第25話 倉敷②

 倉敷の街の蟻を殲滅して、既に蟻との融合を果たした人を見つけ出すために、周囲を探す事にした。


 この街では、蟻型モンスターが確認された後は、モンスターの進行速度が遅かった事もあり、周辺のショッピングセンターやコンビニですら、物資が残っていない状態だった。


 人の姿も見つけられない。

 諦めて戻ろうと思い美里さんに声を掛けた時だった。


「勇気君ちょっと待って、あの建物誰かいるみたいだよ」

 そこには「特別養護老人ホーム」と書かれた建物だった。


「動けないお年寄りが見捨てられちゃったりしてるのか?」

「どうしようも無いかもしれないけど、少し覗いてみようよ」


「もしかしてさ、動けないお年寄りでも融合したら元気になったりしてね?」

「里香…… それ確かに可能性はあるな。ここなら蟻だから一匹殺すくらいなら、お年寄りでも出来る筈だ」


 その施設に3人で向かうと、車いすで無いと移動も出来ないようなご老人が4人 と、頭から触角を生やした女性が一人居た。


美里さんが声を掛けた。

「こんにちは逃げ遅れたんですか? 蟻と融合しちゃったんですね」


「は、はい…… そのせいで気味悪がられて、移動の出来ない入居者の方と一緒に置いてけぼりにされちゃって…… 他の場所に行っても気味悪がられるだけかと思うと、最後まで入居者の人の面倒を見てあげようと思って残りました」


「ここに残ってるのはこの人数だけで間違いないですか?」

「はい」


 俺は蟻と融合した女性を鑑定してみた。


 井上香奈 19歳

 虫人

 戦闘力  240

 155㎝

 43㎏


 称号

 アントガール


 ギフトスキル

 融合

  【ソルジャーアント】☆

 噛みつき

 力強化Ⅰ


 蟻一匹倒しただけでも、父さんの倍も戦闘力があるんだな。

 どうしよう、ここに居てもただ死ぬのを待つだけになるだろうし、本人たち次第だよな……


「井上さんは、どうしたいんですか?」

「あ、あの私名前言いましたっけ?」


「ああ、ごめんね。俺、鑑定能力が有って勝手に見ちゃいました」

「そうなんですね、こんな姿でも受け入れてくれる所なんてあるんですか?」


「私達見たら解る様に、今生き残れてる人は変異をしてる人の方が逆に多いんですよ。見た目は問題無いです。こんな状況になってもお年寄りの面倒を見るために残った、井上さんの心の優しさの方が、今は大事だと思います。自己紹介しますね。自衛隊防府基地所属の蘭美里あららぎみさとです」


「梅野里香です。高校一年生です」

「正木勇気、高1です」


「私は井上香奈19歳です。この老人ホームでヘルパーのお仕事をしています」


「あ、美里さんフラグ成立しちゃったね」

「ん? ああ、漢字しりとりかぁ。じゃぁしょうがないよね、勇気君、香奈ちゃんも私達と一緒に行動するで良いよね?」


「え? それは本人に確認する方が先だろ?」

「あの、私お爺ちゃんたち置いて行けないです」


「偉いね香奈さん。ちょっとお爺ちゃんたちも蟻倒したら動けるようになるかもしれないから、試してみようよ」

「あの…… 蟻は物凄く獰猛なんですよ? たった一匹でも簡単に皮膚を食い破って体の中に入り込んでくるんです。ここの施設長も蟻を見に行くって出て行ってあっという間に、食べられちゃったんですよ…… 私は施設長が襲われた時に一匹だけ飛ばされたのを、偶然踏み潰しちゃって、走って逃げてたら今度は周りの人から気味悪がられて、変異したのに気づいたんです」


「他に変異した人は居なかったんですか?」

「私が見た限りは変異をした人は沢山居たんですけど、2匹以上に取り付かれちゃうと、みんなすぐに体を食い破られて、あっという間に他の蟻が群がって、みんな死んじゃいました」


「最低でも2段階目以上に行かなければ生き残れないみたいだな……」

「あの? 2段階目って?」


「ああ。100匹以上倒したら、次の段階に進化するんだよ」

「そうなんだ…… もしそうなったら沢山いる蟻たちの攻撃を防げるんですか?」


「完全に防げるわけじゃ無いけど、ある程度は大丈夫だと思うよ。3段階目に達したらほぼ大丈夫だろうけどね。ハネアリとかは居なかった?」

「はい。飛んでるのは見ていないです」


「そうか、それならよほどのことが無い限りは被害も広がらないかな?」


 この時点ではそう思っていたが、ダンジョンモンスターはそう甘い存在でも無かった……


 俺は、その場を美里さんに任せて、里香と2人で一度ダンジョンの入口へと戻った。

 愛美とミコが延々と湧き出してくる蟻たちを相手に範囲魔法で応戦しているが、それでも一定数は攻撃をかいくぐって外に向けて進行している。


 体に取り付かれれば危険なので、愛美が飛行スキルを発動して、ミコは愛美の肩の上に乗っかった状態で戦っていた。

「勇気いぃぃ、キリがないよ私達だけじゃ守り切れないよ」

「ああ、よく頑張った。俺達は別に正義の味方じゃ無いから出来る範囲で頑張れば十分だ。ちょっと蟻を4匹程捕まえるな」

 そう言って、這い出した蟻の行列に手を出すと4匹どころかあっという間に何百匹と言う蟻が俺の手を這い上がって来た。


「あ。やべぇなこれ」


 だが、既に先程のドラゴンのブレスで大量の蟻を退治した俺は硬質化LVがⅥまで成長していたので、この☆1ソルジャーアントの噛みつきで肌を食い破られる事は無かった。


 蟻をその場に叩き落として4匹だけを手に噛みつかせたまま、一度みんなで老人ホームに戻った。


 香奈さんに頼んで一番しっかりとしていたお婆ちゃんの前に蟻を一匹落として。

「よねさん、蟻踏んづけて殺して」

 と言って貰い、車いすに乗ったまま足を何度かバタバタさせるとうまく踏み潰す事が出来た。


 光の粒子に変わった蟻がよねさんに吸い込まれると、よねさんは、急に車いすから立ち上がった。

「あれぇ、私どうしたんだろ何だか頭の中にずっともやもやしてたのが晴れちゃった気分だよ」


「よねさん。立てたんだぁ足や腰の痛い所は大丈夫?」

香奈さんも大喜びでよねさんの手を握ってた。


「あれ香奈ちゃん頭になんか生えてるよ?」

「あ、これね。よねさんにもお揃いで同じのが生えてるよ」


 そう言って鏡を見せると、「あれ本当だね、香奈ちゃんとお揃いだねぇ」と言いながらニコニコしてた。


 よねさんに立ち上がったまま、軽い運動をして貰ってみると全然普通に行動出来ることが分かった。


 続いて後の3人。徳三さん、菊江さん、権六さんも蟻を潰して貰うとそれぞれ自分の脚でしっかりと歩けるようになり、認知症の症状も回復していた。


「これって凄い事だよね。正に神の奇跡って言ってもいいかも。もしかしてさ末期症状の他の病気治療にも有効なんじゃないの?」

「ああ、認知症が治るくらいならどんな病気でも回復しちゃうだろうね」


 その後で統率と服従の説明をして、付いて来るだけで十分な強さに成長を出来ると言うと、香奈さんよりもお爺ちゃん達の方がノリノリで、ダンジョン討伐に向かう事になった。

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