線香花火なのじゃ


 倉の掃除をしておるのじゃ。

 夏の暑さも大分落ち着いてきたのじゃ。年末にいっぺんにやると大変じゃしのう。

 昨日、久しぶりに泳いだから節々が痛いのじゃが、やらねばならぬ。


 時々お菊が簡単な掃除はしてくれていたので、さほどでもないのじゃ。

 書類の整理と、祭具などの点検と整理じゃ。

 

 掃除を終えようと思っとった時、コトっと、棚から小箱が落ちてきたのじゃ。

 開けてみると、線香花火があったのじゃ。

「いつの頃からあったのじゃろうか」 

 触ってみても湿気った感じがしなかったので、夜に皆でやってみるかのう。


 そして夜になったのじゃ。

「お菊ー。美影ー。一緒に線香花火をやらんか?」

 言うと、秒と掛からず美影がぼわっと現れ、お菊はいつの間にか蝋燭に火をともしておった。

「お主ら相変わらず早いのう」

 姉上は宮中に御呼ばれしているので、今日の線香花火は不参加じゃ。仕方ないのじゃ。

 

 みんなで屈んで線香花火を楽しむのじゃ。

 わりと火がチリチリパチパチと広範囲に広がるから侮れん。

 このグツグツとした小さい火球が、足の甲とかに落ちたら地獄じゃな。

 そんな経験ある童は結構おるじゃろうな。いや、そもそも今の童達は線香花火とかやるのかのう。

 いや、やるじゃろう。こんなに楽しいのじゃから。


「あっ! わらわの火球を奪っていくでない」

 

 わらわの線香花火の火球にお菊の線香花火の火球をくっつけて、みょーんと奪っていく。

 お菊の火球はほぼ倍になったのじゃ。

 わらわの火球は小さくなって、消えてしまったのじゃ。


「お菊殿。それをやると落ちますぞ」

 美影がそう言ったあと、お菊の火球もボテっと落下したのじゃ。

 お菊はあまり気にせず二本目に火を付けたのじゃ。

「あ、わらわもやるのじゃ。次は負けんのじゃ」 

 線香花火は儚さを感じさせるものじゃが、心が熱くなるのを感じる夏の夜なのじゃ。


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