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 カン、と、ストーブが乾いた音を立てる。

 彼女が部屋を出て行ってから三十分ほどが過ぎた。その間、テーブル席でじっと息を殺しているが、そろそろやるべきことをやっておこうと、席を立って洗面所のほうへと向かった。

 洗濯機の横の脱衣籠の中に龍也は目を落としていた。

 いったん玄関ドアのほうに向き直り、その場で体育座りをしてみる。

 目の前には、扉が開いた状態のペットゲートの入り口が見えている。

 問題なさそうだ。折りたたんだ脚を両腕で抱き、膝の間に顎を埋めた。

 冷気が尻から染み入ってくる。ストーブを近くに持ってこようかと思ったが、そうこうしている間にチィちゃんが戻ってきたらまずいことになる。

 下半身は冷えているのに頭はぼうっとしていく。小さく頭を振っては眠気を振り払おうとするのだが瞼は重くなっていく一方だ。

 こうなったらとにかく一回眠りに落ちたほうがいい。たとえ数分でも意識が飛ばせたらそれまでの眠気が嘘みたいにふっ飛び、すっきりと劇的に改善することが多い。

 ただ、その間にもしチィちゃんが戻って来て、部屋の中にいる見ず知らずの人間に気づいたら、また逃げ出してしまいかねない。何の為にこうやってドアの近くに潜み、戻ってきたチィちゃんの退路を断とうとしているのかがわからなくなってしまう。

 やはり、躊躇っている場合ではない。

 洗濯籠の中から彼女のパーカーを引っぱり出す。そのままそれを頭からかぶった。続けて手だけで籠の中を探る。デニムの生地が手に触れた。そこに到達するまでの間、妙にすべすべした生地の感触があったが、そのことは頭から排除するよう努めた。手を持ち上げると、掴んでいたのはジーンズの脛のあたりだった。ゆっくり、他の衣類が絡んでこないよう、静かに煽りながら引っ張り出していった。

 ジーンズを脚に掛け終わったところで猛烈な眠気が襲ってきた。

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