第5話 防府にて束の間の家族との時間
俺は洋服を着た後で、里香を連れて自宅への道を歩いている。
防府の街ではまだ停電はしていない。
だが外を歩く人は見かけず、車も殆ど走っていない。
「バラバラバラバラ」と言う音と共にライトを点滅させている、ヘリコプターの音は聞こえる。
恐らく、レーダー探知にでも俺の姿が引っかかって探しているのかもしれない。
「里香、言っとくがドラゴンとかの話は禁止な」
「私、どうやってここに来たって言ったらいいのかな?」
「走って?」
「広島から?」
「いいんじゃね? 見た目狼っぽさあるから、信用するかも?」
「無理有るような気がするけどなぁ」
「考えても仕方ないだろ?」
「うん……」
俺は里香を伴い、家のインターホンを鳴らした。
『俺だ、今帰った』
『随分遅かったんだね、世界中大騒ぎだから何かに巻き込まれたのかと思ったわよ』
『ああ、ちょっと面倒に巻き込まれたけど大丈夫。友達もいるから』
『あら? 珍しいわねあなたが友達連れて来るなんて』
鍵を開けて貰って家に入った。
「あれ? 女の子」
「ああ、一応そうみたい」
「あ、あの『梅野里香』です初めまして」
「初めまして梅野さん。あら? 頭の上カチューシャ? にしてはバンド見えないよね? え? しっぽ? ふさふさだね? 流行ってるの?」
「母さん、彼女広島から逃げ出して来たみたいで……狼倒したらこうなったみたいなんだ」
「広島って……ずいぶん遠くから来たのね。まぁお茶でも入れるわ。リビングにどうぞ」
「父さんただいま」
「あの……お邪魔します」
「お帰り、勇気、彼女か?」
「兄ちゃん彼女さんなの?」
うちの家族が平常運転過ぎて草だな。
「きゃぁケモミミと尻尾凄い、可愛いいです」
「あの、ありがとう…… びっくりしないの?」
「さっきからテレビとかネットとかであんな信じられない事ばかりやってるし、今更びっくりする事なんかあんまりないと思う」
「ねぇ里香さん。コーヒーでいいかな?」
「あ、はい」
「お砂糖とミルクは好きなだけどうぞ」
「はい、ありがとうございます」
「広島からでしたよね。テレビの情報だけじゃ良く分からないから聞かせて貰ってもいいかな? 先程からどんどん被害範囲が拡大して、もう県内にモンスターが侵入して来たって言うのはテロップで流れたけど、詳しい事は全然わからないの」
「……地獄。でした」
「そうなんだ…… つらい思いしたんだね。夢、ちょっと里香さんお風呂に案内してあげて入って貰いなさい。お湯につかると落ち着くから」
「あ、いきなり初めてでお風呂とか、あの…… 悪いですから」
「遠慮しないでいいわよ」
「はい、ありがとうございます」
そう言って妹の夢に案内されながら、里香は風呂へと行った。
「母さんありがとうな。いきなり化け物扱いとかされたらどうしよう? とか少し思ってた」
「あんたが信用して連れて来た友達にそんな事する訳無いでしょ? でも勇気? そんな高そうな服持ってた? あなた?」
「あ、これは色々あって……」
「まぁ良いわ、さっきからね。本当はもうこの世界は駄目かも知れないって3人で暗い雰囲気で話してたの。ちょっと暗さがなくなって助かったわ」
「勇気、この後なんだが、被害にあってる各所の情報からして、うちの様な木造家屋はモンスター達に蹂躙されて終わりみたいだ。俺達は今から父さんの勤務先に避難する事になる。必要な物だけ持って準備してくれ」
「そうか、そうだよな。父さん、ごめん3人で行っててもらえるかな。俺、自分で出来る事、何かしてみたいと思う。さっきの里香見たよね? 何とかモンスター倒せば能力も手に入る可能性があるみたいだし、頑張ってみたい。母さんと夢を守ってくれ」
「勇気…… 死ぬなよ」
「ああ」
明るく振舞っていた様に見えた俺の家族達も、内心は心配だったみたいだ。
