第4話 広島③
俺は声に反応して近づく。
「あ、あの……」
「ん? 生きてるのか?」
「は、はい」
そう言いながら立ち上がったのは、女性だった。
年齢は、俺と同じくらいか? 高校の制服っぽいブレザーとスカート姿だしな。
だが、その女性の姿は凄く違和感があった。
頭にピンと立った耳が生えているし、短めのスカートの中からは、女性には通常ない筈のものがぶら下がってる。
失礼、人間の女性にはだな。
尻尾かYO?
「なぁ、お前さグレーウルフ殺した?」
「あ、はい調理実習で使う包丁持ってたから、襲われた時に付きだしたら口の中に刺さって、光に変わって私の中に入ってきました」
「なんで、上に行かなかったんだ? 怪我してないだろ?」
「耳と尻尾が生えたの気付いて、絶対モンスターと間違われて何か言われると思って、倒れてる人達に混ざってました。私どうなっちゃったんですか?」
「『ステータスオープン』とか念じてみた?」
「あ、はい。一応結構ラノベ読んでるから、もしかして出るかなと思ってやって見ました」
「出たの?」
「いえ……」
「そうか、ちょっと見てやるな」
「あの……変態ですよね? 私襲われちゃいますか?」
「これは世を忍ぶ仮の姿だ。真実の俺はもっと凄いぞ」
俺はエンシェントドラゴンの俺の姿をイメージしてそう言った。
「今以上の変態なんですか? 私…… 調教とかされちゃうんですか?」
「ちがっ」
微妙な静寂が生まれた……
「まぁ良い。鑑定」
梅野里香 16歳
獣人
149㎝
40㎏
称号
ウルフガール
ギフトスキル
融合
【グレーウルフ】
夜目
遠吠え
「おい……お前人間じゃ無くなってるな……」
「えぇ? どういうことですか」
「鏡は見たか?」
「いえ? でもお化粧用のコンパクトなら持ってます」
「このフロア化粧品売り場いっぱいあるから大きな鏡あるだろ? そっちで見たほうが良いと思うぞ。後もう一つ良いか?」
「はい」
「しっぽな、スカートの中で垂れてると男のシンボルみたいに見えるから、ファスナーの位置を真後ろにして、そこから外に出した方が可愛いと思うぞ?」
「え、私を犬の様に首輪とリードで拘束して連れまわしたりしません?」
「してみたいが、今は止めておこう」
「好みじゃないですか? 私」
「何故そうなる? さっさと鏡見てこい。夜目が効くから普通に見えるだろ?」
「あ、そう言えば結構暗かったのに、はっきり見えてますね」
「その姿になった事による特典みたいなもんだ」
「あ、私、絶対これ、秋葉に行ったらスカウトとかされるかな?」
「夢いっぱいだな。強く生きろ。じゃぁな俺は帰る」
「え? 私放置されるんですか?」
「プレイみたいな言い方するんじゃねぇ」
「名前聞いても?」
「秘密だ里香」
「え? 私名前言いましたっけ?」
「見えた」
「覗きですか? 通報しますよ」
「めんどくせぇな里香」
「リカリカ呼び捨てにしないで下さい」
「じゃぁな里香」
「また言ったぁ。駄目です。逃がしません」
「とりあえずここに居ても何も進展がないしな。外に出るがどうする?」
「あの? 連れて行ってください」
「外凄い数のモンスター居ると思うぞ?」
「でも出るって言ってるくらいだから、何とか出来るんでしょ?」
「俺だけならな」
「死にたくないです。私、料理得意です。役に立ちますよ?」
「そうか、ちょっと家族も心配だし、取り敢えず何とかするが、安全な所まで出たら後は強く生きろ」
「え? 連れてってください」
「だって、いきなりケモミミ女連れて歩いてたら、友達いなくなりそうだから」
「あの? 友達なんていないでしょ?」
「え? なんで解る」
「だってパンティーかぶる知り合いとか絶対無理ですから」
「もういい」
俺は自分を鑑定してみて、エンシェントドラゴンが黒く表示されるのを確認できたので迷わず唱えた「トランスフォーム、エンシェントドラゴン」
その場で体調40mのドラゴンに戻ると一気にシャッターをぶち破った。
外には大量のウルフが居た。
「足に捕まれ里香」
「ひゃ……ドラゴン……」
「さっさとしろ置いてくぞ」
「ひゃい」
里香は足に乗ったが俺の脚に捕まる事は出来ずに、小指にしがみついた。
「落ちるなよ」
と言って羽ばたく風圧で一気にグレーウルフたちが舞い散る。道を埋め尽くすほどに居たウルフ達に向かって、ブレスを吐いた。1㎞程の距離に渡って道路上に居たウルフ達は消滅した。
車や街路樹も一緒に……
「化け物……」
「お前も見た目妖怪っぽいから変わらないだろ?」
そう言って大空高く飛び上がった。
既に陽は落ちている。
左手に海が見える様に飛べば、家まで戻れるはずだからな。
「ちょっとどこまで行くのぉぉおお」
「広島はもう無理だ」
俺達は防府に戻った。
真夜中だし、目立たないけど一応気を付けて競輪場の横にある野球場の中に降り立った俺は、トランスフォームを解除した。
当然俺は素っ裸な訳で足に捕まっていた里香の目の前に、剥き出しの俺の股間が現れる。
「キャァアやっぱり変態じゃん。それに前の行の地の文章で剥き出しの俺の股間って書いてたけど、剥けて無いんだからね!」
「ばっ失礼な事言うな男の純情を踏みにじると天罰が下るぞ」
「どうしよう……」
「ん? どうした」
「広島、私の家族達……友達も……もう会えないのかな?」
「ん、まぁ楽観的な事は俺には言えないが武装組織にでも逃げ込めてなければ難しいだろうな」
「武装組織って?」
「自衛隊とか警察、そうじゃ無ければ反社会的勢力の事務所とかかな」
「ねぇ、私みたいに偶然でもモンスター倒しちゃったら、みんなこんな風になってるのかな?」
「狼獣人か? はっきり解らないけどその可能性は高いな」
「ねぇいつまで堂々と素っ裸でブラブラさせてるんですか?」
「お前が話し掛けるから着る暇が無いんじゃねぇかよ」
俺は、収納から下着を取り出して身に着け、洋服も着込んだ。
「良い服着るんだね。お坊ちゃまなの?」
「いや、普通に親は地方公務員でお袋は専業主婦だ」
「じゃぁ何でそんなブランド物なの?」
「いや、あそこのデパートに一杯あったし、今更売れないだろ?」
「通報していい?」
「駄目だ」
取り敢えず顔見られちゃったし、俺の事秘密に出来るか?
「出来ないって言ったら?」
「もう一回広島に連れて行って落としてくるだけだ」
「解ったよ……」
「しょうが無いから家へ来るか? 両親も流石にこんな状況だから、文句言わないだろ」
俺は里香を連れて、家へ戻った。
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