第13話 草食動物って……
俺達は、松江に向かって移動を始めた。
自衛隊の人の話によると、明日にはこちらに来る勢いだと言ってたし、日本海沿いまで行けば、既にモンスターは到達しているだろう。
俺は、エンシェントドラゴンにトランスフォームすると、里香とミコを連れて大空へ舞い上がった。
でも……ミコはキツネ形態に戻る時に、丁寧に服を脱いでスッポンポンになってから、変化をして畳んだ服を俺に渡して来た。
「そのまま、
「勇気から折角もらった服じゃからな、大事にしたいのじゃ」
でも変身するのに一々脱いでたら、時間かかるだろ?
「様式美なのじゃ」
まぁそこまで危険な状況じゃ無いからいいけどな。
俺達が、山を越えて山口市内に入ると、まだ見かけた事の無いモンスターが現れた。
「勇気……何か可愛いよね? これってモンスターなの?」
「こんなの、今までの人生で道端で見かけた事有るか?」
「無いよ? でも広島の話だし、山口では普通に居るとか?」
「山口をどんだけ田舎扱いにする気だ。耳がキラキラ危険そうな輝きを放ってるウサギ何か俺も見た事ねぇぞ」
そう言いながらウサギを見ていると、コンビニのガラスウインドを後ろ足で激しくけると、一撃でガラスは砕け散った。
ウサギが店内に入って行くのと入れ替わる様にコンビニに隠れて居たであろう人が3人程走り出して来たが、店内から飛び出して来たウサギが大きく飛び上がると回転を始め、長い耳がヘリコプターのローターの様に激しく回転して逃げ出してきた人の首を跳ね飛ばした。
他の2人は腰が砕けて、座り込み這うようにして必死で逃げているが、ウサギは興味なさげに自分が首を跳ね飛ばした死体に近づき、血を飲み始めた。
「ペチャペチャ」と響く音が、可愛いウサギの見た目と裏腹に、恐怖感をあおる。
這いながら逃げる2人は、自分たちは助かったんだと思い、少し這う速度に勢いが付いた。
その時だ。
反対側の草むらから、明らかに普通よりは大きそうな真っ黒な馬が現れ、這っていた2人を踏みつぶし、同じように飛び散った血を舐め始めた。
「俺達は、上空から見ながら、狼も厄介だがこいつらの殺し方も嫌だな……」
と思った。
「どうするの勇気? このまま放置して行く?」
「そうだなここの人達を助けてあげたいとか言う気持ちじゃ無くて、どんな能力が手に入るのかが気になるから、倒してみたいな」
「そうだね、私も興味はあるよ」
「ミコ、ちょっと聞きたいんだけど?」
「なんじゃ?」
「ウルフダンジョンみたいに、ウサギ倒し続けたらいつかは馬になるとかなの?」
「動物種による進化は、同系統のみじゃから、今度の松江ダンジョンの草食動物の様に、複数種がが現れるダンジョンでは、進化は容易でないのじゃ」
「それはめんどくさそうだけど、その分色々覚えれたりするのかな?」
「勇気のスキルは特殊過ぎるからそのまま上乗せじゃが、勇気以外の者は入れ替えて登録するのじゃから、余り良い事は無いぞ?」
「そう言えばそんな事言ってたな」
「勇気ってつくづくチートなんだね、存在が」
「最初に倒すのが☆7なんてやつ、他に居ないだろうからな。でも他の国とかどうしてるんだろうな?」
「日本だけでもこんな状況なんだから、ひどい事になって居そうだよね……」
俺達は、取り敢えず山口市内で一番繁華街っぽい所を求めて、山口駅方面に向かった。
そこでは予想していなかった状況が起きていた。
ウルフが、草食獣たちを狩って居た。
「ミコこれってどういう状態なんだ」
「こ奴らは同じダンジョンから発生した者以外は敵として認識されるのじゃ。他種族のモンスターを倒しても、存在の格は上がらぬが、魔素を取り込み能力を強化する事は出来るのじゃ」
「そうなんだ…… それは人から見たら良い事なのか悪い事なのか分からねぇな」
