Gが出たのじゃ
ふと時間が気になって時計を見たのじゃ。
壁掛け時計なのじゃが、その時計の影が出っ張っていて、何じゃ?と思ったのじゃ。
少し近づいて見ると、それは黒い……黒いあいつじゃった!
「のじゃーーッ!」
「御ひい様ッッ!」
畳の下から現れた美影が、シュッ――と、クナイを黒いゴキブリに投げたのじゃ。
そしてクナイがゴキブリを貫いたのじゃ。
「助かったのじゃ美影」
美影は「ふぅ」と短く息を吐いて、いつの間にか部屋の隅に居たお菊を見たのじゃ。
「お菊殿もくすくす笑ってないで助けて差し上げればよいものを。では、これにて」
「お菊~」
わらわがお菊を睨むと、テヘっと言う風にすっとぼけているのじゃ。
まったくお菊は。
わらわの慌てる姿を見て満足したのか、トコトコとクナイに貫かれている黒い奴のもとへ行くと、
クナイを抜いて綺麗にし、黒い奴の死骸を呪符で包んで燃してくれたのじゃ。
お菊は美影が居た事を知っておったのじゃろう。まったく。
わらわはゴキブリは苦手じゃ。一人で退治出来ぬわけではないのじゃ。断じて。
しかしのう。なんとおぞましき生き物よ。
天界にまで出てくるとは……。 こやつら、理を超越して生きておる。
太古の昔から生き残っておるしのう。生と死の曖昧なここに居ても不思議ではないのじゃ。
阿久多牟之(アクタムシ)、御器噛(ゴキカブリ)、いろいろと呼称が時代と共に変わり、今の時代はゴキブリじゃ。
ゴキブリは天界でも嫌われておるのじゃが、昔はわらわほど苦手な人間は少なかったように思うのじゃ。
まだ見ぬ弟子は、ゴキブリは大丈夫かのう……。
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