立秋なのじゃ


「立秋じゃのう」

 床の間に花を生けておったお菊に話しかけたのじゃが、返事をしてくれぬ。

 

 畳に寝そべりながら陽炎に揺らめく外を見たのじゃ。 

 暦の上では秋と言ってもまだまだ暑いのう。

 

「最近の陰陽寮では星を読む事より地上の衛星でテータをハッキングして

 暦を見定めておるそうじゃな?」

 お菊は聞こえぬ振りをして拭いている。


 天界に技術を持ってくればよいのに、そういう事は出来ない不思議じゃ。

 一体どこからどこまでが天界の理なんじゃろうか。

 弟子もわらわが選ぶと言っても、所詮天次第なのかもしれんのじゃ。


「この調子じゃ弟子候補は一人も来んかもしれないのう」

 何でもかんでも暑さのせいにしたくなるのじゃ。


 雑談と言うか独り言と言うか、会話を返してくれないお菊が、寝そべるわらわをずるずると引きずって、文机の前に起こした。

 わらわの両肩をポンと叩いて耳元でごにょごにょと言ったのじゃ。

 わらわは若干の恐怖を感じたのじゃ。

 「わかったわかった。書く。書くのじゃ」

 お菊はにっこりして部屋を後にしたのじゃ。


http://gineiroku.web.fc2.com/deshi.html



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る