第14話 閑話 岩国基地の状況

「ピーター大尉、君の話が本当だとすると、本日広島方向へ飛んで行ったモンスターは、敵では無いというのだな?」

「大佐、あくまでも推測でありますが、奴はF35Bのミサイルが直撃しても、傷一つ与える事が出来ませんでした。もし報復行動を取られたなら、奴の羽ばたき一つで、壊滅したでしょう」


「味方であると言う確証も無い以上は、警戒は怠らないように頼むぞ」

「イエッサー」


 そう返事をして敬礼した後に回れ右をしたピーター大尉の後ろには、漆黒の尻尾が垂れていた。



 ◇◆◇◆ 



 この基地では、ダンジョン発生が確認されてから即座に、アメリカ本国からの命令を受け、モンスター排除にためらいは厳禁であると通達されていた。


 アメリカ国内でも既にいくつもの部隊がモンスターに対して出撃しており戦闘を行った情報も入ってきている。


 そんな状況の中で、初期モンスターとみられる個体には銃撃も有効である事は、報告を受けていた。


 ダンジョンごとに、全く別の系統のモンスターが発生しているが、倒す事に成功すれば、最初に倒したモンスターの特性を宿した状態に変異する事も、情報として受け取っている。


 ピーターの所属する岩国基地では、広島ダンジョンまでは少し距離があった為に、ピーターが最初に目にしたモンスターは報告を上げた、ドラゴンと思われるモンスターだった。


「あの存在を相手に戦わなければならないのなら、絶望しか無いな」


 そう思わすのに十分な存在だった。

 一発でも命中すれば、空母が相手でも撃沈させる事が出来るミサイルを、5機のF35から一斉に発射し、すべてが着弾して爆発した。


 しかし対象モンスターは爆炎が晴れると何事も無かったように、広島方面へ向かって飛び去ったが、歯牙にもかけて貰えなかったって事だな。


 そのまま広島までは追跡したが、ダンジョン近辺まで近づくと対象をロストしてしまったので、帰還した。


 広島の状況は惨憺たるという表現しかできない。

 道路上には、恐らくもう人は生存した姿では確認できなかったが、建築物の中には一定数は生き延びている筈だから、F35による爆撃や機銃掃射による、モンスター討伐は流石に出来ない。


 俺達は岩国に帰還して、基地の警備に集中する事になった。


 ダンジョン発生から、12時間程度を経過し、岩国基地周辺でもウルフの姿を確認できるようになって来た。

 灰色の狼で体長は1.8m程もあり、よだれを垂らしながら迫ってくる姿は、迫力がある。


 M4カービンを構えて、一斉に斉射すると、倒す事に成功した。

 仲間のスティーブが俺を指さし、笑い始めた。


「ファック」思わず中指を突き立て、文句を言ったが、ヘルメットの中がゴワゴワする感じがしたので、一度脱いでみる。

 更にスティーブが腹を抱えて笑い出した。

 それどころか、他のメンバーまで俺を見て、額に手を当てる奴や、ポカーンと口を開けて見る奴、どいつも人を不愉快にさせやがる。


 だが、脱いだヘルメットの中には何も異物は入って居なかったので、頭に手を当てると「はぁっ?」思わず声が出た。


 普通の人間には存在しない筈の物。

 毛の生えた耳があった。


 代わりに人間の俺の耳は消えていた。


 もう一つの違和感はズボンの中だ。

 俺の尻の辺りがもっこりと膨れ上がっている。

 最初にスティーブが笑ったのはこれだったんだな。


 ズボンの中に手を突っ込むと、ふっさふさの手触りが有った。

 手で掴んでズボンの外に引っ張り上げると60㎝程もある尻尾が出て来た。

「Oh no」思わず天を仰いだが、これが報告にも上がっていた、変異である事は解る。


 そのままではおさまりが悪いので『ケイバー格闘ナイフ』を取り出し、ズボンの後ろに切り込みを入れ、尻尾を後ろに垂らした。


 グレーの尻尾で先っぽがわずかに白い。

 だが、なんとなく湧きあがって来るような力も感じるように成った。


 その後もウルフ達は次々と姿を現し、だんだんその数も増えて来る。

 俺達は、ひたすら銃撃で倒していき、最初に俺を笑ったやつらも結局みんな同じように、耳と尻尾を生やして行った。


「ざまぁみろだ」


 一人の隊員が、尻尾が生えた事を「悪魔に乗り移られた」と騒ぎ出し自分の尻尾を根元から切り取った。

 熱心な宗教家だった彼はには獣化は許容範囲を超えてしまったのだろう。

 すると、彼の身体は光となって消えて行った。

 その場に残ったのは装備と衣服だけだった。


 全員の動きが止まり、彼が着ていた軍服に視線を注いだ。

 

 100歩譲って彼の自殺は受け入れよう。

 しかし、何故身体が残らないんだ……


 考えても仕方ねぇか。

 俺達は、彼の犠牲のお陰で、尻尾を切り取れば倒せると言う情報を手に入れた。


 この基地に保有している銃弾には限りがある。

 恐らく今後の補充は難しいだろう。


 そうなればケイバーを使った格闘が有効であると解った事実はでかい。


 俺達は、押し寄せて来るウルフ達を相手に、戦い続けた。


 丸一日を経過したころには、この基地内に周辺住民を避難誘導させる事も始まり、1万人近くの人々が逃げ込んで来た。

 俺達は、避難してきた人々を守るために、戦い続けた。

 そして俺自身が100匹程のウルフを倒した時に、次の変化が訪れた。

 俺のグレーの尻尾は漆黒に染まり、沸き上がる力も今までの比では無い。


 同僚たちも善戦はしているが終わりの見えない戦闘に疲れ、1人また1人と身体を光の粒子に変えて、消えていく。


 もっと力を! 俺に全てを守るだけの力をくれ。

 2日を経過したころから、徐々に押し寄せて来る狼が減って来た。


 何が起こったんだ?

 俺は基地で、情報の確認をすると偵察機の報告で、ダンジョンの入り口と見られる物が消滅したと、報告があった。


「いったいなぜだ?」


 本国へ衛星通信で他にもダンジョン消滅の報告があるかか確認をしたが、何処にもそんな報告は無かった。


 しかしこのペースであれば、何とか基地は守れる筈だ。

 問題は物資だな。

 流石に、1万人以上の避難者を養っていける程の資源は基地内には無い。


 俺達は装甲車両と輸送ヘリを使って、ほぼ壊滅している広島方面へ物資の調達へ向かった。

「おかしい、不自然な程に食料、飲料、衣服、生活用品等が店頭に無いな。一体ウルフに襲われながらの状態で誰が、食料を奪ったんだ?」


 しょうがないので、探索対象は一般家屋に切り替えられ、食料や衣服、毛布などを回収して回った。


 戦闘機乗りの俺達が、仕事で空き巣をして回るとか世も末だな……

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