第12話 防府市役所

 俺の自宅へ戻るまでの間でも、10匹程のウルフを倒した。

 辺りには人の気配はないな。


 俺の自宅は雨戸とか閉めてあって、見た目はまだ大丈夫そうだ。

 しかし近隣は雨戸の閉まって無いような家は窓を割られ中を荒らされた様子が見える。


 ウルフがやったのか、空き巣がやったのかは俺ではわからないけどな。

 ああ、血まみれの足跡が付いてる所は、ウルフで間違いないか。


 家の中に入ると、既に電気は止まっていたが、ガスと水道は使えた。

「里香、これから先はあまり入れないと思うから、風呂入って置けよ」

「うん。ありがとう。ミコも一緒に入る?」


「わらわは良いのじゃ。変化すれば綺麗になるから」

「ええ、一人だと怖いから一緒に入ってよ」


「オリルコンウルフに勝てるような奴いないだろ?」

「違うよ。勇気に覗かれそうなのがだよ」


「失礼だな。そう言えば下着と制服脱いだらこっちによこせ一度収納してやるから」

「ええ、匂いとか嗅がないでよ?」


「それは無理だ」

「変態」


 そう言いながら投げつけて来た。

 俺は一度収納してから再び出して、タオルと一緒に脱衣場に置いてやっておいた。


 風呂から上がって来た里香とミコが、お礼を言って来た。

「風呂は気持ちいいだろ? 俺も入って来るな」


 そう言って風呂に入ると、窓の外に気配を感じた。

 ウルフか? と思い外を見ると自衛隊の恰好をした4人組の人だった。


 町中の警らなのかな? ヘルメットをかぶってて耳は見えないが、4人ともグレーウルフの尻尾は出ている。

 結構頑張って倒してるんだな。


 こちらに気付いたようで、銃口を向けて来た。

「ちょっ人間です撃たないで」

 俺は反射的に言葉に出した。

 まぁ撃たれても平気だとは思うけど。


「まだ避難してないんですか? ウルフに襲われたら終わりですよ? 我々の車で避難所に送ります」

 俺は様子が見れるなら良いかと思い、誘いに乗る事にした。


 服を着てリビングに居たミコと里香に、「ちょっと避難所を見て来る。大丈夫だとは思うが、ここから出るなよ?」


 と声をかけて、自衛隊員に従い外に出た。

「皆さん尻尾あるんですね?」

「ああ、もう進化してない人間は、外を歩くとただの餌でしかないからな」


「警らなんですか?」

「それもあるが、今更家に戻る事は誰も不可能だから、各家庭や店の中から使えそうなものを回収するように指示が出て、回ってたんだ。君は何故避難しなかったんだ?」


「いじめられっ子の引きこもりだから、状況に気付かなかったんです」

 と適当に言って置いた。


「そうか、今は各学校と、市民病院、市役所、警察署、そして自衛隊基地が避難所に指定されて、そこに入っていない人たちは、この12時間で君以外は生きていた者には会えていない状況だ」

「酷いですね」


「ショッピングセンターは頑丈そうでしたけど、駄目なんですか?」

「ああ、あそこはモンスターじゃ無くて人が物資を奪のに押し寄せて、窓ガラスなんかが殆ど割られてしまって、入り口が多いだけの危険な建物だな」


「あの? リビングに書置きが有って、家族は市役所に避難したみたいなんですが、連れて行ってもらえますか?」

「ああ、そうか。では市役所に向かおう」


「他の街とか広島や博多の状況は伝わっているんですか?」

「博多からは関門トンネルと関門大橋を封鎖してキノコ型モンスターを防いでいるけど、見ての通り広島からのウルフと、明日には松江からの草食動物ベースのモンスターが辿り着くみたいだ」


「松江の草食動物はは人を襲うんですか?」

「形って言うかベースがそうなだけで、普通に襲ってきて人間や動物を殺して血を飲むらしい」


「コワッ」

「何だか君、余り焦って無さそうだね?」


「そんな事無いです。メチャビビってます」


 市役所の姿が見えて来た。庁舎の周りにはいすやテーブル、土嚢などが積まれている様子が見え、自衛隊の人が小銃を構えて警戒している。


 その時だった、レッドウルフがブラックウルフ2匹とグレーウルフ10匹程を引き連れ、俺達の乗っていたトラックに並走してきて、あっという間に運転席に飛び込み、運転手の人の首をかみ砕いた。

 俺は、後ろに乗っていたのでどうしようも出来なかったが、車は運転手を失って、道路脇の縁石に乗り上げ横転した。


 他の3人の隊員さんは少なからず怪我をしていたが、それでも必死に小銃を構え、レッドウルフを狙った。


 だが、レッドウルフの毛皮には銃弾は通用しなかった。

 ピンポイントで口の中や目玉を撃ち抜けなければ無理だろう。


 ブラックウルフとグレーウルフも追いつき、残りの隊員さんに襲い掛かり、親切な隊員さん達は、みんな命を落とした。


 ちょっと腹が立ったぞ。

 こちらを見ていた市役所を警備していた隊員たちも、レッドウルフが相手では無理と悟り、庁舎内に入り重厚なシャッターを下ろした。俺は『トランスフォーム、フェンリル』と念じた。