「父さん、勤務先なら市役所だな? 何かあったら訪ねる」
「ああ」
「兄ちゃん、里香さんって彼女なの? 聞いても口ごもって教えてくれないけど」
「夢、違うとだけ言っておく」
◇◆◇◆
【広島市内】
「なんだと? 耳と尻尾が生えた?」
一部の警官や自衛隊のメンバーが銃撃などで狼型UMAを倒した物が、例外なく変異を起こしていた。
しかし、グレーウルフへ融合した程度では大きく能力が変わるわけでもなく、結局は壊滅して行っている状況であった。
【福岡市内】
『キノコ型のUMAが街を蹂躙しています。家の中に居ても胞子を吸い込めば昏倒してしまうので、出来れば防毒マスク、なければマスクを重ねて身に着ける事で自己防衛を行ってください。接触をされるとキノコが肉体に寄生し、体から体液を吸い取られたように、枯れていき死に至りますので、接触は避けて下さい』
テレビで流れるのは既に全国放送はネットワークが途絶えたようで、近隣2か所の情報だけだった。
福岡はキノコか。どうするのが良いのかな。
広島が先か博多に行くか…… そう言えば俺はグレーウルフからブラックウルフに進化できてたな……
鑑定『ブラックウルフ』
夜目
遠吠え
統率
身体強化
能力が増えるのか
もしかしてっ里香も100匹倒させれば、進化とかしねぇのか?
ちょっと能力も調べるか
夜目はそのままだからいいな
遠吠え……同系統のモンスターを呼び寄せる。
統率……同系統のモンスターを統率し自らのグループに居るものに恩恵を分け与える。服従の意思を示させることでグループ化
身体強化……身体能力が強化される
数値が無いから解り難いが、ブラックウルフの統率は、パーティ機能みたいなもんだな。
これが有れば、里香を強化できるかも知れない。
それなら、広島一択だな。
どれだけ手に入るかわからないが食料や、生活必需品を大量に収納に仕舞って、父さんたちに提供すれば、なんとか耐えれるだろうし、頑張ってみるか?
「お風呂ありがとうございました」
「里香、お前はこれからどうする? このままでも明日にはウルフ達はこの街にも到達するだろう。俺の家族は今から市役所に避難する。お前も一緒に避難するか?」
「あの、勇気君はどうするの?」
「俺は抵抗するさ」
「そうなんだ……私連れて行ってもらえないかな?」
「死んでも責任もてないぞ? ただしなんとなくだが、里香を強くすることは出来るかもしれないと思った」
「そうなの? じゃぁ連れて行って、お願い」
「解った。時間がもったいないからすぐに出たいが大丈夫か?」
「うん」
「じゃぁ、父さん、母さん、夢、元気でな」
「兄ちゃん。なんか良く分かんないけど、頑張れ?」
「疑問形かよ…… じゃぁ行くな」
そして俺は再び球場の方に向かいながら、今考えた事を里香に伝える。
「勇気君に私が服従を示せば、勇気君と経験値的な何かが分かち合えて、進化できる可能性があるって事だよね?」
「随分呑み込みが良いな。普通信じないだろ?」
「こんな状況だから可能性があるなら、何でも試すよ。服従ってどうするのかな?」
「解らんがべたな方法で試すか。俺に従え!」
「はい」
『梅野里香を眷属にしますか』Y/N
Yを選んで鑑定した。
梅野里香 16歳
獣人
149㎝
40㎏
称号
ウルフガール
正木勇気の眷属
ギフトスキル
融合
【グレーウルフ】
夜目
遠吠え
「出来たな、恐らくだがグレーウルフの次のブラックウルフに成ったら覚える、統率スキルで出来るようになると思う」
「そうなんだ……」
「もう一回広島に行って、ウルフを倒しまくりながら、食糧とかを手に入れてこの街に持ち帰ろうと思う。協力してくれ」
「解ったよ」
俺は再びエンシェントドラゴンになり、里香を連れて広島へ向かった。
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