第6話 広島④

 俺はエンシェントドラゴンにトランスフォームすると再び広島を目指した。

 岩国の辺りから既にウルフの遠吠えを頻繁に耳にするようになる。

 それに混ざって、自動小銃の様な連続した射撃音やピストルの発射音も聞こえる。


 恐らく前者は岩国の米軍海兵隊で後者は日本の警察官達だろうな?

 どれ程の兵士が能力を手に入れ、生き延びていく事が出来るんだろうか?


 銃弾を使って倒して行っても今後補給できる見通しは、薄いし上位の存在になって新たな理の中で戦闘能力を身に付けないと、結局はモンスターに数で負けてしまうだろう。


 これを根本的に無くす為には、俺が最初に防府で行ったようなダンジョンの攻略しか手段は無いだろうな?


 やるしか無いのか?

 広島市内に降り立った俺は、一度トランスフォームを解く。

「勇気君……毎回素っ裸で私の目の前に、ブラブラさせるのは何とか出来ないの?」

「ああ、気にするな」


「無理だし」

「さぁこの姿で行動する以上は、顔バレは避けたいからな。マスクをかぶらなきゃ」


 そう言いながら収納からパンティとブラジャーを取り出して頭に被った。

「何で、服着る前にパンティ被ってるのよ。馬鹿、変態。マスクなら100均とか行けばいくらでも置いてあるでしょ?」

「ゴム臭いの嫌だし」


「パンティである事の必要性はあるの?」

「在庫の関係?」


「意味分かんないし。良いから早く自分のパンツ履きなさいって」

「しょうがねぇな」


 そう言いながら下着とブランドの服を着こむ。

 ビルの屋上には流石にウルフの姿は無い。


「里香はこの辺り詳しいよな?」

「一応ね」


「デパートやスーパーで出来るだけ商品を確保しておきたい。流石に今並んでる物を再び売る事なんかないだろうし」

「ねぇお店とか死んだ人とかお金も一杯そのままだよねきっと? それって貰ったら駄目なのかな?」


「お前ちょっと吹っ切れて来たな? でもお金なんてこの先意味無さそうじゃないか?」

「やっぱりそうかな? 日本って無くなっちゃう?」


「解んないけど…… 気になるんなら一応集めておこうか? 焚火くらいには使えるだろうし」

「うん念のため……」


「今は里香は精々グレーウルフと同等の力しかない筈だから、戦いは俺に任せろブラックウルフに種族進化したら、少しずつ慣れていけ」

「うん」


 俺は里香と二人で、ビルの屋上から建物内部に侵入して降りて行く。恐らくこんなビジネスビルだと、建物は頑丈だから、しっかりと探せば生き残ってる人も結構いるとは思うが、いちいち助けてる訳にもいかないので、階段を使って階下へ向かう。


「うん。結構な数の死体あるよな」

全員内臓を中心に食い散らかされているので、目を背けるような光景だけど、もうそれに関しては耐性出来て来たよ。


「里香はちょっと辛くても財布とスマホを集めるだけ集めろ。俺が収納に仕舞って持っておいてやるから」

「うん……」


「もし普通の日本に戻れる日が来るなら、亡くなった人の身元確認書類にもなるだろうし、罪悪感は捨てろよ?」

「解った」


下に行けば行くほどウルフの姿も現れ始めたので、俺は一匹ずつ確実に殴り殺していく。

200匹程を倒した時に、里香の声がした。

「あ、やっぱり勇気の言う事が合ってたみたい」

「おい、いつから呼び捨てを許した?」


「勇気なんて最初から私の事、呼び捨てじゃん」

「まぁいいか」


「いいんだ」

「ブラックになれたのか?」


「みたいだね」

「よし試しにちょっと戦ってみるかこのビルの中だと廊下が狭いから多くの数を相手にしなくて済むからな」


「でも勇気が倒しちゃってるから、もう殆どいないんじゃない?」

「そんな時はスキル使えよ」


「あ、遠吠え?」

「正解」


「アォオオーン」

里香が叫ぶと、わらわらとグレーウルフが集まって来た。

「ん? ブラックウルフもいるな。こいつらも進化するのか?」


「ブラックは俺が相手するから、グレーだけ狙ってみろ」

「うん」


 結果として里香の手刀は、グレーウルフの首を一撃で叩き折れる程には強くなっていた。

 それから、ビルを出て商業施設へ向かいながらウルフを倒しまくった。

 里香も財布とスマホを集めながらそこそこの敵を倒している。


 俺は洋服と食料品を中心に集め、寝具売り場では毛布やマットレスなんかも回収して置いた。歯ブラシなんかもいるよな。


「里香、そういえばさ、お前八重歯伸びたな?」

コンパクトを取り出して自分の顔を見てたが、

「確かに伸びてるね牙っぽい?」

「そうだな、それ以上伸びると人外っぽくなるから、削った方が良くないか?」


「どうやって削るの?」

「そりゃ……やすりだろ? 100均の工具売り場とかに普通にあるじゃん」


「そうなんだ。女子は工具売り場何て見ないから知らなかったよ」

「そんなもんなんだ」


「でもさ、勇気そんなこと気にするんだ?」

「どうせ連れて歩くなら可愛い方が良いからな」


「もしかして、勇気、デレた?」

「置いてくぞ」


「ゴメンって、まさかパンティ被ってる変態がそんなこと気にするなんて思わないじゃん」

「それは気にするな」


「無理だって」


 だがそれから、里香は暇さえあれば八重歯をやすりで削るようになった。


「恐らく次の進化は、ブラック100匹分だな。グレーなら1万匹か」

「ハードル高いね」


「もう少し時間たったらドラゴンに変身して、ブレスで一気に倒していく。もう資源はある程度集まってるしな」

「その後はどうするの?」


「そうだな……ダンジョン攻略してしまうしか現状は変わらないだろうから、ダンジョンに行くつもりだ」

「ねぇ勇気、聞いてもいい?」


「なんだ?」

「なんで勇気っていきなりドラゴンなんてなれたの?」


「ああ、防府にも現れたんだダンジョン。俺丁度その上に居て他の奴と一緒に落ちて、そいつはダンジョンのラスボスみたいな奴の目玉に突き刺さるように落ちて死んだ。脳みそまで突き刺さったみたいだな。それで俺は生き残って能力を身に付けた。ダンジョンはそのまま消えた」

「そうなんだ……じゃぁ広島もラスボス倒したら、消えるのかな?」


「恐らくな」

「もう一つ良い?」


「なんだ? なんで私は獣人になっちゃったのに、勇気は変身できるの?」

「恐らく最初にボス討伐した事になったから、その特典?」


「メチャツイテたんだね?」

「一分近く洞窟を落ち続ける体験をツイテるって言うなら里香もしてみるか?」


「遠慮しとく」

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