『アブソリュート0』を発動し空間を凍り付かせる。

俺の側に近寄って来た存在はことごとく凍り付く。

それを、爪で突き刺し破壊して行く。


 更に遠吠えを上げると、付近に居たであろう狼たちが200匹程も寄って来た。

だが絶対零度アブソリュート0の空間を展開した俺の周りに入って来ると、ことごとく凍り付く。


 俺はそれを徹底的に爪で破壊して行った。

 5分足らずで200匹全てに止めを刺した。


 ここで俺は、初めての事実を知った。

 殺された進化生命体は、死体を残さないのだ。


 尻尾をはやしていた4人の隊員さん達は、その装備と衣服をその場に残して、消えていた。


 俺は隊員さん達の衣服や装備を収納に仕舞って、冥福を祈った。

 この姿のまま市役所に行くわけにもいかないので、天駆を使って市役所庁舎の屋上に駆け上がる。


 トランスフォームを解除し、服を着た。

 スマホを取り出し、両親に電話しようとしたが番号が分からなかった。

 記憶を必死で辿り、妹の番号を思い出して連絡すると、『誰ですか?』と返事があった。


『ああ、俺だ勇気だ。ちょっと父さんと話したいんだがそこにいるか?』

『今は此処に居ないよ。お兄ちゃん大丈夫なの? 2日も連絡無いからもうダメだと思ってたよ』


『スマン。なんとか生き延びている。市役所の中はどんな状況なんだ? 食料や日用品とか足りているのか?』

『今はまだ非常食とかで何とかなってるけど、後何日持つのか全然分からないし、みんな不安でいっぱいだよ。日用品なんかも全然足りて無いと思うよ』


『そうか、父さんはその建物にはいるんだよな?』

『うん。配給の振り分けなんかで忙しいみたい』


『そうなんだ、この市役所には何人くらいいるんだ?』

『600人くらいの筈だよ』


『近くの中学校にも500人くらいいるよ。それ以外の所は良く解らないの』

『そうなんだな。後で父さん戻って来たら屋上を見に来るように伝えてくれ』


『え? どういう事なの屋上にいるのお兄ちゃん?」

『今は、まだ合流できないけど、夢たちが困らない様に、援助は続けるから俺のことは内緒にしてくれよ?』


『え、なんでなの? 援助ってどういう事?』

『じゃぁまた連絡する』


 電話を切ると、食料や衣服、日用品などを大雑把に出して、再びフェンリルにトランスフォームして、一気に家まで駆け抜けた。


「ゴメン遅くなった」

「あーお帰りーひと眠りしてたから全然いいよぉ」


 と呑気に里香が出迎た。

「えーと、次なんだけどさ九州方面は、関門海峡の封鎖が何とか出来てるみたいだから、松江の草食動物を倒しに行こうと思う」

「松江にもダンジョン有ったんだ。全然情報無かったよね」


「うん、草食動物って事しか聞いてないけど、人や動物殺して血を飲むらしいから油断はできないぞ」

「うぇえ、怖いね。何処が草食なのよそれ」


「形だけかな? ミコちょっと聞いて良いか?」

「なんじゃ?」


「獣人化した自衛隊の人達が死んだ時、死体が残らなかったんだけど、どういう仕組みなんだ?」

「それはじゃな、魔素を取り込んだ時点で、人では無くなってアカシックレコードのことわりの中に生きる存在になるからじゃ。倒した時に見える光が魔素じゃな。魔素は消えることなく、倒したものに引き継がれる。魔素を集めれば集める程にアカシックレコードの上位に記載される事になる」


「上位に記載される? それって何か良い事有るの?」

「システムに追加項目を設定できるようになったりする筈じゃ」


「良く解んないけど、倒しまくればいいって事だな」

「ミコちゃん、私がウルフ以外の魔物倒しても新しい融合は出来るの?」


「それは出来ぬ、最初に倒した種類のものとしか融合は行えぬのじゃ」

「え? それってもし最初がスライムなら、スライムだけって事?」


「そうじゃ、ただしスキルに関しては現在所持しているスキルと入れ替える事でバリエーションを持つ事は出来るのじゃ」


「そうなんだね…… もう一生ウルフガールなんだね」

「嫌なのか?」


「人間じゃ無いと勇気にそのうち捨てられるかもって、思っちゃったから……」

「なんでだ? 俺、里香の事結構好きだぞ?」


「え、もうやだぁ、不意打ち禁止」

 そう言いながら思いっきり俺の肩を叩かれると結構痛かった。

 フェンリルの姿じゃ無かったら、死んでたかもしれない程には……


「里香、お前にそんな風に叩かれると、人間は殆ど消し飛ぶからな? 殺人鬼になりたくないなら、気を付けろよ?」


「ええ、人間に戻りたいよぉ」

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