして今年は、さらに進化した「電王手さん」が登場することになました。電王手くんは駒を吸いつけていましたが、電王手さんは駒をつかみ、手元で裏返すこともできるのです。医療用ロボットを改良したということで、確実に「その先」が意識されているのがわかります。今後「電王手タイプ」のロボットが、様々な業界で活躍することになるかもしれません。ぜひ、「プロトタイプ」の活躍を見ておきたいではないですか。


・若手たちの挑戦


 これまでソフトに勝った棋士は、二人とも若手でした。タイトル経験者でもある大将のA級棋士は、二年連続で負けています。プロ棋界で実績があるからと言って、ソフトに勝ちやすいとは単純に言いにくいかもしれません。

 そして団体戦最後となる今回、参加する五人の棋士はほぼ若手です。私の印象では、理論派の人たちでもあると思います。将棋というのはどうしても「相手の間違いを誘発する」面があり、無意識にでも相手の先入観や恐れを刺激するような手を指していると感じます。しかしソフトは自分の読みしか判断材料がないため、明らかな間違いを犯すことはめったにありません。ソフトに勝つには人間に対するのとは異なる、相手の心理的な葛藤を考慮に入れない訓練が必要でしょう。

 団体戦の十局の中でも、三浦・菅井の二人はこの点で引っかかってしまったような気がします。これまで培ってきた「勝負師」の力が、ソフト相手にはマイナスに働いてしまったように見えました。

 今回の五人は、ソフト相手の戦い方をしっかり研究していると思います。また、そういうことに向いている若手たちでしょう。苦しい戦いになることは違いないでしょうが、これまでとは違う対ソフトの戦い方が見られるのではないかと思います。


・会場の作り方


 今回、対局会場が二条城、高知城、五稜郭、薬師寺(と、将棋会館)ということで、昨年に引き続き普段では見られない対局風景を見ることができそうです。タイトル戦でも時折珍しい場所での対局がありますが、ドワンゴのことなのでそれ以上の奇抜なセッティングをしてくれるのではないでしょうか。薬師寺でロボットが将棋を指す光景、奈良時代の人に見せてあげたいです。


・おやつ


 実は将棋ファンは、対局者の食べるおやつに大変興味があります。対局者がどんなおやつを食べるのか、いつどんなふうに食べるのか、そういうことにワクワクしているのです。しかも今回はサークルKサンクスがおやつ協賛ということなので、おいしそうだと思ったら近くのコンビニで買うこともできるのです。


 と、他にもいろいろあるわけですが、とりあえず観てみましょうよ! ということで、楽しみですね。


(カクヨム版追記)

 五年前の記事ですが、まだ五年か、という気がします。この後団体戦も個人戦も終わり、ソフト人間の対戦も今は昔となってしまいました。そうなると電王手くんの後継機も作られないわけで、ちょっと残念ですね。



初出 note(2015) https://note.com/rakuha/n/n0426dd2da34e

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