「勇気、単純に数が減るって考えたら良い事なんじゃないのかな? ダンジョンを潰したら、しばらくは自然繁殖もしないだろうし」
「ふむ、そうかそれなら逆に草食獣を狩るのはウルフ達に任せて、俺達はダンジョンを潰す事を優先させるのが一番いい立ち回りかもな?」
「そうだね、勇気賢いじゃん。松江に向かおうよ」
「解った」
結局ここでは敵を倒す事もせずに、再び大空に飛び上がり松江を目指した。
◇◆◇◆
同じころ、防府市役所では少し困った事態になっていた。
「正木君、これ程の物資を市役所に隠してあったのかね?」
「いえ、これは全く備品としては登録のない品物でして、誰かが用意してくれた物です」
「こんな、真夏にサンタクロースでも来たと言うのかね君は?」
「しかし、こんなモンスターだらけになってしまった状況では、何が起こっても不思議はないのかと?」
「それで、この物資はどうするのかね? ここだけで消費するのであれば、ひと月は十分に過ごせるが、先程ついに電話も回線が繋がらない状況になり、連絡手段と言えるものは、自衛隊や警察が持っていたトランシーバーに限定される状況になった。他の避難所に、分け与えるのかどうかは君が決めたまえ。間違った判断をしてしまえば、政府からも市民からも非難が集中する。私は聞かなかった事にするが、食料などは私の私室にある程度運び込んでおきなさい」
「お言葉ですが部長、貴重な物資を一個人の私室に運び込む事は出来ません。部長が言われるように、私の判断で最善と思えるように差配いたします」
「貴様、上司にそんな口をきいてただで済むと思うな?」
「今のこんな時だからこそ、税金で給料をもらって来た私達が、公の立場を崩す事無く行動する事が大事だと私は考えます。家族の前に胸を張って立てる父親で居たいですしね。気に入らないようでしたら首にでも何でもすればいいですよ? 今更給料が出る事も無いでしょうけど、一応は組織の中にいる間は組織の人間として動きますが、組織から離れて良いのであれば、自分の家族との時間を大切に出来ますので」
それっきり、局長は何も言わずに俺をにらんでいたが、どうとでも勝手にすればいいさ。
こんな時になって、判断を下さねばならない立場の人間が、責任回避と私利私欲しか考えない様では、話にならない。
部長に話す前にリストを作成して置いて良かったかもな。
市役所の内部には、市長も副市長もおらず、自宅が近かった先程の部長が、立場上一番上なのだが、自分の分だけは確保して、他は勝手にしろとかいう考えをするようじゃ、任せる事は出来ない。
俺は、市役所職員を集めてリストを開示し、半分は市役所内部の避難者の為に解放し、残りの半分は、護衛の自衛隊員に託し、最大の保護者を抱える自衛隊基地への移送を頼んだ。
だがこの時に先程の部長と課長級の役職者が5名ほどいたのだが、課長補佐級である、俺の指示は受け入れられないとして、参加しなかった。
恐らく俺はこの市役所の中では、立場上更迭されるだろうが、後悔は無い。
絶望感に支配されつつあった市役所が、この物資のお陰で一時的にみんなの表情が明るくなっただけでも良かった。
翌日には俺は市役所内部から、規律を乱す行為をしたとして、出て行くように部長に命令され、妻と娘と共に市役所を出た。
幸い昨日物資の移送の際に協力してくれた、自衛隊員が自衛隊基地の避難所に誘ってくれたので、自衛隊基地での新たな避難生活が始まる事になった。
しかし夢は、勇気が持って来たと言ったが、一体どうやってこれ程の荷物を運びこんだというのだ?
こんな能力を持っているのならば、力を貸してほしいとも思うが、今この現状で勇気の能力があるとしても露見した時点で、国から良いように使われる未来しか無さそうだしな。
だが勇気、死ぬなよ。
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